神術で尋問
「ふふ、何を焦っているんですか?『フーリエ館長』」
「へ?」
検査官二人がニコニコと笑っていました。
え、今『フーリエ館長』って言いました?
確か寒がり店主の名前は関係者や特別な人以外は知られていないと思っていたのですが。
「すみません。『あの魔術研究所の館長』をからかう事はきっと今後訪れないと思いまして」
「えっと、ワタチを知っているのですか?」
「はい。私たちは魔術研究所の研究員で、勉強のためにここへ出向している者です」
「そうだったのですかー!」
へなへなとその場で膝をつくフーリエ。先ほどの緊張はどこへ行ったのでしょうか。
「えっと、じゃあフーリエの事情は知っているってことかしら?」
「はい。ここへ出向する前に上司から『困ったときは寒がり店主の休憩所の店主に頼れ』と言われましたから」
「うう、もう少し出向関係の情報共有を強化しないとワタチが困りますね。次の会議の議題に挙げましょう」
内々の話を交えつつ、フーリエは免除されました。良かった良かった。
「フーリエ館長は免除しますね。それでは次はシグレット様ですね。念のため『心情読破』で心を覗きます」
「ああ。良いぜ」
「昨日の事件で何か魔術を使いましたか?」
「魔術で壁は作ったな。あと魔力が込められた瓶を投げたな」
「嘘偽りはなさそうですね。ありがとうございます」
シグレットも魔術研究所の関係者なので流れ作業みたいな感じですね。
「次はゴルドさんですね」
「はい……」
ん? 何やら元気がありませんね。
「爆発時、貴方は何をしていましたか?」
「記憶が曖昧でして……気がつけばここで目をさましていました」
「ふむ……む……んんんんん!」
検査官が眉をひそめてゴルドを睨みます。え? どうしました?
「あれ? メリア。私の目の色変わってる?」
「ええ。ちゃんと目が金色に光っているし、『神術』は使っているわよ?」
「んん、おかしいですね。ゴルドさん、『心情偽装』を使っていますか?」
「目を見ていただければわかるかと……」
困った顔をするゴルド。え、心が読めないのでしょうか?
「興味深いな……ちょっと俺も良いか?」
「良いですよ」
シグレットがゴルドを見ました。金色に輝く目はおそらく『神術』の『心情読破』を使っているのでしょうか。
「へえ、これが『人間と精霊の違い』なんだな」
「そういうことです」
どういうことでしょう?
「……ゴルドはそもそも何かを深く考えるということをしない……いや、そういう感情が無い。ある意味これが素でもある」
「そうなの? じゃあゴルドっていつも直感で行動しているのね」
なるほど。人間は何かを考えて行動をしますが、精霊は感情が無いのですね。って、それにしては苦笑したり考えている仕草をしている気もしますが。
「人間よりも考えるという事はあまりしない……いや、出来ないだけです。必要に応じて考えたりはしますよ? それに、精霊の心を読むのはそれほど簡単な事ではありませんね」
「そうなんですね」
僕達がそんな会話をしていると検査官が目を点にして驚いていました。
「せ、せ、精霊?」
「あ、これは秘密にしてください。『館長命令』です」
「は、はひ!」
フーリエが珍しく立場を利用した命令を出しました。こんな一面もあるのですね。
「で、では、ゴルドさんはとりあえず無実ということで、次はシャムロエさんですね」
「ええ」
「貴女は事件発生時、何をしましたか?」
「そうね、爆風で飛んできた銅像の破片を受け止めていたわ」
「え、け、怪我は……」
「この子に治してもらったわ」
「嘘偽りは無さそうですね。でも魔術の治療はまだ完全では無かったと思うので、念のため病院に視ていただいたほうが良いかもしれませんね」
「ありがとう」
シャムロエはあっさり終わりました。それにしても魔術の治療ってまだ発展途上だったんですね。マオのような人物がいるとどれくらい魔術が進歩しているのかわからなくなりますね。
「次はトスカさんですね」
「はい」
とうとう僕の番です。どんな質問が「あ、先ほどから『心情読破』で心を読んでいたので大丈夫でした」飛んでくるのでしょうかって勝手に読まないでくださいよ!
「す、すみません。魔術研究所の伝統のようなものなので」
「一体どんな伝統なのですか!」
僕のツッコミにゴルドが苦笑しました。
「その昔、初代館長の『マリー』は常に誰かの心を読んでいました。そう……精霊のボクの心も簡単に」
そんな凄い人が元館長だったのですね。フーリエを見ると一見凄さに霞みかかりますが……いや、フーリエも多分凄いと思うのですけどね。
「フーリエ館長は凄いですよ!」
やっぱり心を読まれていましたか。
「ちなみにどう凄いのですか?」
「まず、その謎に満ちたオーラ。そして人間なのに特技は『闇の魔術』。しかし本来危険とされる闇の魔術を安全に使いこなすことができるその技術は魔術研究所職員全員が尊敬しています!」
「えへへ、照れますね」
「そして! その頭に巻いた布を取ると現れる小さな顔! 見てもわかるふにふにの頬に白い肌。魔術研究所の小動物としても職員全員から人気を」
「ちょっと待ってくださいそれは初めて聞きましたよ!」
「ああ! これは館長以外に知られてはいけない職員だけの秘密情報でした!」
「これは次の会議、かなり時間がかかりそうね」
珍しくシャムロエが同情しました。もう僕の中でシャムロエが引く案件は結構難易度の高い物という認識になりつつあります。
「こ、こほん。では最後はマオ『ちゃん』ですね」
「……ちゃん?」
「え?」
「……何でも無い。子供扱いされるとは思っていなかった」
こっちも動揺しています。そういえば普段から冷静なマオですが、ことパムレットの前では見た目通りの反応をしますからね。
ん、パムレット……?
「シャムロエ、一つ思ったのですが」
「何よ?」
「マオの心って読まれて大丈夫なのでしょうか?」
「祈るしか無いわね」
シャムロエは既に諦めている感じでした!
どうして時々シャムロエは僕の一歩先の考えをしているのでしょう。常にその状況だったら僕も少しは楽なんですけど!
「……心配ない。このために練習してきた」
「そう言われましても」
そう呟いたら、ゴルドが僕の肩を叩きました。
「トスカ。凄いです。今恐る恐る『心情読破』を使ったんですが、『普通でした』」
「なんですって!」
という台詞が出るのも変なのですが、これは凄いことです。
やはり人間成長するのですね。マオも日々努力をしていたということです。僕は泣きそうですよ!
「ではマオちゃん。始めますよ」
「……ん。いつでもいい」
まるで子を眺める親、もしくは妹を眺める兄の様な視線で見守ります。
「そうですね。マオちゃんの好きな食べ物は?」
「……!」
「ふ、へ? あ……きゃあああああああああ!」
検査官が何を読み取ったのか。それは本人しかわからないでしょう。ですがなんとなく予想ができました。
だって、検査官が倒れながらも『パムレット……パム……』と呟いているのですから。




