147:勝利の瞬間
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「もう一体いたっ!」
「こっちにジェノサイダーが紛れ込んでいたぞ!」
「壁が崩れた! アビスウォーカーたちも中に入ってくる様子を見せてるぞ! 防げ!」
崩れた壁を見た騎士たちは、街の中になだれ込もうとするジェノサイダーやアビスウォーカーを防ごうと、崩れた部分に向かって駆け出していた。
「応急の壁を作ります! 石の壁となりて、我が指が示す先に発現せよ。石の壁」
ノエリアは即座に詠唱を終えると、崩れた壁の部分に向け石の壁を作り出していく。
地面から隆起した壁は、ジェノサイダーの右手から放たれた青白い光によって、跡形もなく粉砕された。
止められないっ!
崩れゆく石の壁に、敵の侵入を阻止できないと思った瞬間―――
地面から岩の巨大なゴーレムが立ち上がってくるのが見えた。
「中には入れさせないっ!」
シンツィアの作り出した岩のゴーレムの巨大な拳が、崩れた部分から侵入しようとしていたアビスウォーカーたちを殴り飛ばす。
「シンツィア様!」
「アビスウォーカーはあたしが騎士たちと押し返す! フリックたちにはジェノサイダーは任せるわ!」
巨大な岩のゴーレムの肩に乗ったシンツィアは、にじり寄ってくるアビスウォーカーを張り手で飛ばしていく。
「アル、ノエリア! もう一体のジェノサイダーを倒す!」
「承知しました!」
「うん! そうしよう!」
俺たちは新たに姿を現したジェノサイダーの討伐を最優先に行うため、城壁が崩れた部分に向かって駆けていた。
いったい何体いるんだろうか。
ジェノサイダーが百体や二百体とかいたら絶対に守り切れないぞ。
新たな個体が見つかったことで、相手の戦力が把握できないことへの不安を感じ始めていた。
大襲来の時、レドリック王太子や辺境伯様たちも同じような不安を感じていたのかも。
勝利条件が見えない戦いが、これだけ神経をすり減らすと思わなかった。
自分たちが判断ミスすれば、ユグハノーツに逃げ込んだ領民もろとも街が消える。
改めて自分の背負っている物の大きさを感じ、胃の辺りが痛くなる気がした。
「フリック! わたしが『触れ合い』を許した男が、そんなしょぼくれた顔を見せるな! 味方の士気が下がるだろうが! わたしが打ったディーレがあれば、ジェノサイダー百体なんぞよゆーで蹴散らせるって顔をしろ!」
翼竜から飛び降りたガウェインが、アビスウォーカーの脳天に着地を決めながら檄を飛ばしてきた。
無茶を言う…‥。
けど、ガウェインが言ってることは間違ってない。
険しくなりかけていた顔の表情を緩めると、戦っている騎士たちに向けて大きな声で叫んだ。
「ジェノサイダーが何体来ようが、真紅の魔剣士フリックが全て蹴散らす! ユグハノーツを絶対に守るぞ!」
俺の宣言を聞いた騎士から歓声が上がるのが聞こえた。
「それでこそ、わたしが『触れ合い』を許した男! わたしも加勢させてもらう」
アビスウォーカーの脳天から地面に降りたガウェインは、身体強化魔法を重ね掛けしたのか身体がより一層大きくなる。
「ふんぬぅん!」
渾身の力を込めた拳で、目の前のアビスウォーカーを殴り飛ばした。
殴り飛ばしたアビスウォーカーを追撃するため、地面を蹴って飛ぶと数十発の拳を撃ち込んでいく。
転がったアビスウォーカーが崩れた城壁の山にぶつかって煙を上げた。
魔術師なのに拳で殴り合うってどうなんだろうか?
俺も人の事は言えないけどさ。
やっぱ身体強化魔法を作り出したことだけあって、魔術師としては変則的な戦い方をする。
けど、おかげでジェノサイダーまでの道が一気に開いた。
「大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣」
幻影体とともに、街へ突入しようと動いていたジェノサイダーの身体に、紫電をまとったディーレの刀身を打ち込んだ。
「漂いし空気よ、大いなる刃の渦となりて、我が敵を斬り裂け。空刃竜巻」
城壁から降りてきていたノエリアが、雷で痺れ動けなくなっていたジェノサイダーに魔法を放った。
放った魔法はジェノサイダーの身体を切り刻んでいく。
一気に動きが鈍った。
これなら、街に入る前に仕留められる!
再び魔法剣を発動させ、幻影体とともに動きの鈍ったジェノサイダーに斬りかかる。
しかし、ディーレの刀身は間に割り込んだアビスウォーカーの身体に食い込んでいた。
「くそ! 身代わりか!」
「フリックさん、危ない!」
騎士やシンツィアたちに、街への突入を諦めたアビスウォーカーたちが、ジェノサイダーを狙ってしつように攻撃を仕掛けていた俺に目標を変更してきていた。
アルの剣先が、圧倒的な戦闘力を持つアビスウォーカーの唯一の弱点である一つ目の目玉を正確に貫くと、剣にまとっていた魔法が解放され、アビスウォーカーは黒煙をあげて崩れ落ちる。
アルを脅威とみなしたアビスウォーカーが、攻撃の矛先を変えると、息を吐く暇もないほどの連続攻撃を繰り出して襲い掛かっていた。
アルは繰り出される光剣の刃先を踊るように華麗な身のこなしでかわし、隙を見てメダルを交換すると、新たなアビスウォーカーの目玉を抉って血祭りにあげていた。
あの域の動きを余裕でやれるのを見せつけられると、俺もまだまだ剣士としては半人前だと思い知らされるな。
いかん、感心してる場合じゃなかった。
アルの見せる神の領域に近い剣術に目を奪われているわけにもいかず、アビスウォーカーの攻撃が緩んだ隙を突いて、動きの鈍くなったジェノサイダーにとどめを刺しにいく。
さっきアルが顎下から突き上げた時、爆発しなかったよな。
脳みそごと一気に貫けば、爆発することなく倒せるってことかもしれない。
最悪、青白く光ったら空中に放り出して、全力で空気壁を張るしかない。
街側に爆風が流れなかったら、周囲は平原だし被害は軽微におさまるはず。
最悪の場合まで想定し、覚悟を決めると、幻影体に牽制をさせ、自分自身はジェノサイダーの懐に飛び込んだ。
ここから顎下に向かって一気に突き上げる!
不意を突かれたジェノサイダーは、俺の攻撃を避けることができず、雷を帯びたディーレの刀身はジェノサイダーの顎下から脳天まで貫いていた。
刀身から放たれた雷によって、ジェノサイダーの身体が大きく震える。
もがくジェノサイダーの腕をブンブンと振り回したが、やがて腕が動かなくなりダラリと垂れた。
爆発は……しないか……。
やったよな?
ゆっくりと剣を引き抜くと、ジェノサイダーの巨体はドサリと地面に倒れ込んだ。
「フリック様! 倒しました――」
杖を振り上げて喜んでいたノエリアの背後に不意にヴィーゴの顔が浮かび上がった。
次の瞬間、フレデリック王たちを撃ち殺した筒をノエリアのこめかみに突き付けていた。








