最終話.一樹と雪の結び咲く花。
ビルの上、電光掲示板に流れる映画の広告。
ド派手な爆炎と、美しい幻想的な紅い月。
その映像美が光る映画タイトル、それは――
『大ヒット! ラストファンタジア、上映中!!』
あれから半年、ネット小説サイト『なろう』から発信の作品ともなり、話題が話題を呼び、人気に火がつくどころか火炎放射機で燃え上がらせたレベルの爆発力で世間を賑わせていた。
異様な人気に普段アニメやマンガ、小説を読まない人まで興味を持ち、とてつもないモンスター級のライトノベルとなったのだ。
『お兄ちゃん!! すごいね、めちゃくちゃ人気なんだけど!!!』
「お、おおう!」
『大ヒットおめでとーー!!!』
「......あ、ありがとう。 照れくさいな」
『いやいや、照れてる場合じゃないよ! マジですごいよ!!』
妹の燈夏から連絡がきた。この半年間で妹は昔とまではいかないけれど、仲良くしてくれるようになり、よく通話するようになった。
『映画もすごいヒットだし! アニメも順調だし! お兄ちゃんのVTuber活動も今や登録者100万人だし! 本当にすごいねえ!! 私も鼻高々だよ~!!』
「ああ、お前が誇らしいなら俺も嬉しいよ。 応援してくれてありがとな」
『ふふーん、まあ、私のお兄ちゃんだからね!』
「せやな」
軽口を叩きながらも燈夏がこれだけ喜んでくれて、本当に嬉しいな。
......太一は言っていた。俺ほど妹の事を想っている奴はいないと。
詳しくは教えてくれなかったけど、あの勝負は雪の力を公に認めさせるためのものだったに違いない。
だから太一は自分と秋乃をこえられると信じてあの大きな舞台で勝負を挑んだんだと思う。
そしてその一番の目的は、けんか別れをしていた真城家の人に認めさせる事。
現に結婚の報告をしに雪の実家へといったが、すんなりとそれを認めてくれた。
それどころか雪はあの頃の事を謝罪されていた。
それもこれも太一が少し前に同じく帰ってきていた事に理由はあるんだろう。
多分、おそらく......。
妹をもつ兄どうしだからかわかる。
◇◆◇◆◇◆
『おいいいいっ!!! なんでだよっ!!!!』
画面の向こう、高らかに大人気VTuber、白雪 ましろの叫び声が響いた。それにかぶせるように同じく大人気VTuber、神木 秋乃が叫ぶ。
『ふっふっふ......はーっはっはー!! その程度の腕で私と「怪物狩人」で張り合おうだなんて......ちゃんちゃら可笑しいですわ!!』
『いや、これ共同プレイなんですが!? つまり私とあなたは仲間!! 足を引っ張ってどうするんですかッ!! あなたゲームの趣旨おわかりです!?』
ましろの怒濤のツッコミが炸裂した。すると秋乃が得意気にかえした。
『当然! これは馬鹿弟子の教育よ!! ......最近、なんだか冷たいし。 悔い改めなさい!!?』
『ふつーに寂しいと言えええええっ!!!!』
《――
《ちょwww
《なにしてんwww
《wwww
《w
《初コラボでこれは草
《www
《いやw
《師匠ww
《弟子のがまともだな
《wwwwwwww
《これは次のnoranukoとのコラボが楽しみ
《いやいやいやww
《おまw
《――
◇◆◇◆◇◆
暗い寒空の下。
ぼろぼろになった衣服はもはやなんの匂いかもわからないくらいの悪臭。
俺は......そう、おれ槙村の人生はまだ続いていた。部屋も借りれず、実家にも帰れず(勘当)......ふらふらと寒空の下を歩き回る日々。
「どうして......こうなった......」
ちなみに俺のしでかした事により、元いた配達会社はヤバい事になっているらしい。具体的には営業停止とかそんな感じだ。
「どうして、どうして......」
『......――驚異的な、人気をはくしてますね! 私も映画から入り、小説を読んでみたのですが、手に汗握る展開ばかりでとても面白い作品でした!』
そらからふる音に気がつく。天をあおげば巨大な電光掲示板に『ラストファンタジア』と大きくタイトルが書かれていた。
「......これ」
あれからいくつかの時がたち、ある人物からこの作品の作者が誰かを聞いた。
これを書いた人物、それは、noranuko。
本名
葉月 一樹。
あの時、金見の言っていたのは、これだ。
奴がおこなっているVTuber活動を試聴したことがある。間違いなく、葉月 一樹の声だった。
これは紛れもない事実。そして、変えられない現実。
俺は......俺の今までの人生は、もし、葉月 一樹のように......才能があり努力し、自分を信じて頑張り続けていたら......あんな風になれたのか?
――地面に落ちた影に、ポタポタと吸い込まれる涙。
いや、無理だ。俺には、あんな才能も力も勇気もない。
最初から勝負などになっていなかったんだ。
ふと触れる頭皮。
「......ははっ......はははは」
ショックかストレスかは定かでないが、俺のあたまは禿げ上がってしまった。
あれほど手入れをし、綺麗にケアしていた......俺の髪も数十本を残し全て消え去った。
よろよろと歩き、先のない未来をさがし続ける。
俺は......どこへむかう?
