精霊の森
幼い頃にマーシャおばちゃんから何度も聞いたことがある単語でした。そしてその場所は用が無い限り絶対に立ち寄ってはいけない場所とも言われてました。
「精霊の森ですか?」
「ガラン王国へ行くには少しだけ遠回りになりますが、もしかしたら手がかりがあるかもしれません」
「手がかりと言いますと?」
「もちろん、この二人についてです」
最初に出会ったときはとにかくゲイルド魔術国家へ向かうことを優先にしたので、ガラン王国・ミッドガルフ貿易国の順で進んでいました。
確かに精霊の森も北にありますが、ガラン王国へ行くには少しだけ遠回りになります。
ただ、方角が北西か北東の違いなので、完全に真逆というわけでもありません。
「ですが、噂だとあそこには強い魔獣や魔女の存在もあると聞きましたよ?」
「トスカ、よく考えてください」
ゴルドは僕の肩をガシっと掴みました。
「あの二人より強い魔獣が近所に居たら、タプル村は崩壊します」
「確かに」
「殴って良いわよね!」
「……不名誉極まりない」
反射的に答えてしまいました。ですが、確かにこの二人……というかゴルドも含めてこの三人であれば問題は無いでしょう。
『悪魔』が居なければですけどね!
「……なんだか嫌な予感がした」
「え?」
「……なんでもない」
マオが苦笑しつつも、とりあえず次の方針は決まりました。と思っていたらティータ村長が少し悲しげな表情を浮かべていました。
「ティータ村長?」
「あ、いや、そのね。精霊の森は私の母の故郷があるらしくてね、追い出された土地なんさ。だから興味が無いわけではないのさね」
「ティータ村長は行った事が無いのですか?」
「ああ。禁忌を犯した母の血縁もまた立ち入り禁止さ。影響が無いとも言い切れないからね」
一体どんな禁忌を犯したのか気になりますね。そんなことを思っていたら小さい声でゴルドは僕に話しました。
「トスカ、その辺りはボクが知っているので、道中お話しますよ」
「助かります……こほん。それと行く前に自宅へ行って良いですか?」
「ええ。良いわよ」
「……トスカの家、久々」
忘れ物があるわけではないのですが、かといって素通りする場所でもないと思っただけなんですけどね。
☆
自宅に到着すると、家はそのままで草が少しだけ伸びていました。それほど長い期間居なかったわけではないと思ったのですが……。
「……仮説。マーシャは音によって自分の時間を止めていた。それが草木にも影響していたとなれば不思議ではない」
「え、そうなると僕にも影響が出るのでは?」
「……音を操ることができるマーシャなら、トスカを避ける音くらいは……うん、考えが安直だった」
「いえ、マーシャおばちゃんはもしかすると僕の知らない能力があったかも知れませんね」
そう言って自然とマオの頭を撫でていました。
「それで、ここには何か探しに来たの? まあ自宅だから一日くらいならここで休んでも問題は無いと思うけど」
「いえ、今日中に出発はしたいと思います。ここへは……マーシャおばちゃんの部屋へ用があっただけです」
そう言って僕はマーシャおばちゃんの部屋へ行きました。
そこには椅子があり、マーシャおばちゃんがいつもひざ掛けとして使っていた布がきれいにたたまれてありました。
今にも泣いて膝を地に着きかけそうですが、三人の前ではそんな姿を見せられません。そこは耐えて周囲を見ます。
「トスカ、引き出しに『トスカへ』と書かれた手紙がありますよ?」
「マーシャおばちゃんのことです。何も言わずにお別れは無いかと思いました」
そう言って僕はその手紙を開き、中を読みました。




