第7話・ハンター試験
およそ三〇分後、ユーノたち志望者はギルド本部に集合するよう通達された。
「それでは、これよりハンター認定試験を開始します。なお、本日の受験者は一名が負傷により辞退したため五名です」
タイエンが言っていたとおり、先ほどのケンカは特に問題視されなかった。
もちろん負傷により辞退した一名とはロベルトのことだ。
「試験は一人ずつおこないます。番号と名前を呼ばれたら移動してください」
ユーノの番号は五番。つまり呼ばれる順番は最後だった。
「四番のタイエンさん。指示にしたがって移動してください」
タイエンが立ちあがる。
移動する直前、彼はユーノに視線をよこした。
「ん? どうかしたのか?」
「……いや。結果を楽しみにしてるぜ、小僧」
そんなセリフを言い残して去っていく。
「なんだあいつ。つか微妙にキャラ変わってね?」
そして、ようやく順番がまわってくる。
「五番のユーノさんですね。こちらへどうぞ」
ユーノが案内されたのは、本部の地下深くにある一室だった。
広くて殺風景な室内だ。
床も壁も天井も頑丈な鋼鉄製だが、いたるところに凹みや傷跡が見受けられた。
それらはすべて過去の試験でつけられたものだった。
「まずは身体能力を測定します。事前に確認したいことがあればどうぞ」
「身体能力ってことは当然、特殊な力は使っちゃダメなんだよな?」
「そのとおりです。ここでは純粋な肉体の能力を測ります。スキルに関しては後で別途、試験がありますので」
「解ったぜ」
魔法を使ってもバレないだろうが、ズルはしたくない。
ユーノは常時発動している魔法をすべて解除した。
そのとたん、ズンッと体が重くなる。
(うおっ、久しぶりだからキツいな)
これは重力緩和の魔法を解除したせいだ。
疲れるのが嫌いなユーノは、つねにこの魔法で楽をしていた。
「では試験を始めます」
まずは筋力測定。
部屋に設置された様々な機器を使い、握力、腕力、脚力、背筋力などを測っていく。
「うおおおおおおおっっっ!」
気合は十二分だが、結果はまったくともなわなかった。
いずれの数値も一八歳男性の平均には遠くおよばない。
一〇歳女子にはかろうじて勝る、というあまりにも悲惨なレベルだった。
次は敏捷性の試験。
題目は反復横跳びだった。
「はっ! ほっ! あでっ……!」
二度三度跳んだだけでバランスをくずしてすっ転ぶ。
当然、記録はお話にならない。
八〇歳のヨボヨボの老人のほうがまだマシだろうという有様だった。
つづいて反射神経および動体視力のテスト。
これは正面、左、右の三箇所に射出機を設置し、ランダムに発射されるやわらかい球を回避するという内容だ。
「いてっ! ちょっ! やべえ無理だろこれっ!」
結果は散々。なんと発射された球を一発も回避できずに終わってしまった。
テストのあいだずっと目をつぶってたのかと思うほどの、言い訳無用のダメさ加減だった。
つづけて耐久力のテスト。
振り子の原理でむかってくる鉄球を生身で受け止めるという内容だ。
民間人なら大怪我はまぬがれない、ハンターならではの試験である。
「いやいやいやいや嘘だろマジで! こんなんブチ当てられたら死ぬっつーの!」
ユーノは即決即断で棄権した。
これはまあ仕方がない。
この試験に関しては、武闘派の志望者以外は棄権するのが普通だった。
その後は格闘能力のテストに移る。
これは専門の試験官と模擬戦をおこなう単純明快なものだ。
相手の試験官はダンディな口ひげが特徴的な、四〇代の元ハンター。
身長は一九〇センチ以上で堂々たる体格をしている。
ユーノと対峙するとまさに子供と大人ほど体格の差があった。
「えっと、格闘技とかやったことねえんだけど」
「では、私の掌に全力でパンチをしてみてください」
試験官が掌をひろげる。
ユーノの頭がすっぽり入りそうなでかい手だった。
「うっし、いくぜ!」
ユーノは無意味に右腕をグルグルまわすと、
「おおおらあああああッ!」
全身全霊をこめて拳を撃ちだした。
……ぺちん。脱力感満載の音がひびいた。
「痛って! おっさんの手の皮硬すぎだろ!」
拳にフーフーと息を吹きかけるユーノ。
「い、いまので全力ですか?」
「そうだけど? って、まさかもう一回やれとか?」
「……いえ、結構です。次の試験に進んでください」
試験官はかすかな嘆息をこぼしたが、ユーノはまったく気づかなかった。
身体能力テストのトリを飾るのは持久力だ。
五分間、室内を走って周回し、走行距離と疲労度から持久力を算出する。
「……ぜえっ、ぜえっ……! も、もう無理、休ませて……!」
恐るべきスローペースで走りだしたユーノは、一周半ほどで早くも足を止めてしまった。
ふだん重力緩和で楽をしている反動もあり、この試験がもっともきつかった。
数メートル進んでは休憩をとることをくり返し、気がつけば五分が過ぎ去っていた。
「身体能力の測定は以上です」
「いやぁ、我ながらここまで壊滅的とは思わなかったぜ」
床に座りこんで足を投げだし、他人事のようにユーノは言う。
試験官は冷たい視線をチラリとむけて、
「次はスキルの判定ですが――」
手元の書類を確認する。
それはユーノが必要事項を記入した用紙だった。
「あらためて確認しますが、あなたはスキル非保有者で間違いありませんね?」
「おう。誓って言うが、俺はスキルなんて使えねえぞ」
胸を張ってユーノは言った。
(さてと、こっからが試験の本番だぜ)
身体能力では惨憺たる結果を出してしまったが、魔法を使ってみせれば余裕で挽回できるはずだ。
そのはずだったが――
「解りました。以上でハンター認定試験は終了です。お疲れ様でした」
試験官は事務的な口調でつげた。
「えっ……? ちょ、ちょっと待った!」
「なにか?」
突き放すような声。
瞳には冷酷な光が灯っていた。
「違うんだよ。なんて言うか、俺の試験はこっから始まる的な?」
「はあ。仰る意味が解りかねますが」
「とにかく俺には特別な力があるんだ。そいつを見ればあんただって手のひらを返すはずだぜ」
「特別な力、というのはスキルのことですか?」
「いやだから違うっての」
試験官が盛大に溜息をつく。
つきあっていられない、という態度が全身からにじみでていた。
「であれば結構です。これ以上は時間の無駄ですので」
きびすを返し、ユーノに背をむける。
「上の階でお待ちください。一時間ほどで認定の合否を通達します」
それだけ言って部屋から出ていってしまう。
「えっ、ちょっ、えぇっ……?」
ユーノは片手をのばしたまま、呆然と立ちつくすしかなかった。