24.香る時
「――あの時の、配達の方......ですよね? コンビニで、ご迷惑を掛けてしまった......私のこと、覚えてますか?」
月が暗闇を晴らすと、そこにいたのはいつかの美しい女性だった。月明かりの淡い光で、幻想的にも思えるその美しさにただただ見とれてしまう。
まるで――小説に登場する、美しい妖精にも似た美しさ。
「......あ、あの? どうしましたか......?」
「え、あ......すみません、少し驚いてしまって。 こんな所でまた会うなんて。 びっくりしてしまいました、ごめんなさい」
彼女は柔らかく笑みを浮かべる。――あの時は勤務中だったし、時間もなく急いでいてちゃんと見ていなかったけど......こんなに綺麗な人だったのか。
「ふふ、ですね。 あのときは助かりました......本当に、ありがとうございます」
「あ、いえ、大したことはしてないで......す」
え、何か重要な事忘れてない?何だろう......このもやもや。何か忘れてるような気がする。
女性は指をちょいちょいと真城(仮)さんの方へさした。
「この人、私の兄なんです。 ......ケンカして家を飛び出して、こんな所でお酒飲んでたんですね。 しょうがない人です、ふふ」
ケンカして家を飛び出してきた?何か聞いた話だな......いや、まあ、そりゃ聞き覚えあるわな、だってその兄捜しに俺はここまで来たんだから!
え、てことはこの人を真城(兄)だと仮定したとすると、こちらの迎えにきた女性=真城(妹)って事になるんだよね。あってるよね、これ?兄妹二人暮らしって言ってたし。
え、じゃ、じゃあ......この人、もし真城(妹)さんだとしたら、いつも通話してるあの
この人がVTuber、白雪 ましろさんで、真城 雪さん?
こ、こんなに綺麗な人だったのか......!!
......人違いではないと思う。この声質......話し方で少し雰囲気が違うけど、いつも話をしている真城さんと同じだ。
「んー......ぐ、っく......重たいっ」
彼女はおもむろに真城(兄)さんを背負おうと腕をぐいぐいとひっぱりだす。しかし、男を女性が背負うというのは結構な難易度で、基本ひきこもりの真城(妹)さんは腕を肩に乗せた時点で、息があがっていた。
無理そうだな......このまま置いとく訳にもいかないし。俺が背負うか。お礼って訳でもないけど、真城(妹)さんにはお世話になってるし。人生救われたレベルで。
「俺、背負いますよ」
「へ?」
きょとんとした顔を此方に向ける。くっっっっっっっ
――っそ可愛いいいいいいい!!!!
「俺、いつも配達で重いもの持ってるんで力ありますから......お家まで背負えないでしょ? 俺が運びますよ......嫌でなければ」
「え、えと、えと......そんな迷惑かけられない、です。 この間のお礼だって出来てないのに......また助けられてしまうと、私、どうすれば良いのか」
「いや、助けられてるのは......」
――俺の方だよ。と、いいかけ言葉がつまる。
言いたくない。俺がいつも通話で話をしているnoranukoだと気づかれたくない。
だって、この身体......この脂肪にまみれた身体に、メガネにかかるまで伸びきった髪。
嫌だ、幻滅されたくない。
「いや、まあこんなのお安いご用です......大丈夫ですよ!」
「......う、うう。 ありがとうございます......」
真城(兄)さんを背負い、レンガ造りの道を歩く。真城(妹)さんの横隣に並ぶと、卑屈な気持ちがじわじわ涌き出る。
――恥ずかしい。とても。
「......ごめんなさい、重たいですよね。 もう少しなので、すみません」
「え? あ......大丈夫です」
俺は、この人にどう見られたいのだろう。
真城(妹)さんが俺に飽きるまで、ずっと通話やゲームをしてゆっくりと幸せな時間を過ごしたい。その幸せを抱えて眠りにつくように終えたい。
本当にそうだろうか。
さっき確かに感じた卑屈な、心に小さな穴のあいたような......あの気持ちは......。
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