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第10話・バンカーバスター

 魔窟まで残り五キロに迫ったところで、ユーノは全力で逆噴射して急制動をかけた。

 あと四キロ、三キロ、二キロ、一キロ――

 ゼロ。計算どおり速度を相殺し、空中で停止する。

 魔窟の直上で対空しながら、ユーノは下界を見下ろした。

 ヘリオルからここに至るまでの所要時間は、わずか三分。

 民間人はもちろん、ハンターを基準にしても常軌を逸した早さだった。


「ほうほう。あれだな、魔窟ってのは」


 上空からでも、地面が広範囲にわたって隆起しているのがはっきりと判る。

 周囲にモンスターの姿はない。

 まだ魔窟内から出てきていないのだろう。


「さてと、どうすっかな」


 ユーノは腕を組んで考える。

 魔窟に突入して、手当たりしだいモンスターを狩っていくプランは却下だ。

 それでは時間がかかりすぎる。

 仕事を終える前に攻略隊と鉢合わせして、面倒なことになるのは避けたかった。

 となれば――


「ちと手荒だが、丸ごとぶっ飛ばすしかねえな」


 方針を決めると、ユーノは右腕を垂直に立てた。

 地下深くにある目標を一撃で破壊する。

 それならば、まさしくお誂え向きな魔法があった。


 ユーノの直上、高度一五〇〇〇メートルにて複雑な魔力構造体が練りあげられていく。

 魔力は不可視のエネルギー。

 しかしこの世界でただひとり、ユーノだけがその流れを認識できた。

 魔力構造体は細長い形状で、先端部と本体部で異なる役割が持たせられている。

 先端の徹甲弾殻で地中深くまで貫通させたのち、本体部を爆発させ内部から破壊するのだ。

 この恐るべき魔法の名は――


「――『貫通魔力爆撃弾バンカーバスター』!」


 唱えると同時に、ユーノは右腕を振り下ろした。

 ゴォォッ……! 上空一五〇〇〇メートルの高みから爆撃弾が落下を開始する。

 自由落下に自身の推進力が上乗せされ、暴力的な加速度で地に迫る。

 ユーノの鼻先をかすめた一秒後には、爆撃弾は魔窟の地表部に着弾していた。

 ズボッ! 地面に吸いこまれるようやすやすと貫通。

 一気に地下二00メートルまで穿孔し、そこで本体部が爆発した。


 ズォォオオオッ!

