大陸の自称神再び
「カンパネってこの大陸の神のか?」
シグレットが苦笑しながら僕に話しかけました。
「先ほどから僕の頭に話しかけてきて、正直耳障り……いえ、頭痛物でした」
「酷いな。これでもこの大陸の神様なんだからね? それと、その本を僕へ貸してくれるかい?」
ゴルドの顔で苦笑しても、中身が異なる事に違和感しかありません。マオは怪しみながらも奪ったネクロノミコンを渡しました。
僕とシャムロエは三度目。マオは二度目でしたっけ?
「貴様、どうしてここに?」
「それはこっちの台詞だよ。キューレさん。『僕の大陸』に土足で入って、しかもこの人達をこの場で亡き者にしようとして、何がしたいのかな?」
「全ては『女神様』の為だ。あの方の脅威をこれ以上増やしてはいけない」
「だからって、この人達はまずいかな。特にこの小さい子は『アマテラス』さんの所の人間だよ? あっちの世界の神様が黙っていられないさ」
「『女神様』の脅威が減るなら致し方ないだろう。それに、こんなことをして、貴様こそ無事にいられるとは思えぬが?」
キューレとゴルド……いえ、カンパネが一歩も引かずに会話を続けています。その間にマオがシャムロエに治癒の魔術をかけています。
「ふう、なんとか痛いのは飛んだわ」
「……無理は禁物」
内心これだけでホッとしていました。実際シャムロエの傷は見ているだけで気を失うほど酷い物でした。今は服に大量の血がついていますが、先ほどよりも心音はしっかりしています。
「くっ、貴様が来て時間稼ぎと言ったところか?」
「いえ、僕はしっかり責任を果たしに来ただけですよ?」
「責任?」
そう言ってカンパネは『ネクロノミコン』を開きました。一体何を?
「あはは、さすがは『アマテラス』さんの世界の人間だ。こんな魔術……いや、悪魔術を何も無いところから編み出すなんてね」
苦笑しながら何かを唱えます。その言葉の意味は僕にはわかりません。ただ、マオだけが少し反応しています。
「……なんとなく解る。ただ意味が繋がらない。だけど、これは……援護する! 『光球』」
眩しい光でキューレは目を閉じました。
そしてカンパネは唱えました。
「さすが。そして顕現せよ! 『ドッペルゲンガー』!」
キューレに向かって放った呪文。その単語だけは聞き覚えがあります。確か……。
「い、一体何が」
光が収まり、僕達も周囲がどうなっているのか解るようになりました。
そこには……。
キューレが二人立っていました。
「なっ!」
「キュ、むぐ!」
「……シャムロエ、今は我慢!」
マオがシャムロエの口を塞ぎました。僕もうっかり声を出しそうになりました。
「ふっふっふー、キューレにはとんでもない魔術を唱えたよ」
「む? 一体……」
その瞬間でした。
何かが割れる音がしました。
しかしその音は『見えません』でした。本来音と言えば僕だけは『見えます』。しかし今の音だけは聞こえただけで『見えませんでした』。
「なっ」
「おまえっ」
二人のキューレがお互いを見ています。
「あらら、失敗かな。すみません。というかこれは危険な状況かな。というよりも、『どっちが本物かな?』」
カンパネの声に二人のキューレは反応しました。
「「私だ!」」
その声にカンパネはニヤリと笑みを浮かべました。
「な、私だろう。貴様からは不自然な魔力が」
「いや私だ。何だその口調は!」
「くっ、埒が明かない。表へ出ろ!」
「ああ!」
そしてキューレは何かを唱え、思いっきり上空へ飛び立ちました。
室内だというのに天井を突き抜けて、その反動で城は少し揺れました。
「な、何事だ!」
ようやくと言わんばかりにミッドガルフ王が駆けつけてきました。
「これは一体」
周囲は爆発したパムレットの銅像。そして穴の空いた天井。
これを見て『何もありませんでした』なんて言えません。
「あー、えっと、笛吹きの少年。すまんが……事情聴取のため少し『捕まってくれねえか?』」
そうなると思いましたよ全く!




