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感謝の気持ちと別れの挨拶

 タプル村集団墓地へ行くと、そこには一人の耳の尖った女性がいました。

 金色の長い髪を持つ女性は誰が見ても「エルフ」というでしょう。


 それ以上の事を考えることが出来ない僕の代わりに、隣に立っていたシャムロエが声をかけました。


「貴女は?」

「おや、誰かと思ったらトスカかい。そちらのお嬢さんはシャムロエかい?」

「私を知っているのかしら?」

「ああ。私が遠征から帰ってきたときに色々と事情は聞いたさ」


 そんなやりとりを見ていると意識が徐々に戻ってきました。


「はっ、あ、ティータ村長。お久しぶりです」

「はは、久しぶりだね。少し男前になったかい? 女の子も連れて」

「あ、いや、この人は特にそういう人ではありませんが……」

「まあ良いさ。トスカがここへ来たということはマーシャさんに会いに来たんだろ?」

「そう……です」


 そしてちょうどティータ村長の背中に一つ新しいお墓がありました。

 そこには僕が生まれてから旅に出るまでずっと一緒だった人の、大切な名前が刻まれてありました。


『長年の時を経て、いくつもの祝福を与えてくれたことに、村の人達全員は感謝を忘れません。安らかにお眠りください。マーシャ様』


「あ、ああ」

「おっと」


 僕が倒れかけた所にシャムロエが受け止めてくれました。


「私も遠征から帰った直前だったから最期は見届けられなかったのが悔しいね。だがマーシャさんは幸せだったと思うさ」

「そう……でしょうか」

「ああ。もうマーシャさんの『役目』も終えただろうし、話しても良いだろう?」


 そう言ってティータ村長はマーシャおばちゃんのお墓を見ました。

 もちろん返事はありません。

 そんな声も『見えません』。

 ですがなんとなくそういう雰囲気を感じ取れました。


「マーシャさんはある日、この村に『落ちて』きたんだ」

「落ちて?」

「そうさね。数百年前だったか突如現れた。そして言葉も最初は解らなかった」

「それって」


 マオと一緒ではと思いました。シャムロエは転生なのでこの土地出身ですが、マオは異なります。


「異世界……本当に信じがたいが、言葉がわかるようになってからそう言っていたね」

「それで、帰ろうとしたの?」

「いや、マーシャさんはここに留まったのさ。トスカ、お前がここにいるのがその証拠さ」


 僕?

 僕の両親は幼い頃に亡くなって、マーシャおばちゃんは育ての親だけど、祖母という話しも聞いたことはありません。


「そうさね。マーシャさんの子供の子供の……何代も続いてトスカと繋がっているのさ」

「え!」


 何代も続いてって、どういう意味かわかりません。


「マーシャさんが子供を産み、その子供が子供を産んだ辺りから異変は起こったのさ」

「異変?」

「ああ、子供が物心をつく頃にその親……つまりマーシャさんの子供は亡くなったんだ」

「え!」

「そしてその子供……つまり孫が子を産み物心がついたころにまた親は亡くなった。それが何度も続いたんさね」

「で、でも!」

「事実さ。それもそのはず、その一部始終を私が見ているのさ。『ハーフエルフ』であるこのティータ村長の名に偽りは無いさね」


 ありえません。そんな過酷な運命なんて、一体どんな気持ちで生きていたのですか!


「ああ、私も神術を嗜んでいるから『心情読破』くらいは使えるさ。マーシャさんはいつも泣いていた。この運命が終わるまでは死ねないと」

「ですが、どうやってそんな長生きを……」


 そう言うとシャムロエがボソッと答えを言いました。


「音楽ね」

「へ?」

「マーシャはトスカの血縁。つまり音を操る能力があるのよね?」

「そうさ。音を操り、長年生きた。そしてギリギリのところでトスカが生まれ、旅に出た。きっとそれがマーシャさんにとって運命の分かれ道だったのだろう」

「でも、音を使って長生きなんて……」


 いえ、心当たりはあります。

 静寂の巫女ミルダは鈴の音によって長生きをしています。マーシャおばちゃんは自分の楽器の音で長生きを……。


「つまり、このクラリネットを渡した時点で……!」


 そう思った瞬間涙が出てきました。

 マオが異世界から来た瞬間、何かを悟ったのでしょう。

 シャムロエが転生したのも何かの運命なのでしょう。

 この二つが重なった今なら、今までの過酷な運命から逃れると踏んで、僕にクラリネットを託したのでしょう。


「マーシャおばちゃん……」


 そう言って目をつむり、祈りました。 

 ただ、感謝だけを綴った思いに、マーシャおばちゃんの今までの苦労が洗われるとは思いませんが、少しでも僕自身が納得の行くように、今できる事を行いました。


「ねえトスカ。ミルダから預かっている物を返したら?」

「はい」


 そう言って僕は鞄からオルゴールを取り出しました。


「おや、その音楽は……あはは、久しぶりに聞いたね」

「はい。僕もです」


 その音楽はきっと、マーシャおばちゃんが異世界で聞いていた音楽なのでしょう。

 そしてその曲は僕も小さい頃から聞いていた曲です。

 曲の名前は『呼声』。

 とにかく僕はマーシャおばちゃんに言いました。



「ありがとう。そして、お休み」

 章の切り分けを少し考えていましたが、ネクロノミコンの話が少しだけ出てきそうなので、続行で行きます!

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