ノームを悩ます悪魔
精霊の森の奥へ進むと洞窟がありました。
そこへ入ると、音が反射して自分の声がすぐに戻ってきます。
「シャムロエ、悪魔の気配はありますか?」
「何で私に聞くのよ……まあ、いるのは確かね」
シャムロエの体内に眠る精霊の魔力は悪魔と相性が悪く、近くに悪魔がいると体調不良になるので、こういうときは便利ですね。
「トスカ、ボクやシャムロエは結構辛いのですよ?」
僕の心を読んだゴルドが話しかけてきました。神術『心情読破』が使えるならまだ余裕なのでしょう。
「ちなみに今回はどんな症状なのですか?」
「目ね」
「目?」
先ほどから目を手でおさえて何かしていると思ったら、そういうことだったのですね。
「こう、目の奥が締め付けられるように痛いわね」
「うーん、なんとなく想像ができないですね」
そう言っていたら、マオの目が金色に光りました。心でも読んだのでしょうか?
「……ふむ、おそらく『凄くたくさんの本を読んだ後の目の痛み』な感じ」
「なるほど」
「なるほどじゃないわよ。早く解決するわよ!」
といわれましても、道案内役のノームがマオの頭に乗っかってぐったりしてしまったのですよね。
「……マオは別に平気。ただ、ノームは相当弱っていたみたい。そもそも鉱石精霊のゴルドが辛いといっている悪魔の魔力に、土の精霊が平気で居られるわけがない」
「そうなのですか?」
「……と、思っただけ。根拠は無い」
淡々と話すから本当だと思ったじゃないですか!
そんなことを思ったら、洞窟内の生物でしょうか?
小さな羽根の生えた生き物が『キー!』と発声し、飛んできました。
「……!」
ドン!っと軽い衝撃を背中に受けました。
「もしかしてマオ、怖いのかしら?」
「……『コウモリ』が怖いわけじゃない」
「そんなことを言って、トスカに抱きついているじゃない」
ケラケラと笑うシャムロエ。まあ、マオも小さいのでこわがったって良いじゃないですか。
「……『コウモリ』に怖がってはいない。ただ、突然『何か』が現れたらさすがにマオも驚く。そして反射的に魔術を唱えてしまう」
「するとどうなるのよ?」
「……全員……まるこg」
「早く行きましょうトスカ! 洞窟や悪魔云々よりも、幼き少女の方が危険ですよ!]
「そうですね!」
走り出す僕達。そして洞窟の最深部であろう広い場所に到着したと思ったら、そこには大きく太った『何か』が座っていました。
「んじぇ……あれが、あれが悪魔んぼ」
ギリギリの力を振り絞ってマオの頭に乗っているノームは僕達に伝えました。
再度『悪魔』の姿を確認しました。
肌は黒く、耳は尖っており、目が真っ赤です。今のシャムロエとゴルドのように充血していますね。
大きさは僕達の四倍。横にも大きく、僕達が通った洞窟の通路からはもう出れないほど太っています。
「みにくい……いえ、みにくいわね」
現在シャムロエは目が痛いとのこと。『醜い』のか『見にくい』のか分かりません。もしかしたらどちらも言ったのでしょうか。
「ギャー? ダレジャー?」
会話ができるなら、まだ何とかなるのでしょうか。
「貴方は?」
「オレハ『インプ』ダギャ。マヨイコンデココヘキタ」
「……インプ。聞き覚えのあるような無いような」
「すみませんが、ここから出て行っていただいても良いですか? ノームたちが困っています」
周囲を見ると、ノームが一箇所に固まって微小に光っています。
「あれは魔力を一箇所に集めて『耐えている』状態ですね。ですがかなり危険です」
「見ればわかります。ノームたちの苦しんでいる声が『見えます』から」
「ギャー? オレニタテツク? ジャアタベルジェー!」
「……シャムロエとゴルドは休憩。マオとトスカで行く」
精霊の魔力を持っている人が羨ましく思いましたが、激痛が続くのと戦うの、どっちが良いかと聞かれれば……。
どっちも嫌ですね!