 衝撃波とともに魔窟が根こそぎえぐり取られる。

 貫通魔力爆撃弾バンカーバスターの一撃によって、魔窟は巨大なクレーターに変わっていた。

 魔力による破壊は熱を伴わない。

 そのため、破壊の規模のわりに周囲への影響は驚くほど軽微だった。

 といっても、クレーター周辺の木々は相当な広範囲に渡って薙ぎ倒されていたが。


 もちろん魔窟の中で巣食っていたモンスターは全滅だ。

 一匹たりとも、いや、一片たりとも残っているはずがなかった。


「やっべ、やりすぎたか……?」


 すぐさまユーノは位相魔力観測波フェイズドアレイでクレーター内を探査する。

 動体反応はなし。代わりに膨大な数の竜石を検知できた。

 肝心の竜石が消し飛んでしまっては元も子もない。

 ユーノはほっと胸をなでおろした。


「あとは回収してヘリオルに戻るだけだな」


 喜び勇んでユーノはクレーターに降下した。


   ◇◇◇


「っ!? 全員伏せろっ!」


 ただならぬ気配を察知し、とっさにレオポルドが叫んだ。

 直後、前方から衝撃波が襲いかかった。

 指示通りに地に伏せる攻略隊の面々。

 副隊長のノーマは立ったまま顔を腕で防護する。

 レオポルドだけが仁王立ちで正面を見据えていた。


 ズワゥッ! 衝撃波が木々を薙ぎ倒し、攻略隊をも呑みこんだ。

 爆心地から離れていたため人的な被害は皆無。

 だが、攻略隊の面々は精神に文字通りの衝撃を受けていた。


「な、なんすかいまの衝撃波はっ!?」


 ノーマも例に漏れず驚いていた。


「さあな。確実に言えるのは、むこうでとんでもねえことが起きたってことだ」


 レオポルドはニィッと白い歯を見せると、攻略隊にふり返って言った。


「いいねえ、ひさびさにワクワクしてきやがったぜ! 行くぞ野郎ども! この先なにが待ち受けていようと恐れず進め! 冒険の心を燃えあがらせろッ!」

「オ、オオォーッ!」


 勝鬨の声をあげ、全三二名の攻略隊は前進を再開した。


   ◇◇◇


「しまったぁあああ! 袋持ってくんの忘れたぁああああっ!」


 そのころユーノは涙目になっていた。

 大量の竜石を前にほくそ笑んでいたのもつかの間、自分が大ポカをやらかしたことに気づいたのだ。

 嘆いていても始まらない。

 さっさとヘリオルに戻って袋を調達してこなくては。


 ユーノは魔力推進器ターボジェットで飛び立った。

 かと思いきや、すぐにクレーターに舞い戻ってきた。


「っと、一個は持っていかねえとな」


 竜石一個を拾いあげ、今度こそユーノはヘリオルへ進路をとった。

 往路と同じく三分で引き返し、街で一番大きな道具屋に飛びこむ。


「この店で一番でかい袋をくれ支払いはこれでっ!」


 一息に言って店主に竜石を差しだす。


「は、はあ。お釣りはリドルでよろしいですか?」

「急いでるんだ、釣りは取っといてくれ!」

「あっ! ちょっとお客さん――」


 大袋を手に入れたユーノは道具屋から出ると、すぐさま魔力推進器ターボジェットで飛び立った。

 むろん大勢の通行人に目撃されたが、人間が空を飛べるとは誰も思っていない。

 通行人たちは幻を見たのだと勝手に納得した。


 ユーノは三分で五〇キロを飛行し、魔窟跡のクレーターに降り立った。

 クレーターは深さ一キロ、直径一.五キロというサイズで、竜石はあちこちに散らばっている。

 一個ずつ手で拾っていては埒が明かない。

 というわけでユーノは魔法に頼ることにした。


 ――『魔力粘着網トリモチウェブ』。


 魔力を粘着性の網に変換して飛ばす変わり種の魔法。

 これを魔力探知波パルスレーダーと組み合わせ、竜石の高速回収を実現する。

 魔力粘着網トリモチウェブに大量の竜石を吸着させ、引き上げて大袋に直接放りこむ。

 ユーノはこの作業を一心不乱につづけた。


「よーし。これでラストっと!」


 その効率は素晴らしく、一〇分少々ですべての竜石を回収し終えた。

 となれば長居は無用だ。

 パンパンにふくれた大袋を引っ下げ、ユーノはヘリオルの方角へと飛び去った。


   ◇◇◇


「な、なんすかコレ? 森の中に崖……?」

「違うな。こいつはおそらくリムだ。登ってみりゃ解るぜ」


 攻略隊のノーマとレオポルドは、不自然に地面が大きく隆起した地点にたどり着いた。

