89.伝心
――ポロッと、燈夏は唐揚げを落とした。
その手には何もつかまれてない箸があった。それと同様に表情の固まる親二人と妹。
「......書籍、化? 本、出すの? お兄ちゃんが?」
「あー、まあ」
俺がなろうで執筆していることすら知らなかった家族。しかし、雪の何気ない小説の話題に食い付いた三人が深堀をしはじめ、今度書籍が発売元されるという話に。
「あ、あの、一樹......この話題、ダメだったかな」
「いや、俺がなにも言ってなかったから......」
「え、おまえ、本当なのか? 本出すって」
「一樹、それ騙されてない? 大丈夫なの? お母さん心配」
「お兄ちゃん、それ騙されてるって」
おうおう、好き勝手言ってくれんじゃん。
「ふふっ、そんな事ないですよ。 私も一緒にお仕事させていただいてますけど、大丈夫だと思いますよ」
「え、どゆこと?」
雪の言葉に燈夏は眉を潜めた。
「うん、私、一樹の本のイラストを担当しているから」
「「「えっ」」」
え、マジで?と言う三人ににこっと微笑みで返答する雪。
「雪さんはイラストレーターさんでしたか! いやぁ、凄いですなぁ」
「本当ですねぇ、お父さん」
「......じゃあ、なに? お兄ちゃんとはそれで知り合ったってわけ?」
雪の本職がVTuberだとは言えない。だったら、イラストレーターでそれで知り合ったというのがやはり無難だろう。
その方向でいくか!
「あー、ううん。 私はただの一人のファンだったの」
「え、え、ファン? よくわからないんだけど......お兄ちゃんだよ? そんな底辺にファン??」
「オイ」
底辺って......いや、まあ、あの頃はまだ底辺だったけれども。なんか言われるとむかつきますねえ?
「底辺なんかじゃないよ」
と、にらみあう俺と燈夏の間に、雪が言葉を挟む。
「今、お兄ちゃんのフォロワー(※ブックマーク)どのくらいか知ってる?」
「えー? 10とか? 多くても20とか?」
燈夏はそんなもんでしょ?と頷く。
「いやいや、書籍化のお話がくるくらいだろう? 100くらいはあるんじゃないのか?」
と、親父が顎に手をあてながら言った。
雪はにやにやしている。うーん、このイタズラな顔も可愛い。
「――32000」
「「?」」
キョトンと親父と燈夏が表情に「?」を浮かべた。
そして雪はもう一度つげた。
「お兄ちゃん、一樹のフォロワーは32000だよ」
「「さ、32000!!!??」」
「あらあらまあまあ」
「ふひひっ」
「......」
なにこれ恥ずかしい。雪のどや顔がものっそい可愛いでござる。
「まあ、だから、お兄ちゃんの作品を応援してくれてる人が32000人いるんですよ。 だから、底辺じゃないし、むしろ大人気作家なんだからっ」
「え、ええ......」
「お、おまえ、そんなに期待されてるのか......凄いな」
「ふふ、あらあらまあまあ」
ぐ、ぐぐぐ......やっぱり、恥ずかしい。けれど......
――雪の嬉しそうに笑う横顔。この気持ちは。
誰かに誇らしく語られる事。まるで自分の事のように自慢してくれる事......
作品とそこにいるキャラクター、全てが肯定されているようで
幸せな思いになる。その時、英雄の笑顔が頭の隅を過った。
――俺達、皆頑張ってきたよね。と、彼に言われた気がした。
「は、話って......書くの難しいんだよね、やっぱり」
「まあ、あれだけの文字数を書くのは内容はどうあれ、それだけで大変だろうなぁ」
燈夏の質問に対して親父がこたえた。
「そ、そうだよね」
「ああ、たいしたやつだよ」
「それに、みなさん一樹の書いたお話が好きで応援してくれてるんでしょう? それって凄いことじゃない? 人の心を動かしてるんだから......ね、一樹?」
母さんがニッコリ微笑む。
「あ、あ......まあ、そっかな」
「キョドるのキモッ」
「オイ」
「でも」
「すげーじゃん......お兄ちゃん。 カッコいいよ、ふん」
(ふん?)
俺は数年ぶりに、燈夏の笑顔をみた。
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