男装王女とシロブタ公爵
「殿下、そろそろご結婚などお考えになられてはいかがか」
それが出来ないこと位わかっているくせに、私の目の前の剥げ頭は一体何を言っているのか…
この男が歴史ある我が国の宰相でなければ怒鳴りつけているところだ。
柄にもなく興奮してしまったが、私は名をアルタスと言い、大陸の東沿岸部に位置する国ラフレスの王子だ。
現在18才。父は5年前に亡くなっているのだが、事情がありまだ即位には至っていない。
ただ、たったひとりの王子として実質的に国の政治を主宰している。
残念ながら力不足は明らかで、やっていることは父の政治を忠実に受けついでいるだけではあるが、宰相のドレーブたちに補佐されてなんとか今日まで国をまとめてきた。
今年などは長く続いた日照りのせいで例年に比べて作物の実りが極端に少なく、備蓄も底をつきかけている。
すでに北部山岳地帯では飢饉が発生しているとの報告もあり、その対応に頭を悩ませる毎日だ。
そんな私には人に言えない秘密がある。
ごく限られた側近しか知らない。
実はアルタスの他にもうひとつ名前がある。
その名はアルマ。
そう、王子を装ってはいるが本当の私は女なのだ。
ごくまれに母の元で男装を脱ぎ捨てて、女性としての所作を学んだりすることがあり、それを見た待女たちは「なんとお美しい…」と褒めてくれたりするから、幸い美形の血を受けついでいるようだ。
仕方なかったらしい。
出生当時の混乱した政治情勢がどうしても跡継ぎを必要としたため、女性として生まれたにもかかわらず王子として育てられたのだ。
話しを戻そう。
為政者として臣下の言葉に耳を傾けることも大切なこと。
「どこかの国から婚姻の申し込みでもあったか?私の知る限りでは近くの国には妙齢の姫はいないはずだが」
「いえいえ、姫様からではございません。殿下はこの前の舞踏会にも出席されていたバラレイ国の公爵を覚えておられるか?」
「あ~、あのシロブタ公爵」
「まあ、口の悪い者たちはそのようなあだ名で呼んでおりますが、そのロドリー公爵から、舞踏会でダンスを共にした娘を是非嫁にしたいと正式なルートより申し出がございました」
「……」
「先の王妃の姪アルマと名乗ったと言いますから、殿下のことで間違いないかと」
「……」
「複雑なお気持ちは理解いたしますが、私の立場としてはお耳に入れない訳には行きませぬゆえ。もし望まれるのであれば、その日の名で公爵の元へ送り出しましょう」
頭がくらくらしてきた。
話は一月ほど前に遡る。
我が国は隣国バラレイから極めて重要な使節団を迎えた。
その団長こそが、かの国の王弟ロドリー公爵である。
なぜ重要かと言えば、待ち望んでいた大量の作物を緊急の援助として運んで来てくれたからだ。
なんとか冬は乗り切ったが飢饉が間近に迫っていた。
それほどに不作は深刻だった。
大陸一の良港を使った海外貿易の利益で金銭に余裕があり、かなりの高値を提示して作物の買い付けを進めているが、まだ必要量を確保出来ていなかった。
そこで頼ったのがバラレイだ。
我が国の北に位置するこの国は、ほぼ同じような広さの領土と人口を持つ。
隣国で国力が近いと仲が悪くなるのが通例だがそうではない。
西に大国トリスタンがありそこに対抗するため友好を深めて来た。
トリスタンは人口が多い上肥沃な平野の面積が飛び抜けて広く、大陸では最も豊かな国と言われている。
常に上から目線のややこしい国で反抗するとすぐ兵を越境させてくる。
現国王は先祖代々からの悲願である3国統一の夢を捨てていないと聞こえてくるから今も油断は出来ない。
もし弱小2国の関係が少しでもギクシャクすると必ずや、つけこんでくるだろう。
その意味でバラレイは我が国の防衛にとって最も重要な存在なのだ。
一方で、決して警戒を緩めてはいけない国でもある。
