第弐話 紅茶を一杯
基本的に投稿は不定期です。長くても1週間に一話はあげます。
紫苑と楓は、階段を下りながら、他愛のない会話をしていた。
「姫、朝ご飯は何がいい?」
姫と呼ばれ、楓は反応する。
「ん…ベーコンエッグがいいわ」
お金持ちの彼女でも、好みは意外にも、庶民派なのである。
「コーンスープ飲みたい?」
「ええ、ぜひ」
流石は助手というか相棒というべきか。楓の食べたいものがわかっているらしい。二人がリビングにつき、紫苑が、「ちょっと待っててね」というと、手慣れた手つきで料理をこなしていく。
その間に、楓は服を着替えたり、顔を洗ったりなど、身だしなみを整える。そうして、整え終わった頃には朝食が完成していた。
「相変わらず、手際がいいわね」
「僕にはこれぐらいの取り柄しかないからね」
「あら?それは家事全般ができない私への当てつけかしら?」
「そんなことないさ。姫は今のままで十分だよ」
「そう…じゃあ、遠慮なく」
無表情で話す楓とは対照的に、やさしく笑いながら話す紫苑。傍から見ればやっぱり、おかしな関係であり、それと同時に、いつ崩れてもおかしくない関係なのだろう。しかし、彼女らにとっては、他人の戯言に過ぎないのだろう。なぜなら…
「コーンスープがいつもよりもおいしいわ。何か変えたのかしら?」
「流石だね。コーンをより甘いやつに変えたのさ。後は僕のまごころかな?」
「そう…とてもおいしかったわ。あなたのまごころを抜いたらもっとおいしくなるでしょうね」
「素直においしいって言ってくれればいいのに、ひどいなぁ…」
この幸せは、彼女らだけが知っていればいいのだから。
朝食を食べ終わり、紅茶を飲みながらゆっくりしていた時、ふいに、玄関のドアをたたく音が聞こえた。
「あら、誰かしら」
「僕が相手してくるよ」
紫苑が玄関を開けるとそこには二人組の男がいた。その二人組の男は、紫苑の姿を見るなり、緊張した顔で言った。
「紫苑さん、事件です。楓先生を呼んでください」
「おやおや、刑事さんじゃないですか。とりあえず、上がってくださいよ。姫も今日は起きてるので大丈夫ですよ」
緊張した顔の二人とは逆に、紫苑は柔らかな笑顔で二人を招き入れた。
「姫、お仕事の依頼だよ」
「わかったわ。でも、紅茶を飲み終わるまで待ってもらってもいいかしら」
そう言った彼女のティーカップには、茶柱が立っていた。