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第3話 最悪の親バレ

 陽彩が出ていったあと、オレは何をするでもなく、ただポツンと部屋の中で膝を抱えていた。オレの頭は陽彩に情けないところを見せてしまったことに対する羞恥とも悔しさとも言えない微妙な感情に支配されていた。


「またアイツに助けられちゃったな」


 陽彩は小学生のときからいつもオレのことを助けてくれる。集団でイジメられていようと、人目につかないところでリンチされていようと、必ず陽彩だけはオレの味方でいてくれた。


 だからこそオレは陽彩に迷惑をかけないように心がけてきた。イジメられていても陽彩に勘づかれないように我慢したりもしていた。結局は気付いて助けてくれるんだけど……。

 ともかく、オレは陽彩の負担だけにはなりたくない。どちらか一方だけが負担を背負うなんて、そんなのは平等な友達とは言えないから。


「もっとしっかりしないと」


 そう決意を固めなおしていると、腹の虫が泣き叫び始めた。時計を見れば10時になろうとしていた。


「うん、この時間なら大丈夫」


 部屋から出て階下のキッチンへと向かう。今日の朝ごはんは何を作ろうか。スクランブルエッグにしようか、ベーコンがあったらベーコンエッグでもいいな。


 腹の虫にかまけてちゃんと確認しなかったのが運の尽きだった。うちのキッチンはダイニングと一体になっているDKである。だからダイニングを通らなければキッチンには入れないのだが、ダイニングには母親がいた。


「え……!?」


 この時間はいないはずなのに、どうして……。うちは共働きで朝から夕方くらいまでは家にオレだけというのが多い。ふとカレンダーを見れば、今日はの日付に赤い丸が書かれていた。つまるところ休暇をとっていたのだ。


「あら、どなた?」


 オレのことを見とがめた母は、警戒心をにじませながら問いかける。正直なところ、今母親にバレるというのは計算外であった。だから言い訳なんて用意していない。


「どこから入ってきたの?」


 母の警戒心はどんどん高まっていく。母親からすれば、家の中にブカブカの服を着た知らない女の子が入り込んでいるのだ。不審者に見えてもおかしくはない。


「母さん、オレだよ。宙だよ」


 母は「はあ?」と言いたげな意味が分からないという顔をしている。それも仕方がない。オレの見た目は、顔に少し男だったときの面影があるかなぐらいで性別含め完全に変わってしまったのだ。たとえ親であっても見知らぬ女から息子だよと言われて信じれないのも無理はない。


「貴女、頭は大丈夫? うちの宙は男ですけど?」

「なんと言ったらいいか……朝起きたら女の子になってたの!」

「……陽彩くんの言っていたことは本当だったのね」


 おや、説明するのに骨が折れそうだと思っていたけど、なんだ陽彩が代わりにやってくれていたのか。グッジョブ陽彩。


 と思っていたのも束の間だった。


「気持ち悪い」

「え……?」


 母の口から出た言葉に耳を疑った。だってその言葉は母親が腹を痛めて生んだ我が子に向けて言っていい言葉ではない。


「ただでさえ男に強姦未遂されて帰ってきたくせに、女になって……気持ち悪い」

「かあ……さん……?」

「近寄らないで!!」


 もともと母が引きこもりになってしまったオレに対していい感情を抱いていないことぐらい察していた。だからなるべく顔を合わせないようにしていた。それでも家族の情くらいは持っていると思っていた。ここまではっきりと拒絶されるだなんて……。


「出ていきなさい! あんたなんか、うちの子供じゃない! 二度と私の前に現れないで!!」


 突然の勘当宣言に呆然としてしまう。そんなオレの様子を見た母は無理やり外に追い出すことに決めたらしい。背中が隠れてしまうほど長く伸びたオレの髪を握り、引きずり始めた。


「痛い痛い痛い、母さんヤメテ!」


 どれだけ懇願しようが母は徹底的に無視を決め込む。オレが抵抗しているため、遅々としたスピードでしか前に進まないが、それでも着実に玄関が迫ってきている。


 そしてついに玄関にたどり着き、そのまま外へほい投げられる。家の中から言い争う声絵が聞こえていたのだろう、外にはご近所さんがこちらを見ながら何か話していた。


「母さん開けて! やだ、入れてよ!」


 何度も何度も引き戸を開けようとするが、びくともしない。母は無情にもカギを閉めたようだ。


 体が震える。背中にはありとあらゆる視線を感じる。平常時ならまだ少しは大丈夫だったであろう。これでも少しはトラウマを克服しかけているのだ(希望的観測)。でも今朝がたに発作を起こし、さらには予期せぬ勘当宣言にメンタルがやられていた。


 背中に感じる視線が、どれもオレのことをあざ笑っているように思えてしまう。そんなことはないと言い聞かせるが、どうしても最悪の想像がやめられない。井戸端会議している主婦の目が、かすかに聞こえてくる誰かのささやき声が、家の前を通りすぎる通行人が、どれもこれもがオレのことを襲おうとする敵に思えてしまう。


 体の奥からムカムカとしたものが込みあがってくる。ただ立っていることすらもつらくなってくる。喉の奥から苦いものが逆流してくる。


 そしてそれらが臨界に達したとき、オレは玄関前に嘔吐した。

モチベが続く限り毎日投稿していきます!


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