予想外のお客様
広場には大きなパムレットの銅像が三つ。
急に現れたパムレットの銅像に街の人達は驚き混乱していました。
「……不思議。街の人たちが困っている。まるで初めて見たような雰囲気」
マオの意見も当然です。だってこのパムレットの銅像はゴルドが気を利かせて生成した作品なのですから。
「トスカ」
ゴルドが僕を呼びました。何やら顔色が悪いですね。
「どうしました?」
「魔力を使いすぎました。銅って結構生成するの大変なんですよね」
「自己責任でお願いしますよ。せめてマオを誤魔化しきれるまでこれらは消えないようにお願いします」
「精霊に容赦無いですね」
苦笑するゴルド。ですが魔力を増やす音というのは実験したことが無いので、自然回復してもらうしかありません。
それよりもマオです。
フーリエが召喚した『空腹の小悪魔』にレイジが食べられている所を誤魔化すために『パムレット』という単語を持ち出しましたが、まさかゴルドがここまでやってくれるとは思いませんでした。というか気を利かせすぎて収集つかなくなったじゃないですか。
「ほ、ほらマオ、このパムレットの銅像はこっちよりも少し色が濃いわね。味が違うのを表現されているのかしら?」
「……成分は一緒。日の光による違いだと思う。もしかしてシャムロエ……何か隠して」
マオの目が黄色く光り出し、『心情読破』を使おうとした瞬間でした。
「これは『我が国のパムレット』ではないか! もしや何か祭が行われるのか!」
沢山の兵隊が見えました。そしてその中心には見覚えのある人物が立っていました。
「貴方は……ガラン王?」
「これはシャムロエ殿。久しぶりだな」
かつてレイジの野望の操り人形だったガラン王がそこに立っていました。
以前見たときは若干頼りない感じでしたが、今のその堂々とした姿は以前の雰囲気を感じさせません。
「久しぶりね。少し痩せたかしら?」
「今は王として色々勉強をしておってな。剣術も時間が許す限り身につけようとしておる」
「ずいぶんと変わったわね」
シャムロエは苦笑しました。僕も同じ意見ですが。
「ガラン様。こちらは?」
ガラン王の後ろから女性の騎士が姿を見せました。緑色の髪に鋭い目。その可憐な姿は誰もが目を引くでしょう。
「おお、紹介しよう。あの少年が以前話をしたトスカ殿だ」
うお、僕が最初でしたか。
「うむ、私は『キューレ』だ。ガラン王国騎士団の団長を務めている」
「は、初めまして。トスカです」
ガラン王国騎士団の団長?
ということは以前ガラン王国で問題があったときに出会っててもおかしくは無いと思うのですが。
そんな疑問を浮かべているとガラン王は何かを察したのか、キューレについて話をはじめました。
「彼女は君たちがガラン王国を旅だった後に『落ちて』……いや、現れたんだ」
おち?
「色々理由があって深くは話せないのだが、私はどうやら記憶が無いらしい」
「はあ、大変ですね」
「それでガラン王国の医務室で治療をしている間に、剣に覚えがあるということが発覚し、当時の団長と剣を交えた所、あっさりと倒したんだ」
「それは凄いですね」
当時の団長が誰かわかりませんけどね!
「ということで、野放しにするよりも我の保身のためにガラン王国騎士団で働いてもらうことになったのだよ」
「身の保身って言いながら、実はとても美人だからという理由で側に置いたという訳じゃ無いのかしら?」
おおう、空気が凍りました。
「ち、違うぞシャムロエ殿! 確かにキューレ殿は可憐だが、それ以上に剣術の評価は大きい。決して以前の我とは異なる!」
「へえ、どうだか」
その瞬間でした。
何かが擦れる音。そして目の前には首に剣を向けられたシャムロエの姿がありました。
「貴女。無礼だぞ」
「やるわね。私以外だったら腰が抜けているわ」
離れて見ている僕が腰を抜かしそうでしたよ!
「きゅ、キューレ殿! 彼女はシャムロエ殿で、その……前にも言った『例の御方』だ」
「む! ……これは失礼を」
「良いわよ。言い過ぎたのは事実よ。それよりもそんなに強い兵がいるという事に少し安心したわ」
何でしょう。ふと思ったのですが。
絶対この二人、仲良くなれない感じですよね!
緊張感が漂う中、そこへまたしても兵士の集団が流れてきました。
「これはこれはガラン王。お初にお目にかかる」
すでに怪我は完治したのでしょうか。ミッドガルフ王の姿がそこにありました。
「おお、貴方が新しいミッドガルフ王だな。我がガラン王だ」
「ご足労いただき感謝する。色々と慌ただしい故にろくな歓迎も用意できず……できず……」
パムレットの銅像を見るミッドガルフ王。
僕達を見るミッドガルフ王。
苦笑する僕。
何かを察したミッドガルフ王。
「数ある歴史を持つガラン王国の特産物であるパムレットは我が国でも国民を豊かにする食べ物。それを今回は歓迎の催し物として広間にて準備させてもらいました。お気に召して貰っただろうか?」
「ああ! これは素晴らしいパムレットだ。我が国よりも種類が豊富と聞き、実は料理人も数名同行させている。良ければ店に料理人を向かわせても?」
「ええ。良いですとも。では兵達、ガラン王国より来られた方達のご案内を」
「「「は!」」」
そう言ってガラン王国から来た人達はそれぞれ所定の場所へ案内されて行きました。
そしてミッドガルフ王は僕に近づいてきました。
「貸し一つだ。笛吹きの少年」
「むしろこれで何かの商談が上手くいったら僕達が褒められるのでは?」
「広間に突如パムレットの銅像を設置して、何を企んだかは聞かないでおくが、俺じゃなかったらこの事態を納められなかっただろ?」
その言葉に僕は周囲を見ました。
「まさかミッドガルフ王のサプライズだったとは」
「すげー。どうやったんだ?」
「ガラン王ってあのガラン王だよな。喜んでるってことはミッドガルフ王の力量は確かと言うことだよな!」
確かに。あのままだとただ街は混乱し、マオは暴走していたでしょう。
「あはは、ありがとうございます」
そしてちょこんと頭を下げて、軽く謝罪をしました。




