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第9話・魔窟

(うーん、ノリと勢いで出てきたのはいいけど)


 ギルド本部から出てきたユーノは、立ち止まって考えこんでいた。


(大型モンスター一〇〇体か。倒すのは楽勝だけどそれだけの数を探すのは正直しんどいぜ。そのあたりにまとめて出てくれるといいんだけどな)


 ちなみに本当に大型モンスター一〇〇体が同時に出現したら、ギルドは即座に二級非常事態宣言を発令。

 ヘリオルに滞在する全ハンターが都市防衛クエストに駆りだされることになる。

 そんなことが都合よく起きるはずもないが――


「なあ聞いたかよ? クレイオ森林に『魔窟』が出現したって話」

「ああ、聞いたぜ。攻略隊の隊長は『破嵐の獅子』らしいな」

「今回のはかなり大規模だってよ。どんだけの数のモンスターが地下に巣食ってることやら」


 近くのハンターたちの会話に、ユーノはぴくりと聞き耳を立てた。


「攻略隊のやつらはたっぷり稼いで帰ってくるんだろうなぁ。くそっ、俺も参加したかったぜ」

「バカ言え、D級の俺たちに声がかかるわけないだろ」

「たしかに。けど一度でいいからS級ハンターの戦いぶりを間近で見てみたいよなぁ」


 ユーノは近づいて声をかけた。


「よう。その話、詳しく聞かせてくれねえか?」

「なんだお前。見ねえツラだがハンターか?」

「俺は志望者だ。いやっ、べつにたったいま試験を受けて落第したとかそんなことはぜんぜんねえからなっ!?」


 無駄に墓穴を掘るユーノ。

 しかしハンターたちは特にツッコミを入れず、


「なに言ってんだお前? ところで、聞きたい話ってのは魔窟のことか?」

「そうそう、それそれ。つか魔窟ってのはなんなんだ?」

「あのなぁ、ハンター志望ならそのくらい知っとけよ」


 言いつつも、彼らは親切に説明してくれた。


「魔窟ってのは簡単に言えばモンスターの巣だな。ある日突然、なんの前触れもなく地下に出現するんだ」

「中はバカみてえに深くて広い。俺は実際に潜ったことはねえが、話によれば巣穴ってより迷宮って感じらしいぜ」

「魔窟を放っておくと中でモンスターが増殖して大変なことになる。だからギルドは発見しだい攻略隊を送ってんのさ」


 ユーノが質問を投げかける。


「魔窟のモンスターを全滅させたら竜石の稼ぎはどれくらいになる? 一〇万オーブいけるか?」

「じゅ、一〇万って、どっからそんな数字がでてくるんだよ?」

「大規模な魔窟ならトータルでそんくらいになってもおかしくはねえ。ただまあ、稼ぎの分け前は貢献度によって決まるからな」

「運良く攻略隊の末席に入りこめても、実力がなきゃ貰えるのは雀の涙だろうよ」


 攻略隊。その単語にユーノは引っかかりを覚えた。


「その攻略隊って、もしかしてもう出発してる?」

「ああ。今朝ヘリオルを発ったって話だぜ」

「マジかよ! 出遅れてるじゃねえか俺っ!」


 ユーノは思わず天を仰いだ。

 現在の時刻は午後三時をまわったところだった。


「なんだよ、『破嵐の獅子』をひと目見たかったのか? ま、気持ちは解るぜ。なんたってS級最強、現役ハンターの頂点に立つと目される人だからなぁ」


 彼の言葉はもはやユーノの耳に入っていなかった。

 急がなければせっかくの稼ぎがふいになる。


「助かったぜ、ありがとなっ!」


 シュタッと手をあげ、その場から駆けだすユーノ。

 だが数歩進んだところで急停止し、ハンターたちにふりむいた。


「魔窟のある場所って、クレイオ森林だっけ?」

「そうだ。ヘリオルの東にある広大な森って言えば解るだろ」


 それならばヒュペリオン山脈から下りてくる途中にも目にしていた。

