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舞台『英雄ミッド』

 僕が舞台の上に出た瞬間、ささやかな拍手が響きました。


『ささやかではございますが、これから僕達による劇をお楽しみください』


 そう言うと再度拍手が鳴り響きます。

 そして僕は舞台から降り、入れ替わりで冒険者役のゴルドとシャムロエが上りました。


『ここが岩の地よ。鉱石が豊富で武器や防具はこの辺りで作っているわね』

『そうなんですか。というと大きな街もありそうですし、久々にゆっくり布団で寝れそうですね』


『時はミルダ歴が設立する前。ミッドガルフ貿易国がまだ『岩の地』と呼ばれていた時代がありました』


『確かもう少しで街に到着すると思うけど……』


『二人の冒険者が『岩の地』の街に向かう途中。とある男性と出会いました』


『……止まれ! 怪しき者!』


 舞台を照らしていた光が移動し、観客の後ろを照らします。

 そこには男装をしたマオがいました。

 そして……。


『……街の危機は早急に排除する!』


 マオは観客の頭上を飛び越え、壇上に上がりました。

 それを見た観客は声をそろえて「おお」と言い、驚きます。

 台本ではここでマオが英雄ミッドを名乗るのですが、予定には無い音が聞こえました。


 キイン!


 まるで鉄と鉄がぶつかり合う音。え、これって。


(ちょっとマオ! 何抜刀してるの!)

(……アドリブ。少し盛り上げるのもまた演者の役目)

(あどりぶって何よ! もう、怪我をしても知らないわよ!)

(……本気じゃなければ当たらない)


『言ったわね! てえええい!』


 って、何二人とも剣を交えているんですか!

 持っている剣は刃が無いため切れはしませんが、それでも鉄の塊に変わりありません。

 マオはおそらく『心情読破』でシャムロエの動きを読んでいるのでしょうけど、そこまでしなくても!


 そう思っていましたが、会場は僕の心配を吹き飛ばすほど盛り上がっていました。


「おお! 凄い迫力だ!」

「なんだあの剣技は!」


 打ち合わせも無い即興の演技に最初から盛り上がっていました。

 そして。


『ま、待ってください!』


 間に入ったのはゴルドです。二人の腕を掴んで止めました。


『ボク達は怪しい者ではありません。冒険者です。貴方は一体?』


 そう訪ねてマオは剣を鞘に収めました。


『……ぼくはミッド。この地を守る者だ!』


 名乗ると同時に会場はさらに盛り上がりました。


 ☆


『……先ほどは失礼した。最近は物騒な事件が多くて大変』

『物騒な事件?』


 物語は少し進み、冒険者は『岩の地』の名も無き街……今の城下町の基礎となった街へ足を運びました。

 英雄ミッドと和解し、何故急に戦いを挑んだのかを聞くと、最近この『岩の地』に悪魔が現れたと言いました。


『……死者もいる。これ以上の犠牲者は減らしたい』

『一体何故……』

『それは、誰かが悪魔を呼んだからです』


 フーリエが壇上に上がり、台詞を言いました。


『貴女は?』

『ワタチはミリアム。ミッドと一緒にこの地を守っています』

『ほほう、男女二人で?』


 シャムロエが冗談っぽく話すと会場の観客からふふっと少し笑い声が聞こえました。


『……じょ、冗談。ミリアムとは家が近かっただけ』

『あはは』


 そんな暖かい日常風景を演じる四人に、観客は食事を完全に忘れて劇を見ていました。


 そして。



 ばああああああああん!



 大きな音と共に舞台の右側から砂煙が……って、やり過ぎですよ!

 台本ではここでキューレが大声を出して登場ですよ!


 さすがの大きな音に観客は驚きました。


『……な、何やつ!』


『ワガナハアクノコンゲン。オマエタチヲタオス』


 ガチガチに緊張したキューレが登場しました。って、さっきまで余裕そうだったのに、本番になってここまで緊張するとは思いませんでしたよ!

 そして『アクノコンゲン』って、自分で名乗りますか!


 突っ込みどころが多いキューレの演技ですが、その棒読み発言が良かったのか、逆に好評でした。


「おお、何か危ない人物が現れたぞ!」

「あれ、キューレさんじゃない?」

「気合い入ってるな!」


 気合いは抜けていると思いますよ!


『……住人の仇!』


 英雄ミッドは鞘から剣を抜いてアクノコンゲン……キューレに立ち向かいます。


 キインと鳴り響く音。それに併せて僕は大きな太鼓を叩き盛り上げます。


『土壁!』

『火球!』


 男性冒険者とミリアムも魔術で応戦し、さらに盛り上げます。


『てえい!』

『グウ!』

『……今! やああああ!』


 そして女性冒険者の攻撃により怯んだアクノコンゲンへ攻撃する英雄ミッド。

 ミッドの攻撃は届くものの、アクノコンゲンの最後の抵抗がミッドを襲いました。


『……があ!』

『キサマモ、ミチズレ』

『い、いやあああ!』


 ミリアムは叫び、アクノコンゲンは舞台から消えました。

 ミリアムは倒れるミッドの体を地につく前に支え、名前を呼びます。


『ミッド、しっかりしてください!』

『……悪は……消えた。もう、安心』

『早く手当を!』

『……もう遅い。それに……ぼくの役割は終わった』

『ミッド! ダメ、ミッドおおおお!』


 舞台の光は消え、締めの言葉を僕は語りました。


『こうして英雄ミッドは命を落とし、代わりに街には平和が訪れました。その功績を称え、ミッドの名が構成に伝わるように名前が国名に使用されました。


 今でもミッドはこの地を見守っているでしょう。


 この地に名前が残っている限りは』



 ☆


 拍手が鳴り響き、ミッドの死を悲しむ観客や、剣技に感動した観客はそれぞれ感想を呟いていました。

 そんな中ガラン王は難しい顔をして、舞台を眺めていました。


「お気に召しましたか?」

「あ、ああ。素晴らしい劇だった。本当に……歴史があるからこそ成り立つ舞台だった」

「それは良かった。さあさ、引き続き食事を楽しみましょう」

「ええ」


 そしてガラン王は目の前にあるパムレットを眺め、呟きました。

 その声は僕にしか『見えなかった』と思います。


「我が国の歴史はどうなっている……血だけが繋がっている歴史なんぞ、無意味に等しいな」


 そして本来ガラン王国で生まれたパムレットを口にし、何かを悩んでいる様でした。

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