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♪ご飯を眼の前にたどり着けぬ僕

 今回もトスカ君が演奏しております。ツイッターにて公開していますので、よろしければお聴きいただければと思います。

 日も暮れて『寒がり店主の休憩所』へ入ると、相変わらずモコモコの店主フーリエの姿に驚きます。


「あ、トスカ様。お帰りなさいませ」

「フーリエ、連泊を希望してもよろしいですか?」

「はい。何日ほどでしょうか?」

「決まってはいないので、とりあえず銀貨二枚を渡します」

「に、二枚!」


 驚くフーリエに僕も驚いてしまいました。

 この城下町では屋台の料理ですら銀貨を要求するので、驚く額では無いと思いますが。


「あ、い、いえ。久々の大金に驚いてしまいました。すみません!」

「この城下町では銀貨の価値はそれほど大きくは無いのでは?」

「この城下町だけです。他の国は銅貨で生活できますよ」


 銀貨二枚を手に持ちご機嫌なフーリエ。何を作ろうかーと鼻歌を交えて箱の中にお金を入れました。

 フーリエの言葉が気になったのか、今度はシャムロエが質問をしました。


「フーリエは他の国の事情も詳しいの?」

「はい。この『寒がり店主の休憩所』は大陸の数カ所に存在します。大きな店舗はこの『ガラン王国店』と『ミッドガルフ貿易国店』と『ゲイルド魔法国家店』の三つですね」


 ここは大きな店の分類だったのですね。となると他の『小さな店舗』はどれほど小さいのでしょう……。


「あ、大きなと言ってもここは特別です。ゼイキンというのが高くて、この建物だけは格安で契約できたのです」

「そういう事だったのですね」


 一瞬『小さな店舗』は屋根も無いのかなとも思いましたが、そうでもなさそうですね。


「では、銀貨二枚もいただいたので、他の店にも連絡して、トスカ様御一行はしばらく大陸の店舗のお店を利用できるように手配します!」

「本当ですか!」

「……予想外の展開。棚からぼた餅」


 マオが聞き慣れない単語を言った気がしますが、きっと良い意味でしょう。

 しばらく宿に困らないのはこちらとしても助かります。


「そうだ、大陸事情に詳しいフーリエなら知っているかしら?」

「何でしょうか、シャムロエ様」

「この国の『悪魔』についてなんだけど」


 その言葉を聞いた瞬間、一瞬フーリエはビクッとしました。

 え、何か聞いてはいけない単語でしたか?


「あ、いえ、その『悪魔』についてはこの国で少し……いえ、非情に繊細な事情がありますので」

「そうなの? つまり何かあるそうね」


 ズイズイと近づくシャムロエに、脅えるフーリエ。


「待ってくださいシャムロエ。フーリエも怖がってますよ?」

「そ、そう。悪かったわね」

「いえ。シャムロエ様も色々と事情がありそうですね」

「ええ。色々……ね」


 シャムロエも少し冷静になり咳払いをしました。


「コホン。お腹が空いたわ。腰も痛いし目も調子が悪いわね、疲れからかしら。という事でご飯をいただこうかしら!」

「任せてください! 昨日は海鮮でしたが、今日は森の恵みをふんだんに使った体に優しい料理です!」

「……野菜」

「マオ様。野菜を食べないと大きくなれません!」

「……フーリエと身長はあまり変わりないと思う」

「な! くっ! 寒がり故にこの厚着の服は脱げませんが、せめて顔だけ出しましょう!


 そしてフードをばっと取り、ようやく素顔を出しました。


 青髪に白い肌。そしてくりっとした赤い目。マオとはあまり年齢が変わらない様にも見えます。

 こんな少女が店主をしていたとは思いませんでした。


「ほら! マオ様より若干大きいです!」

「……えい」


 マオが突然微少に光りました。

 銀髪がゆらゆらと浮き上がり、僕の身長すら軽々と超えました。


「……マオの方が大きい」

「なっ! それは卑怯です!」

「マオ、その辺にしましょう。フーリエも困っていますよ」


 軽く口笛を吹きました。口笛の中には『魔力を抑制』と念じてマオに向けて放ちます。


「……むっ! 目に髪が刺さった」

「それはすみません……」

「ほほう。今のは一体?」


 自然な流れで音を出したのですが、フーリエは見逃しませんでしたか。


「僕は『音を操る事ができる』のですよ」

「音をですか?」

「はい。そうですね……例えば今日の料理がさらに美味しくなるように演奏します。それで証明してみますよ」


 ☆


 テーブルに並ぶ森の恵みという名の野菜料理は、とても色とりどりです。

 中には果物もあり、正直どれも美味しそうですね。


「フーリエはどこからこの料理の知識を?」

「企業秘密ではありますが、各店舗との情報交換も一つの方法ですね。新しい料理の作り方を時々共有するのですよ」

「それは凄いですね」


 並ぶ料理を目の前にうずうずするも、フーリエはすかさず僕の動きを止めました。


「さて、見せていただきたいのです。音を操る能力というのを」

「……やっぱり食べてからではダメですか?」

「嬉しいお言葉ですが、それでは検証になりません! 食べる役はシャムロエ様とマオ様にしてもらいます!」


 目の前に並ぶ豪華な料理。それをすぐに食べれないなんて、どんな生き地獄ですか! 提案したのは僕ですけどね!


「まあ良いです。要望は何ですか?」

「……野菜が美味しく感じる音楽」

「腰痛が治る音楽」


 相変わらず二人はおかしな要望を出しますね。

 一方フーリエは考え込みます。そして一つの答えを出しました。


「楽しくなる音楽をお願いします」


 その要望が一番難しいのですが、まあ良いでしょう。

 クラリネットを構えて僕は演奏をしました。曲名はそうですね……『ご飯を目の前にたどり着けぬ僕』でどうでしょう。


 ♪


 今回の劇中曲は以下のurl(Twitter)にて公開しております。

https://twitter.com/kanpaneito/status/1108485880170217472

 よろしければどうぞ!

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