真実と偽りの歴史
劇を終え、舞台で一礼をした後、ミッドガルフ王に呼ばれてました。
「いやー、ありがとう。まさかキューレ騎士団長が悪役を行うとは。これは今後の催し物も期待できるな!」
「い、いや、ミッドガルフ王!」
キューレは少し焦っています。実際緊張のあまり凄く棒読みの台詞でしたが、役がそれと一致していたため奇跡的に面白くなったのでしょう。
「本当に良かった。またシャムロエ殿も我達の為にありがとう」
「私だけじゃ無いわよ。皆で行った劇よ」
シャムロエはマオのほっぺたをふにふにしながらガラン王と話していました。
「……しゃふほへ。ゆふひへ(シャムロエ、許して)」
「しばらくふにふにの刑よ。何が『アドリブ』よ。うっかり本気が出そうだったわ」
「……ほんひはほ、はほはよへれはい(本気だと、マオは避けれない)」
「やるならもっと早く言いなさいよね。うりうりうりうり」
手をパタパタしながらもがくマオをガラン王は眺めていました。
「が、ガラン王? その、ガラン王もふにふにしたいのですか?」
「違う! ただ……我の国にはあの劇のような歴史は無い。あると言えば突如現れたこの『パムレット』だ。だが、この国ではパムレットも種類は豊富。我の国には一体何が残っているのだろうかと思ってな」
寂しい目をするガラン王。それに口を挟んだのはミッドガルフ王でした。
「ガラン王。先ほどの劇で、一体どれくらいの真実が含まれていると思いますか?」
「え?」
ゴルドはその言葉に驚きました。しかし余計な口は挟まずじっとミッドガルフ王を見ています。
「どれくらいって、全てが真実では無いのか?」
「俺の知っている限りだと英雄ミッドの偉業が正確に伝わっているのはごく僅かです。そうですね、この地方を守っていたと言うところくらいでしょうか」
「では偽りの部分は一体どの辺で?」
「英雄ミッドは命と引き換えにこの地方を救った。これは俺の聞いた話と異なります」
「実際は?」
「英雄ミッドが悪魔に取り憑かれ、それを冒険者が打ち破った。本当かは不明ですが、俺はそう親から聞きました」
国の名前にもなったもう一人の英雄『ガルフ』。その子孫となると真実味がありますね。
と言うか冒険者って……。
僕はゴルドを見ました。するとゴルドはゆっくりと目を閉じて首を縦に振りました。
「知っているなら早く訂正しなくて良いのか? 英雄ミッドの冒険記は我がガラン王国にも伝わっている」
「訂正する理由……それが見つかりません」
「なんと?」
「英雄ミッドは悪魔に取り込まれた。もしこれが公になった場合、今まで英雄ミッドという存在に憧れた者達は失望する。王がわざわざその夢を奪う必要も無いと思うのですよ」
ゴルドは言っていました。こういう歴史なら良かったと。つまり、ミッドの最期はあまり良いモノでは無かったのでしょう。
「この劇は本当に良かった。この地に伝わっている歴史を見せ、そして俺の知っている限りの歴史を教えることが出来た。ガラン王、俺は今後も『隠し事はしない』」
「むっ!」
ミッドガルフ王の視線にガラン王は怯みました。そして深い深呼吸をしてガラン王は一つの答えを出しました。
「うむ。ミッドガルフ王がどういう人物か良く分かった。実に信頼における人物だと。そして今後の長い付き合いにおいて弊害も乗り切れる人物だと解った」
「評価いただきありがとうございます」
「ガラン王国とミッドガルフ王国の商人の規定は一任して良いか?」
「ええ。俺がしっかり責任を持って行います。元商人としての意地もありますから」
そう言って熱い握手を交わしました。
周囲の役員達も少し気になっていたのか、安堵のため息を漏らしました。
そういえば今回二国の王が集まった理由って商人の規定を決めるとかでしたっけ。
僕達の劇が偶然何かのきっかけを踏んだのでしたら良いのですが、それを言ったら僕達はもっと褒められても良いと思うのですよね!
「あはは、トスカって意外と強欲ですね」
「ゴルドに言われたくありません」
「ゴルド様、これ、ありがとうございました」
フーリエが少しふらふらしながらゴルドに一冊の本を渡しました。
禍々しいオーラを出した本を見たミッドガルフ王は興味を持って話しかけてきました。
「おや、それは何だい? 笛吹きの兄さん」
「えっと、これは魔術書……ですよね?」
「はい。フーリエは目が良すぎるせいで『光球』の所為でちょっと見えにくかったのです。それを抑制する魔術がここに書いてあるのですよ」
「へえ。それは面白い。少し見せて貰っても?」
「え、ええ」
そう言ってミッドガルフ王はネクロノミコンを見ました。
「へー、凄い変な字だ。ネクロノミコンという文字だけは読めるんだけど、それ以外は……」
「!」
僕達一同は驚きました。
「え、何故読めるのですか!」
「え! ま、まずかったか?」
「いや、この魔術書は難しいので、その、そう簡単に何も資料を見ずに読めたことに驚いたのです」
ゴルドが必死に誤魔化しました。
「いや、俺が城に保管している書物にも似た文字があったなーと思ってな」
「似た文字……」
とても興味がありました。
そして、ゴルドは一つ提案を出しました。
「ミッドガルフ王。すみませんが、その書物、ボクに見せてくれませんか?」




