第捌話 姫、桜田門へ
長らくお待たせしました。サブタイは変更するかもしれません。
横溝達が館を訪れてから約一週間が経った頃、横溝の部下である平泉から、『二年前の事件の担当した刑事と警察関係者のリストアップが終わった』との連絡を楓は受けていた。
「———というわけなので、楓先生に本庁へお越しいただきたいのですが…」
電話越しから平泉の声が聞こえる。楓は受話器を耳に当て、少し考えこんでいた。
「…それは、どうしても私も行かなければいけないのかしら?」
ため息交じりに楓は話す。どうやら、彼女はできるだけ洋館から出たくないようだ。
「本来なら、我々から楓先生のもとへ出向く予定だったのですが、今回の一件で、資料の持ち出しに関しても持ち出しが厳しくなりまして…申し訳ありません」
「別に…貴方が謝ることじゃないわ」
そう言い、大きくため息をついた。どうやら、自ら足を運ぶ以外に方法はないという結論を出したようだ。
「…横溝刑事に伝えておきなさい。2時間後にお邪魔するからケーキの準備をしたほうがよろしいわよ、と」
それを聞いた、平泉は嬉しそうな声で
「ありがとうございます!先輩にはしかと伝えておきますね」
そういい、電話を終えた。ふぅ、と息をつき、視線を紫苑のほうへとむけると、楓の着替えを持って微待っている姿を目にすることができた。
「2時間後に桜田門よ。準備を始めてくれるかしら」
「了解しました、お姫様」
わざとらしく仰々しい口調を取る紫苑から着替えを受け取った楓は自室に戻り、着替えを始める。紫苑はその間に車の用意と部屋の清掃を済ませる。
楓が着替え終わり、リビングへと戻ってくると、テーブルの上にはティーカップが二人分置かれていた。
「まだ時間もあるし、ブレイクタイムにしよう。これから忙しくなるからなかなか心を休ませられる時間が取れないと思うからね」
ティーポットを持った紫苑が優しく笑いながらそう言って、楓を席につかせ、紅茶をティーカップへ入れる。濃い赤褐色の水色と甘い香りで楓はその紅茶を言い当ててみせた。
「…これはアッサムね。ミルクは要らないわ」
そう言うと、目を瞑り、紅茶を嗜み始める。束の間の休息だ。
1時間半ほどが経ち、楓たちは本庁へと向かった。20分ほどで本庁の前へと着くことができた。近くへと車を止め、エントランスの受付の女性へ話しかける。
「何か御用ですか?」
「捜査一課の横溝刑事に繋いでもらえるかしら」
「捜査一課の横溝ですね。少々お待ちください…申し訳ございません。横溝は現在昼休憩で外に出てしまっています」
「そう…なら、警視総監に繋げてもらえるかしら」
唐突に、警察官のトップに繋げろと言われた受付嬢は不審に思い、楓に名前を尋ねる。
「失礼ですが、お名前を教えていただけますか?」
「…夜桜楓、夜桜正造警視総監の娘よ」