万が一我が国を併合すれば待望の港を手にすることになり、弱点とされる経済面が強化され国家として飛躍する。
王はなかなかにしたたかな人物だし、元々兵は3国の中でも最強だ。
そんな訳だから我が国は使節団を最大級でもてなした。
しばらく開かれていなかった、大がかりな舞踏会も開催された。
私がドレスを着て参加したのは母の願いだった。
「貴方が男性と踊る姿を一目でいいから見てみたい。皆には私の姪と伝えておきます」
そう言いながら煌びやかな刺繍で彩られた青いドレスを私に届けた。
いくら母の願いとはいえ乗り気ではなかったが、その日意を受けた待女たちによってあっという間にコルセットを付けられてホールに連れ出された。
これまでもドレスを着ることもあったがすべてごく近しい女性の前だけ。こんなに多くの臣下の前に出るのは当然はじめて。
ただただ恥ずかしくて下を向いていると声がかかった。
「踊っていただけませんか」
シロブタさんからだ。
断ることなど出来るはずはない。
国の立場を誰よりも理解しているがゆえだった。
私は母から教わったダンスでなんとか乗りきった。
最初は緊張していたが、公爵の目を見ているとすぐ落ちつくことが出来たから不思議だった。
とかく噂の多い人物だ。
その最大の要因は彼の見た目による。
身長こそ普通だが、横幅は平均の倍はあるだろう。
そしてたっぷりと贅肉の詰まったポヨンポヨンのお腹。
加えて顔立ちも独創的で目は形と言うより線だ。
舞踏会のような席への出席は珍しく性格は謎だが、「冷酷非道」とも囁かれている。
実年齢より上に見えるが現在25歳で王族の成人としては極めて珍しい独身。
あくまで噂だが、釣り合いの取れそうな貴族の娘たちは皆、10才になる前に結婚を決めてしまったのだとか。
愛する娘の圧迫死を恐れてのことらしいが…
「困りましたな~」
「たしかに」
「もし拒否しましたら外交上極めて難しい立場になるのは必定。かなり無理な援助が実現いたしましたのも、あの方のお力添えがあったゆえ」
「……」
「しかし殿下が女性としてご結婚されてると国は世継ぎがいなくなる」
ドレーブのため息が私の執務室にこだました。
「やはり、何とか上手く取り繕ろってお断りするしかありますまい」
「そうしてくれ」
私もそれ以外の考えは生まれなかった。
「わかりました。では後は臣にお任せを。舞踏会の日に依頼したさらなる援助分は何とか他国からの買い入れで賄いまする」
「大丈夫か?」
「お約束出来ませんが当たってみまする。殿下を女たちから毛嫌いされている者に嫁がせる訳にも行きますまい」
「いや、待て」
「どうかされましたか」
「男装の王女とシロブタ公爵なら案外お似合いかも」
無意識にそんな言葉が口をついた。
私自身は公爵に悪い印象を持っている訳ではない。
正直に告白しょう。
私は常々母などから美意識が人と違うと指摘される。
厳しかった父が端正過ぎる顔立ちだったのでその反動が出たのかも。
どちらかと問われれば見た目は好みなのだ。
小さな目も、太きなお腹も、テカテカのお肌も愛おしい。
ダンスの後も知らない間にその姿を目で追っていた位だ。
しかし女性としての気持ちは封印して久しい。
揺れていた。
「ご無理は為さらずに。殿下にこれ以上のご負担をかける訳にはいきませぬ」
「そうか…」
「はい、お任せを」
さすがに見た目がタイプとは言いづらい。
「あの方はそんなに女たちに嫌われているのか?」
「男の私にはわかりませんが、女たちの中には床を共にするのなら死んだ方がましと言う者もおるとか。まして結婚となればその血を受けついだ子を生涯に渡って育てることになります」
(ああ、それはなんて素敵なこと)
「女たちはそんなことを言っているのか。ではそなたの目にはどう映る?」
「極めて優秀な方かと。私にとっては手強い交渉相手です」
「……」
