第陸話 気強い作家と気弱い担当者
書き溜めたまま更新してないことに今日気づきました。これからはなるべく定期的に行進していけるように頑張りますね。
刑事二人が来た翌日、楓と紫苑はいつも通りの日常を送っていた。
「・・・何日後に呼ばれるかしら」
「ん、何が?」
「決まってるでしょう。あの刑事二人のことよ・・・」
「あぁ・・・横溝さんのことだから、一週間ぐらい後じゃないかな?」
「あなたもそう思うかしら・・・」
そんなことを話していると、ふいに玄関の扉が叩かれた。楓の紅茶を飲む手が止まる。楓は来訪者に心当たりがある。予想が当たっているなら、もうすぐ弱々しい声が聞こえてくるだろう。
「ご、ごめんください・・・」
楓は紫苑に目配せる。紫苑は何も言わずに楓に微笑む。その後すぐに玄関へ向かい扉を開けると、そこには小柄な女性が立っていた。
「あ、し、紫苑さん、こんにちは・・・」
「やあ、静葉ちゃん、久しぶりだね。姫に用事かな?」
「そ、そうです・・・先生はいらっしゃいますか?」
「姫なら書斎にいるよ。どうぞ、中に入って」
おどおどと話す女性を紫苑は家の中に招き入れる。
彼女は【茜崎 静葉 19歳】で、作家である楓の担当者だ。
作家は、自費出版以外の場合、ほぼ必ずどこかの出版社に所属しており、その作家の作品や締め切りなどを管理するのが、担当者という仕事だ。要するに、作家のマネージャーのようなものだ。
静葉は紫苑に連れられて、書斎に向かう。紫苑は、静葉を落ち着かせようと思い、話を振る。
「今日は姫にどんな用があるのかな?」
「は、はい、その・・・原稿の締め切りが明日なので、原稿をもらおうと思って来ました」
「原稿かぁ・・・姫書き終わらせてるかな」
「先生の本はとても人気なので、出版社としても遅らせたくないみたいです・・・」
楓がいる書斎の扉の前につき、静葉は大きく深呼吸をし、扉を3回叩く。
「・・・入っていいわよ」
ドアの向こうから、楓の声が聞こえる。その声を聞いた静葉は、より一層緊張している。 「し、失礼します・・・」
静葉が扉を開けると、部屋の奥には、足を組み、頬杖をつきながら、本に視線を落としている楓の姿が見えた。
「・・・何の用かしら」
「あ、えっと、先生の新作の原稿を預かりにきました・・・」
「原稿・・・あぁ、出来上がってないわよ」
一度も静葉の方へ目を向けることなく、楓は言い放つ。
「そ、それは困ります!先生今日中に書いてください」
「嫌よ。疲れるもの」
「明日締め切りなんですよ!?編集長から怒られるのは私なんですよ!?」
「私が怒られるわけじゃないなら、関係ないわ」
原稿が書き上がっていないことに焦る静葉と、原稿が書き上がってないことを全く詫び入れる様子のない楓。
「まぁまぁ、姫も静葉ちゃんも落ち着いて。姫は全く書いていない訳じゃないでしょ?」
「えぇ・・・8割は書き終わってるわ」
「残りの二割はあと何時間ぐらいで終わりそう?」
「そうね・・・4時間で書き終わるわ。ある程度どのように書くかは頭の中でまとめてあるの」
「静葉ちゃん、4時間だけ待って貰えるかな?」
「4時間なら問題ないですけど・・・先生本当に書けるんですか?」
静葉が楓に疑いの目を向ける。すると、楓は不機嫌そうになる。
「・・・別に私は書かなくてもいいのだけど」
「う、嘘です!先生頑張ってください!」
そうして、楓が原稿を書き始めると、静葉は小さい声で紫苑に礼を言う。
「(紫苑さんのおかげで助かりました!ありがとうございます!)」
紫苑は返事の代わりに静葉へウインクを飛ばす。そして、そのやりとりを背に原稿を書いている楓がニヤリといたずらっぽく笑っていることを知っている者は、楓の手元にあるティーカップだけだった。




