悪魔の魔力と謎の薬師
僕の知る限りの魔獣は誰かが召還した獣のはずです。よって形は動物でもその核となる部分は魔力だと思いました。
しかし。
「ハクション!」
「クチュン!」
二人の様子を見る限りではどうやらあの魔獣たちは普通の魔力を帯びているわけではなさそうですね。
「……悪魔の魔力。しかも「くしょん!」少し濃いめの悪魔の魔力を帯びている」
「どうしてそれが「はくしゃあああい!」ここ一帯に?」
「……理由はわからない。でも「くちゅあん!」早く何とかしないと危ない」
「そうですね。マオ「ぎゃふああああん!」何とかできますうるさいですねえええええ!」
個性的なくしゃみが隣から聞こえてきます。狭い空間でそんなに遠慮なくくしゃみをしないでください!
「ずずず……いや、許してください。さっきから涙も出てきて正直それどころじゃぶああくしょん!」
「悪いわねトスカ。今回はくちゅん!……今回は役に立てないわ」
豪快なくしゃみをする割りに現状は理解できるのですね。
「すまねえ! 俺にはどうしようもできねえ。何とかできるか?」
商人も怯えながら助けを求めています。馬も怯えていて、商人が手なずけていなければ今頃どこかへ走っていたでしょう。
「……悪魔は基本的に『聖術』に弱く魔力が好物。特に精霊の魔力は大好き。もしこの場を脱出したいだけだったらゴルドを遠くに投げれば解決」
「くちゅん! わかった。ゴルド、短い間だったけど達者に暮らしてね」
「冗談じゃありません! 悪魔のど真ん中に投げられて達者に生活できるわけがハクション! 無いでしょう!」
「冗談よ。その案は保留にして相手は犬型。きっと遠距離の攻撃は避けられるでしょうねクション!」
凄まじい涙とくしゃみをしながら冷静に言っても説得力がありませんが、シャムロエの言う通りです。じりじりと犬型の魔獣は近づいてきています。その度に馬が怯えて少し暴れます。
「ひい! は、早く何とか!」
おそらくマオが何かを仕掛けようとした瞬間でした。
カッ!
そんな音が見え、周囲が一気に光り始めました。
「な、なんだ!」
音の中心を探そうにも眩しいほどの光に目が自然と閉じてしまいます。
この光は一帯……。
『ふう、実験は成功みたいですね』
光の中から声が聞こえました。
「トスカ、くしゃみが収まったわ」
「ボクもです」
もしやこの光のお陰でしょうか?
徐々に光が収まり、ようやく周囲の光景が見えるようになりました。そして目の前の光景に思わず声が出ませんでした。
「魔獣が……消えてる?」
灰のようなモノがふわふわと舞っている箇所がいくつかあり、そこに先ほどの犬型の魔獣が居たと思われますが。
「旅人さん。大丈夫かい?」
「貴方は?」
真っ白な長い髪。真っ白な肌。服装はローブで少しマオに似ているような気もします。
「俺は『シグレット』。魔術研究所所属の薬師さ」
☆
道中助けてくれた『シグレット』と名乗る男性もミッドガルフ貿易国へ向かう途中だったそうなので、一緒に乗ることになりました。
さすがに荷馬車の中も狭くなったので、マオはシャムロエのひざの上に乗っています。
「まさか館長と知り合いだとは」
フーリエとも知り合いとのことで、会話が途切れることはありませんでした。
「シグレットも魔術を研究しているのですか?」
「俺は『魔術師以外も魔術が使えるような道具』を研究しているんだ」
「魔術師以外。というと僕のような一般人も魔術が?」
「そう。安全で後遺症の無い薬を作って、ゲイルドのような寒い地域でも自由に火を出せたり、ミッドガルフ貿易国の少し離れた場所にある砂漠でも水を出して生活できるような世界を作れたらと思っているんだ」
想像以上に凄い理想を掲げている人でした。
シャムロエがマオの頭をなでながら質問をします。
「さっきの光はその薬で出した魔術かしら?」
「さっきのは『聖水』と魔力を込めた薬草。そして火薬や光り輝く素材を練り合わせた小さい爆弾さ」
「薬師なのに爆弾も持っているなんて、恐ろしいわね」
「あはは。殺傷力は無いよ。悪魔に対して有効なだけさ。あ、館長には使用を禁止されているけどね」
悪魔であるフーリエに対しては脅威でしかないでしょう。
そんなことを思っていたら、馬車を引いていた商人が話しかけてきました。
「しかし、『魔術研究所の影の館長とも言われているシグレットさん』に会えるとはついているぜ」
「え、シグレットって有名なんですか?」
「あはは。俺は少しだけ長生きしているから嫌でも有名になってしまうんだ。館長ほど目立ってはいないから、知る人ぞ知るってやつだね」
「何でも自分で作った薬を飲んで長生きしているんだろ? っと、これは聞いちゃいけねえやつだったか?」
「いいさ。これだけ長生きしていれば誰でもそう思う」
面目ねえと商人は話して馬車引きに集中し始めました。
「……長生きなの?」
まあ、一度聞いてしまうと聞きたくなりますよね。
「うん。館長ほどではないけれど、二百年は生きているよ」
「そうなんですね」
「あれ? 驚かないの?」
正直僕はここで驚くべきでした。ですが仕方が無いのです。だって、僕の隣には……。
「僕の隣に座っているゴルドは貴方よりも年上ですから」
「えええええええ!」
シグレットの声で驚いたのか馬が一瞬加速しました。
そして徐々にゴルドの元気がなくなってきています。
「トスカ。ボクは今非常に悲しいです。本来精霊は感情というものをあまり持たないのですが、この気持ち……懐かしいですが同時に悲しいですよ」
「せ……精霊!?」
シグレットの口がパクパクしています。そういえば僕たちって変な人ばっかりなので、その中に精霊が一人混じっていてもおかしくないですよね。
「おかしいわよ」
「シャムロエ! まさか心情読破を取得したのですか!」
「顔に書いてあるのよ。それよりも精霊であることをそんな簡単に話して良いのかしら?」
「フーリエの直下なら良いかと。それに『心情読破』で悪い人では無いとわかったので」
便利ですね『心情読破』! 僕も欲しいですよ!
「あ、あはは。俺より年上は館長くらいかと思ったけど、まさか精霊がこんな身近にいるなんて。その、後で話を聞いても?」
「良いですよ。それに、どうせ『寒がり店主の休憩所』に泊まるのでしょう?」
「そうさ」
それもそうですよね。上司が各地で宿を運営していたら当然部下はそこを使った方が安く済みますよね。
「さあ、見えてきたぜ」
商人が僕らに話しかけて外を見てみると、そこには以前のような活気は無いミッドガルフ貿易国がありました。
「待て!」
入り口で兵士に止められ、話しかけられます。
「この中にトスカという少年はいるか?」
「僕です」
そう言って僕が声を出しました。
「うむ。ミッドガルフ王が呼んでいる。すぐに来て欲しい」
「わかりました。えっと、この三人も一緒で良いですか?」
「ああ。ゴルドにシャムロエにマオだな。話は聞いている」
「では俺は館長の宿で待っているよ」
「俺はここでお別れだ。世話になったぜ」
「ありがとうございました。シグレットはまた後ほど」
「ああ」
そういってそれぞれ目的地へと歩みました。




