悪魔の魔力を吸いし妖精
「……『魔壁』!……思い出した」
インプの攻撃をマオの魔術で防ぎながらもなんとか応戦している最中にマオが何かを発しました。
「何か思い出したのですか?」
「……ネクロノミコンに書いてあった。インプ。木の枝に住まう妖精……のはず」
「妖精?」
精霊とは異なるのでしょうか?
「……妖精は精霊よりもさらに小さい存在。分類としては変わらない。だけど、小さい故に色々な影響を受けやすい」
なるほど。ということはこの『インプ』は何かの影響を受けてこんなに大きくなったのですね。
「ん、待ってください。妖精と精霊が近い存在なら、何故悪魔の魔力に?」
「……インプは結構特殊。悪魔の魔力の影響を受けて悪魔化したと思われる」
「ギャー! ゴチャゴチャとウルサイギャー!」
「……! 『火球』!」
「ギャー! ヒダギャー!」
なるほど、木の枝の妖精ということは、火に弱いのでしょうか。
「……ここで倒すことは簡単。でも、あのインプの目的がわからない」
「では久しぶりに僕の出番ですね!」
そして僕はクラリネットを取り出しました。
「ギャー? ナニヲ」
悪魔の魔力を取り除けば良いだけです。そう願えば良いだけです。何も深く考えなくて良いのです!
思いっきり吹いた音は一直線にインプへ届き、インプから黒い霧が出始めました。
「……さすがトスカ。悪魔の魔力が抜けてる」
「取り除けますか?」
その時でした。
ピシッ
今まで聞き覚えの無い音が僕の手の近くから『見えました』。
「……トスカ?」
「あ、いえ、続けます!」
そして音を出し……音を……。
ポロ……。
まるで崩れるようにクラリネットが僕の手からこぼれ落ちました。
「なっ!」
「……! が、楽器が?」
クラリネットのおおよそ中心が崩れるように取れて、誰が見てもわかる状況です。
「く、クラリネットが……壊れた?」
一瞬何が起こったか解りませんでした。
ですが、目の前には二つに割れたクラリネット。マーシャおばちゃんから唯一貰った大切なものです。
「ギャー? コウゲキガコナイナラコッチカラアアア!」
「……む、させない。『炎壁』!」
「コシャク! ブウウウウウ!」
「……風? 厄介」
マオが苦戦しているのも頭に入らないほど僕は混乱していました。どうすれば。
その時です。
「トスカ!」
シャムロエが目を真っ赤にしながら大声で叫びました。
「楽器が折れても、あんたは折れちゃダメよ!」
力強い言葉が僕を貫きました。
いつも側で支えてくれていたシャムロエ。時々空気を読まない発言をしますが、時々真面目な事を言う。
「その楽器がどれほどの物か、全ては解らないわ。でも、だからと言ってその楽器が折れたからと言ってあんたの心まで折れちゃダメよ!」
「そうです。……『トスカは』折れてはいけません!」
折れる。
僕は自分では解らないほど表情に出ていたのでしょう
ふと我に返ると、苦しい顔をしながらも魔術の壁で攻撃を防いでいるマオ。目を真っ赤にしながらもなんとか立っているシャムロエとゴルド。苦しみながらも一カ所に集まってなんとか生きながらえているノーム。
皆が生きようと必死な光景が目の前にありました。
ならば僕の行動はただ一つです。
「……トスカ、何を!」
折れたクラリネット。しかし先端部分はまだ大丈夫です。
クラリネットは咥える部分と手でおさえる部分を外す事が可能です。
そして咥えるだけの部分になったクラリネットでも音は出ます。
「皆さん、すみません、耳を思いっきりふさいでください!」
その声に、シャムロエ、マオ、ゴルドは耳をふさぎました。同時にマオはノームの周囲に土の壁を作りました。
僕は思いっきり息を吸って、そして。
『ピイイイイイイイイイイ!』
凄まじい高音域の音。その音は部屋中に響き渡り、微かに地面が揺れました。
そして……。
「ギャ……あ……」
凄まじい轟音と共に巨体は倒れました。