 おおまかな場所さえ解れば、あとはなんとでもなる。


「おいお前、まさかとは思うが魔窟に行く気じゃねえだろうな?」

「え? もちろんそうだけど」

「あのなぁ……。そもそも無駄足だぜ。魔窟の正確な位置は攻略隊にしか知らされてねえんだからよ」

「問題ない。あとは自分で探すからな」


 ユーノはハンターたちから距離をとる。


「もうちょい離れたほうがいいぞ。いまから俺は飛ぶ」

「はあ……?」

「ま、いいか。死にはしねえだろ」


 ユーノは両足裏に魔力を集中させ、魔法を発動した。


 ――『魔力推進器ターボジェット』。


 ドォッ! 魔力のジェット噴射によってユーノは垂直に上昇した。


「どわっ……!?」


 ハンターたちにしてみればわけが解らない。

 なにせ強烈な衝撃を受けたかと思ったら、目の前からユーノが消え失せていたのだ。

 誰もが狐につままれたような心地だった。


 いっぽうユーノは、ものの数秒で高度五〇〇〇メートルに到達していた。

 滞空したまま東のクレイオ森林に意識を集中し、べつの魔法を発動する。


 ――『位相魔力観測波フェイズドアレイ』。


 これは魔力探知波パルスレーダーの発展強化版にあたり、電波化した魔力を並列配置して投射する。

 観測距離、精度、解像度、情報量のいずれも比較にならないほど強力だ。

 クレイオ森林をしらみつぶしに探査していく。

 地下に巨大な構造物を確認。ヘリオルからの距離は約五〇キロだった。

 

 その過程でクレイオ森林を進む三〇人ほどの人影も探知できた。

 十中八九、魔窟にむかっている攻略隊だろう。

 ありがたいことに、攻略隊の現在位置は魔窟から一〇キロ以上も離れた地点だった。


「悪いが先に行かせてもらうぜ」


 両足にくわえ、両手からも魔力推進器ターボジェットを噴射。

 ユーノは一直線に空を翔けた。

 またたくまに音速を突破し、猛烈な推進力によってなおも加速していく。

 最終的な飛行速度は音速の三倍に達した。


   ◇◇◇


 ゴォォォッ……!

 突如ひびいた遠雷のごとき音に、S級ハンターのレオポルドは足を止めて空を仰ぎ見た。

 二メートルを優に超す大男で、その肉体は筋骨隆々として鋼の鎧のごとしだ。

 ワイルドに伸ばしたアッシュブロンドの長髪と豊かな髭が、獅子のたてがみを彷彿とさせる。

 左腰にはS級の証である六芒星形のライセンスが輝いている。

 彼こそが現役最強と目され『破嵐の獅子』の称号を持つハンター、レオポルド。

 今回の魔窟攻略隊の隊長でもあった。


「レオさん、どうかしたんすか?」


 たずねたのは攻略隊の副隊長、A級ハンターのノーマだ。

 若干一八歳にしてA級ナンバーワンと評価される才媛。

 なのだが、身長といい体型といい顔立ちといい実年齢よりだいぶ幼く見える。

 レオポルドとならぶと、大人と子供どころか巨人と小人という感じだ。

 もし十字形のA級ライセンスを身につけていなかったら、誰も彼女がハンターだとは思わないだろう。


「いま、なにかが上空をとんでもねえ速度で飛んでいかなかったか?」


 空を見上げたままレオポルドがつぶやく。


「えっ? 自分にはなにも見えなかったっすけど……」

「そのくらい速かったってことだよ。音の感じからしてありゃ音速の三倍は出てたな」

「ちょっ! そんな速度で飛べるのは真龍くらいのものっすよ!」

「どうかな。真龍にしちゃ音が小さすぎた気もするが。確実に言えるのは、そいつが魔窟の方向に飛んでいったことくらいだな」

「ええっ? ど、どうするんすか?」

「もちろん行く」


 レオポルドは即答した。

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