違和感の探知
開始の合図と同時にゴルドは魔術……いえ、精霊術を唱えました。
「『土壁』!」
四角い土の壁がゴルドとフーリエの前に生成されます。
ハーツと呼ばれる青年は『火球』を放ちます。会場の観客はおそらく前試合と同様壁を貫くと思っていました。
が。
「なに?」
ハーツが言葉を発しました。
火の球はその場で消滅し『土壁』に傷ひとつありません。
「さすがはゴルド様ですね」
「褒める前に相手の魔力を調べてください。『今なら』できるのでしょう?」
「なっ! いつから気がついて?」
「悪魔の魔力を感じ無い時点で気がついていましたよ」
「うう、背中に『空腹の小悪魔』を仕込んでおくべきでした。仕方がありません、『空腹の小悪魔』!」
ゴルドとフーリエは何かを話しながらもきちんと連携をとっています。二人の会話は会場の声援などでかき消されかけていますが、僕には聞こえます。
「……そしてそれをマオも聞いている」
「僕の心を覗いて周囲の声を聞くってどんな手法ですか」
「ずるいわ! 私だけ仲間はずれ!」
何にショックを受けているのかわかりませんが、とりあえずシャムロエは口の周りのソースを取ってから話してください。
「しかし二人の会話は意味がわかりません。魔力を調べるとか悪魔を仕込むとか」
「……まず魔術のお勉強。前提として『神術』と呼ばれる術は一部を除いてほとんどの魔力を持つ者なら唱えることができる」
これは魔術師にとって一般常識なのでしょうか。
「……そしてその一部を除くという部分で代表的なのが『悪魔』」
「悪魔って……フーリエのことですか?」
「……そう。『いつもの』フーリエなら神術はできない。でも」
そうマオが言った瞬間でした。
フーリエは術を唱えました。
「『魔力探知』!」
青い目が金色に輝き、ハーツを見ています。
「……あれは紛れも無い神術の『魔力探知』。そしてあのフーリエは『人間』」
……えっと、今までが悪魔で、千年以上生きていたのですよね。でも今神術を使っているということは……。
「『人間』のフーリエですか!」
「……そう言った」
「ですが、千年以上生きているのですよね? 何故そのフーリエがここに!」
「……理由はわからないけどマオ達に何か影響がでるわけでも無いから言わなかった」
淡々と話すマオ。そのマオに対してシャムロエが軽く頭をグリグリします。
「……何故強めにグリグリするの?」
「そういう大事な話はこっそりでも良いから話なさい。私達は仲間なんだから」
「……よくわからないけど、反省。今後気をつける」
うんうんとうなずくシャムロエ。まるでお姉さんですね。
とはいえ、人間のフーリエがいる時点で普通ではないということがわかりました。何故人間になる必要があったのでしょうか。
「……理由は二つ。一つはフーリエ自ら潜む影を探すためらしい」
「もう一つは?」
「……ごめん、言えない」
「何故?」
マオが真剣な目で僕とシャムロエを見ます。
「……ここで言ったら万が一あのハーツが二人に『心情読破』を使ったら事態が一転する。だからギリギリまでは信じてほしい」
その一言に僕とシャムロエは黙りました。
そしてシャムロエは口を開きました。
「わかった。マオを信じるわ。仲間だもの」
「さっきと少し言っていることが表裏している気がしますよ?」
「さっきは言う必要が無いという自己判断。今回は理由があって話せないって私達に言ってくれたわ。この二つは全くの別物よ」
「たまにシャムロエは頼もしく思えますね」
「たまにって何よ!」
転生して色々自分のことで精一杯だと思うのに、それでも相手を考えることができる。本当にその辺に関しては尊敬しますよ。
そんなことを考えていると、フーリエがゴルドに叫びました。
「解析完了です! この魔力は『魔獣』と『魔力』の混合物です!」
その言葉に会場がざわつきました。




