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それぞれの悩み

「あっはっは、傑作だな」

「笑い事ではありませんよ。命に別状はありませんが、場合によっては『パムレット』以外言葉を発することができなくなる可能性があったかもしれないのですからね」

「やったのは笛吹きの兄さんの連れだろ? もしそうなら責任は取ってもらうがな」

「うう」


 尋問を無事(?)に終えた後、僕だけ謁見の間に呼ばれました。

 状況の説明とか尋問の出来事の説明をしてくれとのことです。本来であれば検査官が説明をする段取りですが、現在マオの所為で寝込んでいるため僕が呼ばれました。


 それにしても、シャムロエもマオもゴルドも居ない状況って珍しいような気もしますね。なんだか少し不安にもなってきました。


「さて、本題だが」


 真顔になるミッドガルフ王。以前の楽器屋から打って変わって今では立派な王様です。


「キューレ騎士団長に関してはこっちの不手際でもある。それはすまなかった」

「あ、いや、あれは事故といいますか」

「実際キューレ騎士団長がどこまで本当か、どこまで嘘を言っているのかをずっと見極めていたのだが、なかなか難しくてな」

「ミッドガルフ王も『心情読破』を?」

「いや、俺は魔術師ではないからな。元商人の勘さ」


 ミッドガルフ王はため息をつき、一枚の紙を懐から出しました。


「今回の一件は俺の方で処理をしておくさ」

「あ、ありがとうございます」

「ただし一つお願いがある」

「お願いですか?」

「ああ。キューレ騎士団長がガラン王国で見つかったという報告があった」

「ガラン王国で?」


 二人に分かれたキューレは誰にも止めることができないほど素早い動きで天井を突き破りどこかへ行きました。

 まさかガラン王国へ行ったとは思いませんでした。


「深い事情はわからないが、大怪我を負っているとの情報だ。できることなら捕まえて欲しい」

「ぜ、善処します」


 と言っても相手はあのカンパネと同じ種族とのこと。そう簡単に捕まってくれるかわかりませんが。


「さて、込み入った話は以上だ。俺も忙しくてな」

「楽器屋の時とどっちが良いですか?」

「そうだな……王になってから少し見える風景が変わったな」

「風景ですか?」


 ミッドガルフ王は少し寂し気な目をして僕を見ました。


「楽器屋の時と比べて周りの頭が低く感じるんだ。それが居心地悪くてな。これが良かったのかはわからないが、やって良かったと言える日が来る事を祈るしかないさ。忙しいかどうかなんて、まだ俺にもわからないな」


 以前の楽器屋の時と比べて活気は無く、そこに居たのは『王』として責務を果たそうとしている一人の男性でした。



 ミッドガルフ王との謁見も終え、外に出ると夜になっていました。

 ミッドガルフ貿易国は乾燥している土地でもあり、夜でもなかなか暖かいですね。


「あ、出てきた」


 城の前に立っていたのはシャムロエでした。


「迎えに来てくれたのですか?」

「半分正解。もう半分はフーリエの宿で怪しげな魔術の実験をし始めたから逃げてきただけよ」


 苦笑するシャムロエ。怪しげな魔術の実験って何でしょう。


「もしかして『ネクロノミコン』を使った実験ですか?」

「そうよ。シグレットが何か試したいことが有るって言ってね」

「何度か助けてもらっていますが、ちょっと怪しい部分もありますよね」

「そうね。まあゴルドとマオもいるし、フーリエも自分の店が破壊されないよう血眼になって見守っているから大丈夫でしょ」

「それなのに逃げてきたのですね」

「まあね」


 他愛も無い会話っていつ以来でしょうか。いつも忙しかったのでこういう会話は久々にも感じます。


「ねえ、少し遠回りして話しながら帰らない?」

「ええ。良いですよ。何か悩み事ですか?」

「まあ、そんなところ」


 普段は直感で動いたり、時にはマオのお姉さんの様に立ち振る舞うシャムロエ。ですがそもそも『記憶が無い』という部分において平気では無いはずなのです。

 

「もし、シャムロエの記憶が戻ったら、どうするんですか?」

「急な質問ね」

「まあ、こういう時でないとこんな話はできないかなと思いまして」

「そうね。ゴルドから聞いた話だと娘がいるのよね」


 そう言って夜空を見上げるシャムロエ。


「正直不思議よね。周囲を見ても私の見た目って母親には見えないわよね。それなのに娘が居るなんていわれたら罪悪感で押しつぶされそうよ」

「罪悪感ですか?」

「あくまで私は生きていた頃の記憶が無いだけで、言葉や常識は分かるわ」


「え?」


「ん?」


「いえ、何でもありません」


 シャムロエの口から『常識』という単語が出るとは思いませんでした。いつも空気を読まない発言をするので、てっきりその辺も無いのかと思っていましたよ。


「とにかく、こうして言葉を交わしたり、相手の気持ちくらいはなんとなく分かるわよ。その上でもし私の娘という人物が目の前で会ったとき、相手は私を母親だと言ってきても私は多分すぐには反応できない。それがなんとなく嫌ね」

「では記憶を失ったままでも良いのでしょうか?」


 その質問にシャムロエは少し黙りました。


「私はそれで良いのかもしれないわね。でも、娘はどう思うかしらね。いや、たとえ娘と思わず友人だとしても相手が自分のことを忘れているなんて、寂しいと思わない?」


 マオの相手をしているシャムロエはいつも姉のような存在でした。だからこそ、実は影で相手のことも考えているのでしょう。


「でしたら、いっそのこと思い切ってゴルドに聞いてみませんか?」

「何を?」


 ふと思いついた提案でしたが、もしかしたら可能性がある提案だと思いました。


「『ネクロノミコン』に記憶を蘇らせる術が無いか、聞いてみるのですよ」

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