第二の依頼
パムレット専門店で優雅にお茶をしていたら、一人の兵士が店に入ってきました。
「キューレ隊長。まもなくです」
「わかった。私はこれで失礼する」
最後まで冷静さを保ちつつ振る舞うその姿は一瞬格好良いとも思えましたが、ずっとその状態だと疲れないのかなとも思いました。
「さて、私たちも帰りましょう」
「そうですね。マオ、そろそろ行くわよ」
「……むむむ、まさかまだ半分も制覇していないとは。時間差で別な商品が追加されるのは予想外。また来る」
それにしても、半額でほぼ食べ放題な状態とはいえこれだけ食べて良かったのかなーと若干罪悪感を持ちつつ、店を後にしました。
そして『寒がり店主の休憩所』に到着すると、待ってましたと言わんばかりの声で僕達に話しかける男性が椅子に座っていました。
「待ってたぜ。笛吹きの兄さん」
「何で一国の王がここにいるのですか」
「へへ。俺だって元は商人だ。この店くらいは使ったこともあったしな。それに以前助けて貰ったお礼もしてなかったからな」
「いえいえ! ワタチは偶然通りかかっただけなので!」
フーリエが首をブンブン振っていた。
「さて、ここからが本題だ。実は」
「お断りします」
「まだ何も言ってないぜ?」
「各地で毎回何か騒動に巻き込まれるのは疲れるのですよ! せめて一回くらい休みが欲しいです!」
僕の心からの叫びでした。相手が王だろうが誰だろうが関係ありません!
「ふっふっふ、やはり『先手を打って』良かったぜ」
「先手?」
一体何を……。
そう言ってふと僕の目線の下から漂う甘い香りに目が行きました。
そういえばマオはパムレット専門店でいくつかお持ち帰りしていましたね。
……パムレット専門店……?
「ちょ、や、やりやがりましたね!」
「王に向かってやりやがったとは面白いな。キューレがいたら切られているぞ?」
そうでした。というかキューレはいないのですね。
シャムロエが周囲を見渡し、ミッドガルフ王以外いないことに気がついたのか質問をしました。
「ここには貴方しかいないのかしら?」
「ああ。ちょっと厄介なことがあってな」
「厄介……?」
すでに退路は断たれました。一体どんなお願いが……。
「今日、ガラン王との夕食会を行うのだが、何か催し物を準備して欲しいなー」
斜め方向のお願いに言葉が出ませんでした。魔獣討伐、悪魔退治、精霊確保、色々やってきましたが、催し物の準備ですか。
「待ってくださいトスカ。精霊確保って何ですか!」
「そのままですよ。確保された精霊がそれを聞きますか?」
「ボクって確保されたのですか!」
まあ、正確にはゴルドはついてきたと言った方が正しいですね。
それ以前にゴルドの捜索はフーリエにお願いされた案件でもありました。
「……それで、催し物って何をすれば良い?」
「何でも。君たちで決めて欲しい。ただ、面白そうで『ミッドガルフ貿易国』っぽいモノで頼む」
「ミッドガルフ……なかなか難しいですね」
そう考えた瞬間でした。
店の扉が開かれ、そこから鬼の形相をしたキューレが立っていました。
「ミッドガルフ王。何故ここに?」
「うあ! 早!」
「ガラン王との夕食会にはまだ時間があるとはいえ、他の役員も待っています。早く戻ってください」
「わかったよ。はあ、王になってから忙しくなったもんだ」
ため息をついてミッドガルフ王は立ちました。
「じゃあ頼んだ。成功したら特別報酬を支払おう」
「はあ、わかりましたよ」
そしてミッドガルフ王は店の外へ出て行きました。
それと同時にフーリエがお茶を持って声をかけてきました。
「大変ですね。催し物ですか」
「まあ、僕が演奏すればそれで良いかなとも思ったのですが、『ミッドガルフ貿易国っぽいもの』と言われるとなかなか難しいですね」
商人が多く住む街。それに関する何か。
例えば活気あふれる雰囲気を音楽で表現というのもありですが、それは演奏者の実力と視聴者の想像力が合わさって初めて『共感』が生まれます。
ガラン王がどれほど想像力にあふれているかが未知数なのでなかなか難しいですね。
悶々としていると、奥の扉から物音が聞こえました。
「あ、お帰りなさい」
「シグレット? 部屋にいたのですか?」
「ああ。さすがにミッドガルフ王が目の前にいたら落ち着かないさ。それよりもゴルドからこの紙を貰っていたからね」
そう言ってシグレットは一枚の紙を僕達に見せた。
「これは……何て書いてあるのですか?」
「これは『ネクロノミコン』に書かれている文字を模写したものです」
「ええ! 大丈夫なのですか!」
「この頁は『土壁』が書かれているので、万が一発動してもフーリエの宿に土が生えるだけで問題ありませんよ」
「問題大ありですよ!」
フーリエがそっとお茶を置いた後にしっかりと叫びました。さすがプロですね。
「冗談です。文字だけでは意味がありません。ネクロノミコン本体が近くに無いと発動しないので大丈夫です」
「そう、なんですね」
「まあ、俺にはその本を渡されても読むことは出来なかったさ。現にこの頁だけでも無理だったよ」
そう言って一枚の紙をゴルドに返しました。
ゴルドはその紙をじっと眺めて、その後ネクロノミコンを見ました。
「ああ、良い案が生まれました」
「何ですか?」
「ミッドガルフ貿易国の歴史をボク達が演じれば面白いのでは?」