「それと、使用人の作った料理を残すことが出来ずにお太りになったとの噂もありますから、案外優しい方なのかもしれません」
(ますます惜しい~)
結婚出来ればきっと楽しいだろう。
そんな妄想が広がり、教会で大きな身体の横に寄り添う私の姿が目に浮かぶ。
思わず顔もほころぶ。
「殿下、いかがなされたか」
まずい。かなり締まりのない顔を臣下に見られた。
現実に戻ろう。
いくら心引かれようと現在この国の世継ぎ。
やはり女としての結婚など不可能だ。
妄想に留めるしかない。
「すまぬ、やはりお断りするしかあるまい。傷つけぬように上手く断ってくれ」
「それでよろしいのですね」
「あぁ…」
「わかりました」
ため息をもらしながら天井を見上げる私に宰相が言葉を続けた。
「ところで公爵からの贈り物のドレスが届いております。いかがいたしましょう」
さすがに要らないとは言えない。
「わかった。受け取ろう」
私は天井を見つめ続けるしかなかった。
***
それから10日がたった。
舞踏会を思い出して物思いに耽っていた私の執務室にコペルクが駆け込んできた。
本人曰く「ラフレス一の学者」で、私の家庭教師でもある男だ。
普段は勉強態度に怒ってばかりいるからしかめっ面しか見たことはないが、今日はとびっきりの笑顔で逆に怖い。
「どうした?落ちつけ」
さすがに自分でもその気持ち悪さに気がついたのだろう。バツの悪い顔をする。
「ついに殿下からの宿題に答えを見つけましたぞ」
「何!」
私が興奮するのも無理はない。
『飢饉に対する有効な手だてを探せ』
文献を探ることしか出来ない学者には荷が重いが、藁をもすがるつもりで解を求めた。
私も身をのり出す。
「実は古い書物を探しておりましたら、今回に役立つ逸話が記載されておりました」
「本当か?」
「もちろんでございます」
これは良い。先例主義が幅を利かせるこの国において、一度でも実績のある方法は説得しやすい。
「早くしゃべれ」
興奮してきた。
「文献を調べましたところ我が国の5代目の王は他国より迎えられた人物だったのです」
意味がわからない。
「つまりラフレスには王女の婿を王とした先例がございます」
「ということは…?」
「殿下がシロブタ…もとい…ロドリー公爵を婿に迎えて王とすることは可能。王弟であられますから身分的にも自然です」
「……」
「そうです。そうなれば間違いなくバラレイからさらなる援助が受けらるはずです」
ようやくわかった。
こやつの持ってきた策は私の女としての結婚が前提。
おそらくドレーブから話を聞きつけ、この方法にたどり着いたのだろう。
「結婚はすでに断ったはずだが?」
「話は宰相より聞いております。ただし先の王妃のご指示でまだ先方への回答はいたしておりません。もし殿下にその気があれば、婿入りの線で交渉することも出来るかと…」
そう言えばドレーブからあの後の報告はないまま。
ずっと気に病んでいたから、そろそろこちらから切り出そうと思っていたところだった。
どうやら母まで陰で動いていたようだ。
私自身にも迷いはまだある。
あのダンスの時、私はかって経験したことのないようなしあわせな気持ちだった。
男性にその身を預けたのがはじめてだったからかも知れないが、それだけでもなかった。
あの方には人を包み込む優しさがあった。
しかも私が結婚相手に望まれるなんて。
一緒に過ごす毎日はどんなに穏やかだろう。
妄想がまた広がる。
「殿下…」
夢を破る声がした。
この男がその知識のわりに尊敬されないのは空気が読めないからだ。
仕方ない。現実を見つめよう。
私は現在この国で王子として暮らしている。
真実を明かし謝罪したとしても、これまでの嘘を民は許してくれないだろう。
「いや、交渉は必要ない。結論は変らぬ」
私が生まれた18年前、我が国はルーテシアからの侵攻に苦しんでいたらしい。
多くの兵が争いとその間に広がった疫病に倒れた。