いつまで、こうして......
どこへ......
うつむきながら歩いていると、足元に書かれていたスプレーの数字が目にはいる。
9......いや、逆位置の6か......
――ドンッ
あ......や、やばい
「お、いてえな」
「くさっ! なんだこいつ、くっさ~」
「キモチわりいな」
「つーか、人にぶつかったら......ねえ?」
「あ? 金ねえ? 嘘つくなよ、くそハゲ~......オラッ」
バキッ
「あらら、泣き出しちゃった」
「はははははウケる」
「あははははは」
「はははははははは」
「あはははは」
「や、やめて、やめてくだたい」
「くだたい!」
「くだたいだって! マジでうけるんだけど!!」
「こわくて呂律まわってねー」
「あはははは」
「うははは」
「ふひひひひひひ」
「ゆるしてすみませんすみません、すみません......どけざ、どけざしまっ、ぐふっ」
ドカッ――
バキッ――
......
......
◇◆◇◆◇◆
~三年後~
――ガチャ。
「一樹ただいま~!」
「たでまー!」
声をきき、文字を打つ手を止め二人を見る。
「おかえり、雪、結花」
にこりと笑う雪と、うん!と満面の笑みを浮かべた結花。
「おー、可愛いね結花の髪型。 金見さんやっぱり髪切るの上手いな」
「ね、春音ちゃん凄いよ。 結花もすごく懐いてるし、いっぱいお喋りしてたよ~。 ね、結花?」
「うん、春ちゃんだいすき!」
にっこり微笑む結花。
金見さんは俺が会社を辞めたあと、ほぼ同じタイミングで金見さんも辞め、実家の美容院をついだ。
そのお店も彼女が描いたラストファンタジアの絵が飾ってあり、俺の公認で行きつけのお店ということもあって大人気だ。
まあ、金見さん腕いいからふつーに人気店になっていたと思うけど、とそんな事をいったことがあるけど、「私がこんな風に変われたのは、葉月さんのおかげですからね」と返された。
......誰かの為になれていたというのは嬉しいもので、ついつい浮かれてしまう。
けれど、それがそうかどうかはともかく、あの時の恩返しが少しでも出来ていればと思うばかりだ。
――ふと腹に目をやる。
おデブだった頃を思い浮かべ、懐かしく想った。
けど、俺が変われたのは君のおかげでもあるんだよ。
「あ、そーだ、結花ちゃんとお手て洗おーね」
「はーい!」
とてとてと走る結花は、小さな花柄のワンピースをヒラヒラさせながら洗面台へと向かう。
「こーら! 走らないのー! こないだ転んだばっかでしょ!」
「あはは」
「おい、笑ってんじゃないよ! パパなんだからちゃんと叱ってよ、一樹!」
「あ、ごめんごめん。 そーだ、結花~、お菓子食べたくない?」
バッと振りかえる結花。その瞳は闇夜の灯りになるレベルの輝きがやどっていた。
日の出よりも眩しいかもわからん。
「お、おおおおお、おかしーッ!! 食べたい!!」
この小さな体を、ぐぐぐぐっと屈めるのがかわいい。これが最大級の喜びの表れである。
「じゃあ落ち着いてゆっくりお手て洗いに行こうね」
「あい!」
小さな両手をぶんぶんふり、てくてくと歩き出した。
「これでオッケー」
「食べ物の効果がでかすぎるなぁ」
「雪に似たのかな」
「おいッ」
ギロリと視線を向ける雪をかわすように、俺は明後日の方を向く。
そしてふと雪は気がついた。
「あれ、ていうか......買い置きのお菓子なんかあったっけか?」
「うん。 冷蔵庫に一つプリンがあるよ」
「そ、それ、私のでしょー!!!」
「あはははは」
洗面台から結花の声が聞こえた。
「ぷ、ぷぷぷぷ、ぷりんッ!」
ターゲットは妻のおやつへと無事ロックされたようだ。
ふと気がつけば1と指で結花が指し示す。......1か、うん。
そして俺は、プリンに興奮する愛娘と青ざめた愛妻を横目に、新しいノアの旅を再び書き始めた。
~おしまい~
これで一応完結です!これまでブックマーク、評価、感想や閲覧数で支えてくださった皆様本当にありがとうございました。
この後も、もしかしたらたまに番外編で新しい話が更新されてるかもですが、気が向いたらチェックしてみてください。
とりあえず、これにて『陰キャデブな社畜、知らぬ間に美少女VTuberを救う』はおわりとなります。
本当にありがとー!
告知!
次回作は2/10の12時~予定です!タイトル↓
「ダンジョンの秘宝により呪われた白魔導師は、弱点である魔力不足を克服し最強へと至る。【ユグドラシルの迷宮】」
よければ読んでみてください!よろしくお願いします!( ノ_ _)ノ