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表彰式

 強者と強者がぶつかり合うと周囲は大変なことになると本で読んだことがあります。

 例えば強力な魔術師二人がぶつかり合ったら周囲は焼け野原。強力な剣士がぶつかり合ったらえぐられた地面がいくつも出てくるとか。


 でも今回は『強者と強者と強者と強者』がぶつかり合った記念日ですね。


 観客席以外は焼けた大地にえぐられた大地。そして魔術の痕跡や悪魔っぽい残骸など、沢山散らばっていました。

 まさかこんな事態がたった四人で行われた何て、ゲイルド魔術国家でも初めてだと思います。


 そしてそんな焼けた大地の中心で一人、片手をあげて立っている『幼女』がいました。



「……パムレットはマオが貰った」



「「「おおおおおおおおおお!」」」


 凄まじい歓声の音が広がり、勝者を皆たたえていました。

 そしてうつ伏せで倒れている三人はブツブツ何か言っています。


「フーリエが悪魔を召喚したからボクの動きに制限がかかってしまったじゃないですか……」

「同意見よ。マオの攻撃をなんで私まで」

「魔術研究所の館長としての意地です。ですがまさかワタチを上回るとは……結構悔しいです」


 その声はきっとこの歓声の中だと僕にしか聞こえないでしょう。

 ともあれお疲れ様と一直線に音を投げ飛ばし、四人は僕にニコッと笑顔を見せました。


 ☆


 表彰式。

 優勝したシャムロエとマオのチームが壇上の中央に立ち、その右には準優勝のフーリエとゴルドが立っています。

 左はハーツだけです。もう一人の……えっと、名前は何でしたっけ?

 とりあえずその人はゴルドの『投石』が思ったよりも強かったらしく、現在も治療中だそうです。

 ハーツだけでも、三位に上がれるなんて、やはりあの魔獣が関係している魔力は少し怖いですね。


 表彰式ということでハーツは指定された場所から一歩も動かず、目をつむっています。

 フーリエとの一件もありますが、今は一時休戦と言った所でしょう。


「では表彰に移ります。優勝の証の勲章は例年通りゲイルド魔術国家王女が贈呈します!」


 司会が中央にて大声で叫ぶと、さっきまで僕の隣にいた女性が会場の中央に歩いていきました。


「いつ見ても綺麗」

「お近づきになりたいな」

「無理よ。あそこで優勝しない限り会話すら出来ないのだから」


 そんな声が飛び交っていました。



 ……ん? ちょっと違和感を感じました。

 だって、さっきまで僕の隣にいたような。



『本日はワタクシからの授与ではなく、特別な方に来ていただきました。どうぞ、『ミルダ様』』



 ゲイルド女王の言葉に会場がざわつきました。

 そして、『リーン』という音が鳴り響きました。


「あれは……」

「うそ、静寂の鈴の巫女様!」

「初めて見たぜ……」


 赤毛の静寂の鈴の巫女のミルダがそこにいました。え、あの教会から出てきたのですか?


『こちらへどうぞ。ミルダ様』

「ありがとう。ゲイルド女王」


 中央に案内されたミルダをじっと眺める観客と選手。よほど珍しい状況なのでしょうか。

 鈴も『リーン』と鳴り響き、その音を聞いた隣の観客は右手を開いて驚いていました。


「わっ。本当に魔術が使えない」

「噂は本当だったんだな。教会のギリギリの場所だと弱まる程度だったけど、ここまで使えなくなるんだな」


 隣の人たちがどれほど強いかわかりませんが、少なくてもここは魔術国家です。ガラン王国の魔術師よりは強いでしょう。そんな人が使えないと言うことはやはりあの音は凄いのですね。

 あ、ゴルドが少し辛そうです。それとシャムロエも辛そうですね。


「ごめんなさい。ゴルドくん。シャムロエさん。少し我慢していてください」

「ええ、大丈夫よ」

「来るなら来るって言ってくれれば良いのですが」


 そんな会話が聞こえてきました。そして会話の途中で『ブワッ』という変な音も混じってました。


 あれは……。


 とっさに僕はシャムロエに声を出しました。



「シャムロエ! ハーツを止めてください!」

「遅い! ミルダ、覚悟!」



 ハーツの手から『火球』が放たれました。本来鈴の音で魔術は抑制されている状態ですが、彼だけは違います。

 忘れていました。現在ゲイルド魔術国家には影が潜んでいる事を!


 ミルダに向かった『火球』はブレること無く一直線に進み、大きな爆音と共にミルダは砂煙に包まれました。


「うそ! ミルダ様!」

「おい、あのハーツってやつ、何てことを!」


 動揺する観客。緊張が高まる中、一つの音が聞こえてきました。


『リーン』


 ミルダの鈴の音です。


 そして声が聞こえてきました。


「さすがの『厚着』をしていても、魔術の反動は痛いですね」


 フーリエがミルダの前に立っていました。『火球』を自身の体で防いだようです。


「ふ、フーリエ!」

「ワタチは大丈夫です。中に鎧を着込んでいました。『ここまでは計算内』です!」

「なっ! くそ、もう一度」

「させないわよ! てえええい!」

「があっ!」


 シャムロエの強い蹴りがハーツの腹部に命中し、その場で倒れました。


「ふう、油断できないわね」

「シャムロエさん。ありがとうございます」

「良いのよ。それより」


 シャムロエとミルダが話していると突然マオが叫びました。



「トスカ、鈴の音消す! 急ぐ!」



 今まで聞いた事の無いほどの大きなマオの声。その口調はいつもと異なり、違和感もありました。しかしその大声に驚いて僕は考える暇も無く反射的に僕は大きな音……『大声』を出しました。



「え、わ……わあああああああああああああ!」



 動揺しつつその音の波はマオに飛んで行き、マオ周辺の『鈴の音』は消えました。そして。


「……『グランド・ウォール』!」

「『アイス・ニードル』!」


 二人が魔術を放ちました。

 一人はマオ。ミルダの目の前に土の壁を生成しました。

 もう一人は。



「どうして貴女が?」


 ミルダの目の前には土の壁がありますが、きっとその先の人物に向けて話しているのでしょう。



「ワタクシがこの国の頂点の筈なのに、それが気にくわないからですわ」


 現在鈴の音の影響で魔術は使えない筈なのに、ゲイルド女王の右手は輝いていました。

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