☆♪食事会と寒がり店主の秘密
今回は久々におまけで劇中曲を入れております。よろしければあとがきのurl(Twitter)に足をお運びいただければと思います!
優勝者を招いた食事会はしっかり開催されました。ただしいつもならいるはずのゲイルド女王は欠席。まあ当然ですよね。殺人未遂ですからね。
ちなみにハーツも殺人未遂で逮捕されました。女王が背景に潜む状況だったのでしっかり逮捕されるか心配でしたが、良かったです。
そして僕は現在、出場していないのに食事会に参加しています。
「良かったじゃない。あのとき大声を出したおかげでミルダを救ったから招待されたんでしょ?」
優勝者のシャムロエが大きな肉にかぶりついています。周囲には貴族っぽい男性が数人、話すタイミングを掴もうとしていますが、この食いっぷりになかなか話せない模様です。
一方マオはと言うと。
「……新鮮かつ神聖な水と厳選された食材を使ったアイスパムレット。これはマオの中でも三本の指に入る美味しさ。これの特徴はなんと言ってもクリームが舌の上でとろけてまるで水のようにしたたる所。甘すぎ無いこの絶妙な味付けは料理人の技量が一発で分かる」
「はあ」
こちらも周囲に数人の貴族の男性がいますが、パムレットの語りに圧倒されています。
逃げようにもマオが掴みかかってパムレットを口に押し込み逃がそうとしません。
「マオも相変わらずですね」
「そういうトスカは好物の食べ物とか無いのですか?」
話しかけてきたのはゴルドです。本来は優勝者だけが呼ばれる食事会ですが、ミルダの知り合いということで特別に呼ばれたそうです。
とはいえ仲間はずれも後味が悪いので良かったのですが……。
「そういえばゴルドってご飯を食べないのでしたね」
「はい。トスカが演奏していただければ多少食べることができますが……食べるだけだったら別に必要無いかなと」
ゴルドがご飯を食べる理由はフーリエの作ったご飯だからだと話していました。
それ以外は食べても楽しく無いんだとか。
「そう言わずにゴルド様も」
「ゴルド様、ワタクシはエリーシャベレミレーネと申します」
「あ、ズルい! ワタクシはバルハリマリータネロリマールですわ!」
「あ、あはは」
僕は心を読む神術『心情読破』を使えませんが、ゴルドの心は今読めた気がします。きっと『名前長いですね』とかでしょう。
ゴルドは準優勝とはいえ、実力は去年の優勝者を上回るとの噂。だから貴族の女性はゴルドを我が手中にと迫っています。
「あはは、えっとお手洗いに行かせてもらうね」
「ではご一緒に!」
「いえ! ワタクシが!」
「いやいや、勘弁してください!」
逃げるように走り出すゴルドを見て、なんだか競技会の表彰式の緊張感が抜けた気がします。
「ゴルド様は女性に興味が無いので仕方がありません。トスカ様はどなたか意中の相手などはいないのですか?」
「僕はそういうおおおお! フーリエ、驚かさないでくださいよ!」
全身布でグルグル巻きのフーリエに思わず叫んでしまいました。
「いつもの姿にそれほど驚かなくても……」
「いや、だって競技会中は割と薄着でしたし」
「今は『本物では無い』からです。競技会が終わった今、必要無いかなと思いまして」
「今は……つまりこうなることは予想できたのですか?」
「そうですね、ここでは何ですからちょっと外の空気を吸いませんか?」
その質問を投げた後、フーリエは僕を会場の外へ誘いました。
☆
賑わう会場の外は少しだけ静かでした。
「今のワタチは『悪魔』ですが、本物のワタチは『人間』です」
「確か『ドッペルゲンガー召喚』でしたっけ。同一人物を作り記憶を共有する魔術の」
「そうです。ですがこの魔術には一つだけ欠点がありました」
「欠点ですか?」
「はい。もし人間の方が生きていた場合は『年を取ってしまう』のです」
そりゃ、人間はそうですよね。
「人間の方が年を取った場合、悪魔の方も年を取ってしまいます」
「それは……肉体的な年齢ということですか?」
「そうです。だからワタチは人間の方を『封印』したのです」
封印って……それって。
「ゴルド様には言わないでください。本物のワタチは『静寂の鈴の巫女』の住む教会で氷漬けになっています」
「な!」
突然の宣言に驚いて声が出なくなりました。
「ワタチはゴルド様をお迎えしなければならないと千年前に誓いました。ですがゴルド様と別れた一年後に全てのワタチに異変が起きたのです」
「異変ですか……?」
ゴクリとつばを飲み込む僕。
「白髪が一本生えました」
「なんで重要そうで下らない内容を皆は緊張感を最大限にして言うのですか!」
重要度がわかりませんよ!