 その上まで登った二人は、巨大なクレーターを目の当たりにして言葉を失った。


「確認するが、ここは魔窟があった座標で間違いないな?」

「は、はい。そのはずっすけど、一体なにが……?」

「何者かが魔窟を根こそぎふっ飛ばした。そう考えるしかねえだろう」

「やっぱり真龍の仕業……なんすかね?」

「それにしては妙だぜ。クレーターの中をよく見てみな」


 ノーマは目を凝らしてみた。

 高ランクのハンターはあらゆる身体能力が常人離れしている。

 当然、視力も並外れて良いのが普通だ。

 ノーマはすぐに、レオポルドが言わんとしているところを察した。


「妙っすね。竜石が一個も落ちてないなんて」

「ああ。真龍が竜石を回収するなんてことはねえ。人間と違ってな」

「いや、でも、竜石が無いのは真龍がブレスを二発撃ったからとか……?」

「お前の目は節穴か。どう見たってこのクレーターは一発でできたもんだろうが」

「そ、それはそうっすけど……」

「真龍でないとしたら、どんな可能性が考えられる? このクレーターを造ったのは何者だ?」

「それは……」


 ノーマは生唾を呑みこんで慎重に答えた。


「眷属か、そうでないなら未知の侵略者とか……」

「あるいは人間か、だな」


 しごく真面目にレオポルドが言った。


「レ、レオさんてば。冗談きついっすよーマジで」


 ノーマは無理やり乾いた笑い声をあげた。

 レオポルドはくすりとも笑わず、ふいにリムの下にいる攻略隊を見下ろした。


「野郎ども、クレーターから離れてな。いまからオレはスキルを全力で使う」

「りょ、了解っ!」


 困惑しきっていた攻略隊は、我に返って先を争うように退避する。


「レオさん、なんでまたそんなことを?」

「力試しだ」


 簡潔に答え、レオポルドは両手を下方に突きだした。

 ――スキル『風衝閘ふうしょうこう』。

 掌に備わった半球状の特殊な器官より衝撃波を放つ能力だ。

 驚異的な破壊力と攻撃範囲を兼ね備え、当代随一のスキルと称されていた。


 ――『メガソニックブラスト』。


 ズアッ! クレーターのリムから下の地面めがけて衝撃波が放たれた。

 大地が深々と抉り取られ、砂塵が盛大に舞う。

 レオポルドの一撃によって地面には深さ三〇メートル、直径一〇〇メートル超の大穴が出現していた。


 退避した攻略隊が歓声をあげる。

 ノーマも目を輝かせて言った。


「さっすがレオさん! マジパネェっす!」

「あのなぁ、ノーマ」


 レオポルドが苦笑する。


「オレが『マジパネェ』なら、このクレーターを造ったやつは一体どうなるんだ?」

「ええっと、それは」


 クレーターの直径は一キロ近く。対して、レオポルドがこしらえた大穴は直径一〇〇メートルほどだ。

 双方を見比べたのち、ノーマは鼻息を荒くして言った。


「ハイパーウルトラアルティメットマジェスティックギャラクティックファンタスティックフォーエバーメガギガテラペタエクサ超絶マジパネェ、っすかね!」

「へっ! お前は本当に正直なやつだな」

「あっ、いやっ、自分は決してレオさんを馬鹿にしたわけではっ!」

「いいんだよ、これが現実だ。このクレーター野郎はケタが違いすぎる」


 レオポルドは長髪をくしゃくしゃと掻きまわして言った。


「うっし、決めたぜ! オレはこれから修行の旅にでる! ノーマ、ギルドへの報告その他もろもろ後のことはまかせたぜ!」

「えっ? ちょっ、急になに言ってるんすか!?」


 ノーマはあたふたと手を振って、


「いまレオさんがヘリオルを離れたらヤバイっすよ! ただでさえS級の方々は留守がちなんすから!」

「ほかのS級が好き勝手してんだから、オレがしちゃいけねえ法はねえだろ」

「んな無茶な……。ウチらの頼りはレオさんだけなんすよ、だからお願いしますよマジで!」

「悪ぃがオレはもう決めたんだ。つうわけだからノーマ、お前もつぎ会う時までもっと強くなっとけよ!」

 バウッ! 衝撃波を地面に叩きつけ、レオパルドは大きく跳躍する。

 彼の姿はあっという間に森の奥へと消えてしまった。


「マ、マジっすかぁ……? やっぱS級ってマジパネェっす……」


 残されたノーマは唖然とするしかなかった。

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