第1話 星に願いを
「は? なんだこれ……」
オレは朝起きて、自分の体の変化に愕然とした。
「いやありえないだろ!」
しかし現実として起こってしまっている。
そのことに頭を抱える。視界には不自然に盛り上がった胸が目に入る。
「夢だ! 夢に違いない!!」
試しに頬をつねってみるが……普通に痛い。いや、きっと痛い夢だってある。そうじゃなきゃおかしい。だって――
「女に……なってる……?」
どうして、どうしてこんなことに。だってこんなこと非科学的だろ、現実的にあり得ないだろ。現実に起きてしまっているけれども。
「なんで……こんなことに」
鏡に映るは身目麗しい少女の姿。何よりも目を引くのはメロンのようにたわわに実った胸であろう。寝間着替わりのTシャツをこれでもかと押し上げている。
肌はもちもちと赤ちゃんの肌のような柔らかさと繊細さで、白磁の陶器のような透き通るような白さを持っている。
そして一番大切な顔は、ぱっちり二重の赤みがかった瞳、髪の毛は白銀と言ってしまっていいかもと思うほどに光沢のある白色だ。
――総評、美少女。
「これが……オレ……」
もちろん相棒のことは確認した。いなかったよ、あいつ。
「どこ行っちまったんだよ相棒ぅううううううううううううううううううう」
オレは必死になって寝る前のことを思い出した。昨日は確か……
――――――――………………
―――――…………
―……
その日は無性に体調が悪く、朝から晩までベッドで寝込んでいた。ただ今は晩春であり、春とは何だったのか夏のような暑さでとても寝苦しかった。そのため変な時間に目が覚めてしまった。枕元の時計を確認してみれば、夜8時。道理でまだ外が真っ暗なわけだ。
「のど、渇いたな」
床に散乱しているペットボトルにまだ何か飲み物が入っていることを期待したが、あいにくにも過去のオレがすべて飲んでしまった後のようだった。
仕方がなく下の階のキッチンに水を取りに行こうとドアノブを回すが、階下からは母親と父親が言い争っている声が家全体に響いていた。
あの二人はよくケンカをしている。夫婦不仲の原因は恐らくオレであろう。オレは自他ともに認める引きこもりだ。こんなオレを今後どう接していくかで意見がぶつかっているのだろう。
下に降りてあれに巻き込まれることだけは絶対に嫌なので、大人しく部屋の中に帰った。喉の渇きは我慢しよう。
スマホに通知を知らせるランプが点滅していることに気付いた。どうやらリツイートでSNSの投稿が回ってきたようだ。
『流れ星にお願いしたら願い事が叶った!!』
内容はなんてことない、よくあるほら話かおとぎ話のようなものであった。しかしここ最近こういった内容の投稿が増えてきている。しかも投稿主は冗談でもなんでもなく本気で言っているようであった。
いろんな人がリプ欄で羨ましいだのなんだのと言っているが、流れ星で願いが叶うなんてバカバカしいにもほどがある。そんな簡単に人の望みが叶うのならば、オレがあんな目に会うことなんてなかったのに。
スマホの電源を消し、暗くなった画面に自分の顔が映る。16になった今でも女の子とみ間違えられるほど中性的な顔である。本当に嫌になる。こんな顔でさえなければイジメられることなんてなかったのに。
スマホを乱雑にベッドの上に投げ、窓際へと足を向けた。あんな投稿のことを意識しているわけではない。ただ空気の入れ替えをしようと思っただけだ。そう自分にいいわけをしつつも、つい夜空を見上げてしまう。
空には雲一つなく、金平糖を巻き散らかしたかのような満天の星空が広がっている。街の明かりもなく、星と月だけの明かりしか存在しない幻想的な光景である。
もし仮に、本当に願いが叶うというのならば、オレはオレではない別の何かに変わりたい。
「変われるならなんだっていい……いっそオレが女の子だったらイジメられなかったのかな……ったい」
知らず知らずのうちにベランダの錆びた手すりを強く握りしめていた。そのせいで手の皮が破け、血がにじみ出ていた。
そのとき、空に一筋の光の帯が横切った。
「流れ……星……」
しかし何も起こらない。そうだよね。そんなアニメやマンガみたいなことが起きるわけがないよね。一瞬でも期待してしまったオレがバカみたいだ。
体調の悪さがぶり返してきた。体がだるく、頭がくらくらする。オレはまさに死に体といった様相でベッドの中にもぐりこみ、そのまま深い眠りに落ちていった。
――深夜2時、体に走る激痛により、目が覚めた。
肉がぐちゃぐちゃにかき回され粘土細工のようにこねくり回され、骨は粉々に砕かれた後に再形成されていく、イメージとしてはそんな感じの激痛である。
「ッッッッッッッ!?」
あまりの痛さに声すらも出ない。
肉がうごめき、体が作り替えられていく。原因不明の事態に発狂しそうであった。助けを呼ぼうにも声が出ない。たった一人でこれに耐えなければいけない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
痛みと恐怖で意識が塗りつぶされていく。ベッドの上でこれから逃れるために暴れ回る。でも体の内部から発生しているもので、そんなことで逃れられるはずもない。ここでオレの意識はプツリと途絶えた。
で、冒頭に戻る。
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