99.最期の夢
それから太一と秋乃の大々的なプロモーション活動が始まった。
自分たちが今までに培った全てを、文字通り全ての利用できるものを活用し、小説の売り上げへと繋がるように立ち回っていた。
「すごいな......テレビでも取り上げられてる」
「うん。 まあ、お兄ちゃんあれで有名アーティストだから......こうなったらそのファンの人たちも小説買うんじゃないかな」
「ああ、そうだな」
そして、いわずもがな秋乃の作品ファンは勿論、VTuberであると公表しているからそのファンも。
少なくとも二人のYouTube登録者数の合計はサブ含め約1000万人は越えている。
......勝ち目あるのか、これ。
「お兄ちゃん、なに考えてるんだろうね」
「......うん」
突如としてあらわれた強大すぎるライバルの存在。なすすべもなく、俺たちは終わるのか......。
その時、携帯が震えた。
名前をみると担当さんだった。
『あ、もしもしnoranukoさん! すごいですよ、決まりました!!』
「決まった......?」
『はい! すごいです! ラストファンタジア、映画とアニメになります!!!』
「......ん?」
『映画とアニメですよ!!!』
マンガ化してないし、まだ小説発売してもいないのに!!!??
「ど、どどど、どういう事......冗談ですか」
『冗談でこんな事言わないですよ!』
なぜそんな事に......展開がぶっ飛んでやがる。
『今、あのアーティストがあなたの事をライバル認定して取り上げてるじゃないですか! これを利用しない手は無いとかってはなしで......内容的にもヒットするだろうから、勝算の高い勝負だと判断されたようです!』
「そ、そうですか。 ありがとうございます......嬉しいです」
『嬉しいですね! 頑張ってきて良かったですね! noranukoさんがこれ程までに認められ評価されるのはとっても嬉しい......担当として、これほどの嬉しい事はないですよ!!』
「......はい、頑張ります」
『ええ、頑張りましょう!』
また、火が灯り熱が生まれる。
まだ何かできるはずだ......
「一樹......担当さん? 何かあった?」
雪と二人なら、必ず勝てる。
「アニメと映画決まった」
「......ん?」
キョトンとする雪の表情にニヤリと返す。
「太一と秋乃に......勝つぞ」
そして担当さんに許可を貰い、なろうへ短編を五つあげた。そのいずれもラストファンタジアの主要キャラクターのサイドストーリーと過去の話を深掘りした小説だ。
昔から作品を見てきてくれた人へ対する感謝の意を込めたモノになっている。
散りばめた伏線の回収をしていて、これは感想欄にきていた答えたくても答えられなかった質問の答え、伏線の答えだ。
ずっと俺の話を好きでいてくれた人たち。
売り上げは大切ではあるが、きっと本当の勝敗は数字では計れはしない。
ここで例え負けたとしても、ここにある彼らの想いの力はこれからもずっと俺を動かしていく。
「雪、その練習で描いてるイラスト、つかわせてもらっていいかな?」
「え、ならちゃんとかきおろすよ」
「それが良いんだ......ダメか?」
「? わかった」
深夜、雪が寝息をすー、すー、とたてている。
ひとつの明かりを頼りに、俺はストーリーという道を歩いている。
小説は何も見えない闇を照らし歩く冒険だ......その先に何があるかもわからないが、先人の残した記録を頼りに、夢を原動力に歩き進んでいく。
途中で力尽きた人は数知れず。
足元に転がる破れた何か。
ふと前をみれば誰かが立っていた。
『ここまで......本当に長く苦しい道のりだったね』
――ああ、うん......確かに。
最初の頃に初めて打った文字......俺は、あそこから歩き始めて今ここまで、きた。
長かった......途方もない時間が、どんどんと溶けていった。
『ふふっ、でも......ここまでちゃんと来られた。 君はすごいやつだ』
ぷっ、自分の作り出した主人公にほめられるってなんだか可笑しいな。
でも、ありがとう......お前にはずっと助けられた。
『ううん、僕だけじゃない......でしょ?』
はっ、として振り返ると、そこには彼らがたっていた。
そう、今までに書いた多くの作品。そのキャラクター達が。
ずっとずっと見守っていてくれた。
『みんな、応援していたよ』
笑う皆の顔をみて俺は、泣きそうになり必死に笑顔をつくる。
そしてゆっくりと頷き、彼らに想いをかえした。
「俺を支えてくれて、ありがとう」
◇◆◇◆◇◆
そして、太一と秋乃の制作したラノベが発売された。
収録された朗読音源は付属させず、YouTubeの秋乃のチャンネルで公開された。
売り上げは勿論、その再生回数もとてつもない数が回り、あらゆるSNS上の話題を独占した。
ラノベでのこれ程の盛り上がりをみせるのは、もはや奇跡的な事であったが、太一と秋乃の活動範囲の広さを考えると当然とも思えた。
「一樹、どうだい。 楽しんでるか?」
「太一......すごいな。 これがお前らの本気ってやつか」
「ああ。 けれど、これはお前らのおかげでもあるんだぜ?」
「俺たちの?」
「これ程小説と音楽、音声との相性が高い事を知れたのは一樹と雪の作品をみなければ知り得なかった......だから、ありがとうと」
「ああ、そっか」
でもあれは雪が......。いや、違うか。二人のだよな。
「けど、太一......」
「?」
「勝つのは俺と雪だ」
「......!!」
翌日、『ラストファンタジア』が発売された。
そろそろ最終回付近です。
ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。感謝です!
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次回はハイファンタジーを書きます。ヒーラーの最強チート、ダンジョンもあります!ちなみに武器はダガーナイフ一本。ざまぁ有ります!
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