第2話 変わった体と変わらない記憶
ブクマ、感想、評価ありがとうございます!舞い上がるほど嬉しかったので早めの更新です!!
「それにしたって……女はないだろ……」
自分でいうのは何だが、オレは大の女嫌いである。だってあいつらオレ男なのにカワイイカワイイ言ってくるんだもん。そりゃ嫌いにもなる。
あまあまなアニメ声に変わってしまった自らの声に戸惑いつつも、改めて姿見で今の体を確認する。
身長はなんだか低くなっている気がする。もともと160程度しかなかったけど、そこからさらに小さくなるって……本格的にチビじゃん! うう、身長はコンプレックスの1つだったのに。
男としての条件反射のせいでついつい胸に目がいってしまう。だって仕方ないだろ、これは男の習性のようなもんだから。いやはや、これはなかなか……。おそらく街中を歩けば10人中100人の男は二度見どころか三度四度と見返すことだろう。
「いや、それオレじゃん」
何が悲しくて自分でそんなことを想像しなくてはいけないのか。見られているのはオレではないか。
「こ、これ触っていいよな? オレの体だしいいよな?」
女嫌いとはいえオレとて健全な青少年である。それなりに女体への探求心は持ち合わせている。恐る恐る自分の胸に手を当てる。
「あ……」
まさに感動である。服の上からというのにマシュマロのようなふわっとした柔らかさであり、またその中に一点だけコリっとした固い感触がした。
ただまあ、初めて触ったという感動はあったが、それ以外は何もないな。何と言うか、どこまでいってもこれは自分の体なのであって、それを揉んでも悲しくなるだけということが分かった。
「とりあえず着替えるか」
そう思い、Tシャツを脱いだ時だった。ドアノブがガチャリと回され、扉が大きくあけ放たれる。
「ふぇ……?」
両親は突然扉を開けたりはしない。それどころか扉越しに、一方的に声をかけてくるだけで、会おうともしない。ゆえにこんなことをする奴は1人しかいない。幼なじみの観上陽彩だ。
陽彩は物好きな奴で、なぜか学校に行く前にこうして会いに来てくれる。
「…………」
だけど今日の陽彩はなぜか扉を開けた体勢でフリーズしている。
何やってんだアイツ。
「すみません! 部屋間違えました!!」
かと思えば、部屋を間違えたと言い放って、大きな音を立てて扉を閉めた。
本当になにをやってるんだ?
「おーい、部屋間違えてないぞ」
こう言ってやっても陽彩は少し扉を開けて中をのぞいたら、入ってくることなく再び閉めやがった。
「だーかーらー、間違えてないんだって!!」
「あの、どなたかは知りませんけど、何か服を着てください!」
そう言われて思い出したが、まだオレ着替えの途中だったんだ。ってことは陽彩に上裸を見られったってことか。まあ男同士だし、小さいときから一緒にいるせいでお互いに上裸どころか全裸も曝しあった仲だから恥ずかしいとかはないが。
適当にタンスの中から引っ張り出したTシャツを着たら、ようやく陽彩の奴が入ってきてくれた。
「それで、貴女が俺の幼なじみの星宮宙だって……?」
「さっきからそう言ってんじゃん」
「いやいや、あいつは男だし」
「だから朝起きたら女になってたの!」
今オレの身に起きていることを説明しているのだが、陽彩が全然信じてくれない。こうなったら最終手段をとるしかないようだな。
「じゃあオレと陽彩しか知らないような秘密を言ったら、オレが宙だって信じてくれるか?」
「え、うんまあ、言えるものなら……」
よし、言質は取った。その言葉、後悔するんじゃねえぞ。
「えーっと、小学生のときだったかな。お前が好きな子に告白しに行ったら、あまりにも緊張しすぎてうん――」
「ストーッッッッッップ!!!」
案の定、陽彩は全力でオレの話を止めに来た。だが止める方法が直接口を押えるという物理的な方法だった。オレと陽彩では20cm程度身長の違いがあり、また男と女の体格差のせいで陽彩がオレに覆いかぶさるような形で押し倒されてしまった。
ああ、あの時の記憶が……トラウマが……イヤだ、イヤだよ……ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ――
「ごめんなさい、許してください。もう逃げようなんてしないから……ゴメンナサイゴメンナサイもうヤダ、ユルシテ、痛いのヤダ、ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
壊れてたラジオのように同じ音を繰り返し叫び続ける。心臓がロックバンドのドラムのように激しく叩き鳴らされる。呼吸は浅く過呼吸を起こしたかのように小刻みになっていく。
「クソッ、やっちまった……。もう大丈夫だ。俺だ。陽彩だ。もう大丈夫だ、安心しろ。俺が守ってやるから。怖い連中は俺が追い払ってやるから、落ち着いてくれ!」
陽彩はオレのことを胸が押しつぶされるほどの力で抱きしめて、やさしく背中をなでてくれる。何分くらいこうしていただろう。陽彩はオレが完全に落ち着くまで抱きしめていてくれた。
「……ん、ありがと。もう大丈夫」
「そうか……」
なんとなく気まずい。それは陽彩も同じようで、顔をそらし前かがみになっている。
「あ、もう8時か。それじゃあ学校に行かないと」
「おう、じゃあな」
陽彩はそう言うと少しだけ悲しそうな顔をして部屋から出ていった。……それにしてもアイツ、なんで前かがみかつ内股で歩いてるんだ?
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