その中には父の兄弟も含まれていた。
先代もすでに鬼籍に入っていた。
直系の男子で残ったのは父だけだったがその父もまた矢を受けて傷を負った。
私が生まれたのはそんな時だ。
残念ながら私は女だった。
限られたごく少数の大人たちで密議が催され、当面の間だけでよいから王子と欺こうと決定がなされた。
男子しか王になれない定めの中で、父の容態が急変した時への備えが必要だったのだ。
母は大反対だったらしい。
性別を偽るなど土台無理。
いずれ発覚するに違いないと主張したようだ。
しかし戦争中で異常な精神状態にある男たちを説き伏せるまでにはいかなかった。
幸いその戦争はバラレイの援軍が到着したタイミングでルーテシアが兵を引き終結した。
父はなんとか傷を癒し国政に復帰することが出来たが以後子作りは出来ず、5年前に亡くなった。
男装は不思議と発覚せず私は偽りの性別を演じ続けた。
しかしその間に次第に丸みを帯た身体つきに変わっていき、胸などはさらしで隠すしかない程だった。
いよいよ女性的になった私がそのまま王になって良いのか。
その疑問に答えられる者は誰もおらず、即位を先送りした。
それでも国は平和だった。
一方バラレイは後継者をめぐって内乱が起きた。
王太子だった現国王と当時の宰相に担がれた第2王子が対立し、国がちょうど半分に割れた。
最終的に勝利した現国王についた公爵はNo.2として、若いながら大活躍だったらしい。
冷酷非道の悪名は争いに破れた者たちの怨嗟から生まれたのかもしれない。
ドレーブとはその戦後処理の中で関係を築きあげ、それが今の我が国への援助に繋がっているのだが、これはまた別の話。
幸い王不在でもラフレスはそんな血なまぐさい争いはなかった。
「では、やはりお断りに?」
「そういうことだ。母とこの策を議論しているのなら、お前からこの結論を伝えてくれ。苦労をかけた」
またため息が出る。
私は改めて飢饉の対策に取り組まねばならない。
「ところで、また贈り物が届いたようにございます。いかがいたしましょう」
「公爵からか?」
「はい、美しい純白の絹でございます。ウエディングドレスを作るのには最適かと」
おそらく返答の催促の意味だろう。
***
数日して、今は離宮に住んでいる母が城を訪ねて来た。
会うのは舞踏会以来。
ティを楽しみながら話した。
もちろんその目的は返答の最終確認だ。
「アルタス、いつまで王子にこだわっているのです。貴方には女としてしあわせになって欲しいのです」
母は相変わらず美しく、その澄んだ目には私ですら吸い込まれそうだ。
話を聞けば、どうやら結婚話には賛成の立場らしい。
面と向かって口応えするのは忍びないが、国の未来を左右する重要な案件ではそうもいくまい。
「ご配慮感謝いたします。しかし私は民を欺き地位を保っている身。その嘘が公になれば民が私を許すはずなどございません」
「アルマ、貴方は本当に何も知らないのですね」
いきなり女性としての名前で呼ばれてドキッとする。
母が言い聞かせるように話す。
「民は貴方が女であることなどとっくに知っています」
そんなのは初耳だ。
「民を馬鹿にしてはいけません。先の王は見る者を圧倒する体躯の持ち主でした。それに比べて貴方は…あまりにも違います」
私は女性としても平均的な身長。
「……」
「それに待女として働いてい者のが何人もお城を出て城下で暮らしています。その者たち全員が口をつぐんでくれている訳ではありません」
「では私が女であることは…」
「貴方を本物の王子と思っているのは子供位です。大人たちは皆、国を思い、知らない振りをしてくれているのです」
「お城にいる者たちも?」
「もちろん」
秘密が守られていると思っていたのは私だけだったようだ。
「公爵には?」
「求婚の後宰相の口から事実を伝えさせました。何しろ我が国にとっても大切な方。騙すことは出来ません」
