いくつもの影
「お嬢ちゃん、よく気がつきましたわね。今なら『魔力探知』も使えないはずでしょう?」
ゲイルド女王はマオに話しかけました。
「……(ふるふる)」
首を横に振って何か言いたそうにするマオ。そのマオの前にシャムロエが立ちました。
「悪いわね。この子は人見知りで『話せないの』」
「へえ、『異世界から来たからワタクシの言葉が理解できない』のね。面白い優勝者ですわね」
「心を読む術ね……」
そうでした。マオは今鈴の音の所為で言葉が理解できないのでした。
ん? 話す時も魔術を使って話してましたよね?
ということは、マオは僕に魔術を使わずに大声を出して伝えたのですか!
親指を僕に向けるマオ。しかしその表情は未だ真剣です。
「どうしてこの状況で心が読めるのかしら?」
「ふふ、答えは知っているのでは無いかしら?」
既に心を読んでいる感じです。ハーツと同じでゲイルド女王も魔獣の血の入った魔力を体内に潜めているのでしょう。
フーリエがゲイルド女王の目の前に立ち、話し始めます。
「潜む影がこの青年だけとは思っていませんでしたが、まさか貴女までとは思いませんでした」
「まさか魔術研究所のフーリエ……その『本物』が来るとはワタクシも思っていませんでしたわ」
「ミルダが表彰式に呼ばれるという情報を受けた時点で何かがあるとは思っていました。ただ一番予想していない方が刺客だったとは」
「そうかしら?」
そう言ってゲイルド女王は懐から長い紙を取り出しました。そこには何か文字が書いてあります。
「我が王家の家系図ですわ。これら全員の名前を二人は覚えていて?」
「何が言いたいのですか?」
その言葉にゲイルド女王は叫びました。
「大陸の象徴『ミルダ』。そして千年も歴史を持つ魔術研究所の三代目館長『フーリエ』。この二人の存在の所為でワタクシの影が薄く縁談の話しも年々減ってきているのよ!」
……会場が一瞬で静まりました。
えっと、何? 縁談?
「その……とても言い辛いのですが、ミルダはそういう話を断っているので、ゲイルド女王は是非その……頑張っていただきたく」
「ワタチも大声では言えませんが、館長としての責務が忙しいので、どうぞ良い人を見つけていただければと」
「探したわよ! でもいつも『静寂の巫女』や『魔術研究所の館長』という言葉が出てきて、結局ワタクシを見てくれないのよ!」
つまり、アレです。
ただの八つ当たりじゃないですか!
「だからまずは象徴を亡き者にしてワタクシだけを見て貰うためにぎゃん!」
大声で叫ぶ中に悲鳴が聞こえました。
ゲイルド女王の後ろにはシャムロエが立っていました。
「女王に手を出した事に関しては逮捕覚悟よ。でも象徴を守ったということで帳消しにしてくれるかしら?」
その言葉にミルダは唖然とし、そして微笑み、答えました。
「あはは、ありがとうございます」




