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88.妹

 


『――だれ?』


 扉の向こう。燈夏の声が聞こえてくる。


「あ、俺。 一樹」


 返答すると、少しの間のあとまた妹の声が聞こえた。


『......え、だれ?』

「オイッ」


 話する気ないのかこれは。


「えっと......ごめんな。 急に雪を連れてきてさ......困るよな」

『......別にいいよ。 おめでとさん』


「あ、ありがとう」


『ほら、もう良いでしょ。 ご飯はいらない。 お母さんに言っといて』

「え」


『お腹すいてないもの』


「そ、そうか......わかった」


 お腹すいてないと言われてしまえば、何も言えないよな。

 無理矢理食べさせるって訳にもいかないし。


『ぐぅーっ』


「え」

『あ』


 ......。


 約三十秒の沈黙。それはどう聞いても空腹を訴える燈夏の腹の音であった。


 俺は再度扉をノックする。


 ――コン、ココンコン、コンコン......ココン♪


『うるせえ!! なんでリズミカルなの!?』

「いや、おまえの腹の音に対する壁コン☆アンサーソングを......」

『奏でてねーわッ!!』


 やべえ、笑いそうになる。


「いや、でもお腹空いてるんだろ? 一緒にご飯食べようよ」

『でも』


 煮え切らない妹の態度に俺は昔を思い出す。


 どうしてこんなにも壁ができてしまったのか。何が原因でここまで意地をはっているのか。


「あのさ......本当に、ごめんな」

『雪さんの話はもういいよ』

「いや、ちがくて」


『......何?』



 心当たりは一つだけある。



 あれは俺が高校に入学した頃、そこで出来た友達と遊ぶ事がとにかく楽しくて......燈夏をほったらかしにしていた。


 今思えば、妹はあの頃からずっと寂しかったんだと思う。


 親が共働きの俺達兄妹は、基本的に俺が妹の面倒を見てきた。

 それは幼稚園に始まり、小学生、中学生とずっと側にいて一緒に遊んではケンカして、仲直り。


 そのせいかそこら辺の兄妹よりも仲が良かったかのようにも思えた。



 だから、そう......心当たりというのは、もしかすれば自意識過剰で、的外れな事かもしれない。


 目をそらしてきた、見ないふり。


 彼女のその目に映るモノの熱を、俺はきっと......確かに知っていた。理解していたんだ。


 なのに、何かになすりつけ誤魔化してきた......そうだ。



 妹はいつも言っていただろう。



 ――お兄ちゃんの、一樹のお嫁さんになりたいと。



 多分、それが答えだろう。



 ......間違えていたら、羞恥心が全開の精神的メルトダウンな件だが。




「......別に、おまえの事を忘れたりするわけじゃない。 その、今まで音沙汰もなく、全然帰ったりしてなかった俺の事なんか信用できないかもしれないけど」


『......』


「燈夏の事は......大切に想っているよ」



『......』



「......一緒に、おまえと一緒に夕飯......食べたいよ」



『本当に?』



「......うん」


『本当に大切なの』



「大切だよ」



『......わかったよ』


「うん。 先行ってるから」


『お兄ちゃん......一樹』


「ん」



『ありがとう』



「......うん」




 昔、妹がまだ幼稚園のころ。



 俺はクレヨンで絵本を作ったことがあった。



 青と赤と黄色と黒。


 世界を描いて、つたない言葉で綴る物語。


 きっと今見ればぶかっこうで、崩れかけの世界だけど......でも、確かに妹は言ってくれていた。



 小さな燈夏は、「兄ちゃんのお話、楽しいね」と。



 俺の始まりはそこだったのだ。妹がくれた、一番初めの、はじめての感想と笑顔。


 今まで忘れていたと言うのに、今でははっきりと鮮明にあの笑顔が胸の奥に見える。


 ブラックな労働でも、心底に小さな燈が灯っていたから俺はきっと暗闇にも迷わず歩いてこれた......。


 だから、大切な人なんだ。


 俺は彼女を嫁には出来ない。真っ直ぐにはやはり見れないだろう。


 けれど、兄として受け止めるその力は、今ならある。あの頃、俺を受け止めてくれた燈夏のように。




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