「半分冗談っぽく話しましたが、これは重要なことです。全部のワタチに同じ箇所に白髪が生えた事に驚いたワタチは危機を感じ、対策を考えました」
「それが、自身の封印ですか?」
「はい。大陸には沢山のワタチがいます。ですがそれは全部『悪魔』です。『人間』のワタチが残っていなければ意味が無いと思い、封印しました」
「ミルダの近くにいるだけではダメなのですか? 確かミルダも人間で鈴の音のおかげで長生きしているのでしょう?」
「最初はそれも考えましたが、無理でした」
一体どんな問題が発生したのでしょう。
「何もしない日々が延々と続くのに耐えられませんでした」
そんな理由で自身を封印しないでください! もっといたわりましょうよ!
「これもきちんと理由はあるのですよ! ミルダは静寂の鈴の巫女として責務を果たしていましたが、ワタチは隣で立っているだけ。魔術も使えない状況なのに大陸中のワタチはオロオロしている。その記憶だけが流れる状況に耐えられませんでした」
記憶の共有は大変だとマオも言っていましたが、こればかりは共感できませんね。
冗談っぽく話しているのはフーリエなりの気遣いなのでしょうか。
「とりあえず分かりました。それで、今回ミルダを助ける為に一時的に封印から抜け出したということですね」
「はい。これはミルダも知っていました。そして刺客を見つけることができました」
その言葉の瞬間でした。フーリエは僕に頭を下げました。
「ミルダを助けていただきありがとうございました」
「うわ! あ、頭を上げてください!」
「いえ、足を向けて寝れないほどトスカ様にはお世話になりました。今までも各国の問題を解決していただいて、本当に助かっております!」
僕を中心に大陸中のフーリエが寝る時の頭の方角を変えるなんて事はしないでくださいよ! と心で叫びつつも動揺して言葉が出ませんでした。
その時でした。
「ミルダからもお礼を言わせてください」
マオと同じく自分の事を名前で呼ぶ女性……いえ、少女が木陰から現れました。
「え! み、ミルダ!」
僕よりも先に驚いたのはミルダです。
「あ、あわわ、ワタチは早く遠くに行かないと!」
「安心してください。フーリエさん。鈴は教会に置いてます」
「え!」
ミルダはいつも大きな杖を持っていますが、今は小さな鞄を持っています。アレに鈴が入っているとは思えませんし、何より鈴の音が聞こえませんし『見え』ません。
「フーリエさんも手紙のやりとりが千年続いていましたが、久しぶりに声が聞けて良かったです」
「ワタチもです。と言うより抜け出してどうしたのですか?」
フーリエの言葉にハッとするミルダ。鞄から小さな箱を取り出しました。
「トスカさん。今回は本当に助かりました。いえ、いつも大陸の問題を解決していただきありがとうございます」
「いえ、そんな」
「お礼というわけではありませんが、これをトスカさんに渡そうと思いまして」
小さな箱を僕に向けて差し出してきました。これは一体?
「これは『静寂の鈴の巫女』でも唯一効果のある不思議な箱です」
「不思議な……魔術が?」
いや、でも静寂の鈴には魔力を押さえる力があったような。
「この箱に魔力は一切ありません。ですがそれに近いモノがあります。きっとトスカさんなら分かるかと」
箱を開いてみると、箱から音が鳴り始めました。
これは……マーシャおばちゃんがクラリネットで吹いていた……『呼声』?
「この箱はトスカさんも知っているマーシャさんからいただきました。ミルダが公務で忙しいときや悩んだとき、いつもこの音に助けていただきました」
「でもどうしてこれを僕に?」
その言葉にミルダは一瞬止まりました。
「その音が今必要なのは、トスカさんだと思ったからです」
そのどこか強い言葉に、僕は何も言い返せませんでした。ミルダの瞳には何故か涙が出てきそうな感じでもありました。
「わかりました。ではこうしましょう。これは預かります。そして『マーシャおばちゃんに返します』」
「?」
ミルダは一瞬疑問の表情を浮かべました。そしてミルダの目が金色に光りました。何か僕の心を読んだのでしょうか?
「!」
そして驚きの表情を浮かべた後、その場で膝をつきました。
「は、はい。そうしてください」
「え! ちょっと、ミルダ? どうして泣いているのですか!」
「いえ、大丈夫……です。ごめんなさい。『知らなかったなんて』!」
肩を振るわせるミルダ。助けを求めるようにフーリエを見ますが。
「ご、ごめんなさい。ワタチは今悪魔なので『心情読破』が使えません。ですが、一つ提案をしても良いですか?」
「何でしょう?」
「まずはその箱から出ている音楽をゆっくりと聴いて落ち着きましょう」
そのフーリエの提案にミルダは強く頷き、僕は疑問を浮かべながらも賛成し近くのベンチに並んで箱から奏でている音をじっくりと聴きました。
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今回のお話のおまけの劇中曲はこのurl(Twitter)となります!
https://twitter.com/kanpaneito/status/1135164930619928576
現時点でトスカはマーシャの現在を知りません。そのもどかしさが少しでも表現できていればなと思います!