「では、婿入りの話は…」
「先方へ出向いて直接打診してくれた宰相とコペルクが先ほど戻り、報告をくれたところです」
「その答えは?」
「結婚を受けて貰えるのであれば形にはこだわらないとのことでした。公爵は私が思っていた以上に貴方にご執心のようです」
いよいよ私次第となった。
「しかし…」
容易く答えの出せる話ではない。
そんな悩める18才に母がダメを押してくる。
「アルマ、貴方のことは私が一番わかっています」
「……」
「母は舞踏会で公爵を見つめる目で確信しました。貴方の目は輝いていました」
「……」
「まさかと思いました」
「……」
「でも、殿方にときめくことは女として素晴らしいことです。公爵がどんな見た目であってもね」
お見通しだった。
私がシロブタさんを観察していた時母は私を観察していた。まったく気がつかなかった。
以前、乳母の娘のミヤトが教えてくれた。
民は大人になると恋というものをするらしい。
側にいると楽しかったり、いないとさみしかったり。
時に他の人が見えなくなって、夢の中にも出てくるようにもなる。
「殿下、殿方が夢に出てくるようになったらそれは恋です」
そういえば最近シロブタさんの夢を良く見るようになった。
ほとんどが公爵だけど、ある時は豚そのものだったりするから面白い。
私は恋をしたみたい。
「わかりました。お受けすると伝えてください」
「何を言っているのです。伝えるのは貴方ですよ。さあ、早く頂いたドレスに着替えるのです。馬車の用意も出来ています」
母の声がいつになく弾んでいた。
***
ふたりの結婚式は次の実りの季節に行われた。
飢饉を最小限で乗り越えたこともあり、民からの批判的な声があがることはなかった。
右腕を失うことになるバラレイ国王の説得に少し時間を要したが、公爵が粘く対応し許しを得た。
王子が王女に戻った顛末は大人から子供にも伝えられ、国中が知るところとなった。
それを題材に童歌やおとぎ話もたくさん作られた。
公爵の見た目を笑っていた女たちは「王にふさわしい貫禄」と誉めたたえるようになった。
一時期体型を気にして痩せていた公爵は結婚式の頃にはすっかり元に戻り、私を満足させた。
私は髪が伸びて母に一層似て来た。
胸やお尻も前より膨らんでいつでも子を産める身体になった。
病める時も健やかなる時も…
もうすぐ王になる男の半分ほどの身体を絹のウエディングドレスに包んだ私は、前日の会話を思い出していた。
「もしこの話をお断りしていたらどうなっていました?」
「さて、どうだろう?今となってはわからないがひょつとしたら戦争になっていたかもしれない。兄はラフレスの不作を侵攻のチャンスと考えていたからね」
「……」
「私の訪問は作物を届けるためだけど、其方の国の様子を探るようにも命じられていたんだ」
「そこで私と出会った」
「そう、君は私の顔からから目を反らさなかったし、ダンスでもちゃんと身を預けてくれた。そんな娘はこれまでいなかった」
「……」
「しかも、聞けば家柄も悪くない。その時思ったよ。ふたりが結婚すれば両方の国の利益になる。だから兄を説得して計画を止めさせたんだ」
「そうでしたか」
「しかしアルマとアルタス王子が同じ人物だと聞いた時は本当にびっくりした」
「すいません」
「いや、もし君が普通に女性として育っていれば年頃になってすぐに求婚されていたはずだから、ふたりが出会うこともなかった」
「そんなことは…」
「いや、きっとその美しさが大陸中に鳴り響いていたはずだからね」
「公爵と出会えたのは偽りのおかげ…」
「そうなるね」
「では、私が男装の王女だったことはやはり神のおぼし召しだったのでしょうか」
「そう、私がシロブタ公爵だったこともね」
讃美歌が聞こえてきた。
私は自身の不思議な運命に感謝しながら永遠の愛を神に誓うのだった。