試合観戦
競技会の相手の組み合わせは、そのときの技能を見比べて審判が次の相手を決めるそうです。
シャムロエ・マオとゴルド・フーリエが続けて試合を行ったので、次の試合はこの二組かなとも思えたのですが、最終的に強い人を残してゲイルド魔術国家の魔術師や兵士にすることが裏の事情とのこと。序盤で強い人同士がぶつかって片方が負けてしまうのは惜しいのでしょう。
とはいえ、例えシャムロエ・マオ・ゴルドが優勝してもゲイルド魔術国家の関係者になるとは思えませんし、フーリエに至っては魔術研究所の関係者です。今回の試合で涙を流すのはゲイルド魔術国家のお偉いさん方や各地方のお偉いさん方ですね。
「というかフーリエはよく参加できましたね。魔術研究所の代表ですよね?」
「表向きはお祭りなので、委員会は拒否できないのです。ただ、苦い顔はされましたけどね」
苦笑するフーリエ。いつもは顔を布で覆ってますが、今はすっかり表情が表に出ていますので、ちょっと違和感を感じます。
ゴルド達の試合が終わった次の試合にて、ようやく接戦が繰り広げられました。
木刀と木刀がぶつかり合う音。魔術が放たれ、それが防がれる音。それらの音が響く度に会場は盛り上がります。
「おや?」
ゴルドが少し声を出しました。
「どうしました?」
「次の試合の準備をしている二人からは異様な力を感じますね」
「異様な力ですか?」
「まずは見てみましょう」
そして異様な力を持つらしいジェイン・ハーツという名の二人が試合会場へ向かいました。見たところ普通の青年といった感じですね。
「ゴルドの気のせいじゃない? 腰痛もないわよ?」
「ということは悪魔要素は無いのですね」
「ボクの精霊の魔力は悪魔を探知するものではないのですが……、まあそうです」
そして試合が開始しました。
「『火球』!」
ハーツが開始と同時に魔術を放ちました。
「ふ、『グランド・ウォール』!」
それに対して相手は土の壁を出し、火の球を防ぎにかかります。
が。
「なっ! があああ!」
まるで壁をすり抜ける様にそのままの勢いで土の壁を破壊し、術者に火の球が直撃しました。え、そんなに強い魔術なのですか!
「……『火球』は火の魔術でも弱い。さっきの魔術は何か変」
「変?」
「……余計な何かが混じっている。だから『グランド・ウォール』では防ぎきれずに破壊された」
「何かはわかりますか?」
「……今の一発じゃわからない。それとこの距離だと正確な魔力も見えない」
僕が言わずともマオはすでに行動していたのですね。やはり頼もしいというか、すごいと言うか。それに引き換え……。
「ん?」
いつの間にかその辺の屋台で食べ物を買って頬張っているシャムロエの姿を見て、少し複雑な気分を感じました。
「シャムロエを見ていると安心しますね」
「なんか明らかに褒められていない気がするのは気のせいかしら?」
「気のせいです」
「ふーん、まあいいわ。それよりも次の試合の様子は……アチッ!」
シャムロエがコップに注がれた温かい飲み物に口をつけたら、予想以上に熱かったのでしょうか、少しあわてています。
驚いた反動でコップから少し飲み物が飛び出てしまい、フーリエの顔に当たりました。
「アチッ! しゃ、シャムロエ様、大丈夫ですか?」
「フーリエこそごめんね、大丈夫?」
「……?」
布で顔を拭くシャムロエをマオがジッと見ていました。
「どうしました?」
「……違和感を感じただけ。まあ、たとえ予想が当たっても問題は無い」
「そうですか……」
いまいちぱっとしない答えですが、気にしないでおきましょう。
五十組の試合が一周し、再度組み直され二試合目に移りました。
案の定シャムロエ・マオとゴルド・フーリエは一瞬で相手を倒しました。会場もこの二組が出てきた瞬間ため息を漏らしました。
二組以外で活躍をしているのはジェイン・ハーツ組です。この二人も下位の魔術と言われている『火球』の一発で相手に勝っています。
「やっぱり変ですね。普通の魔力には見えません」
「ゴルドがそう感じるということは、他の方も感じるのでは?」
ここには腕に覚えのある魔術師がたくさんいます。他の魔術師も同じく違和感を感じないのでしょうか。
「……トスカにしては鋭い。でも今回に限り異なる。ゴルドは精霊でマオはここの世界の人間ではない。だから他と異なることに関しては一番敏感になっている」
そういうものなのですね。
そんな話をしていたら、司会が次の対戦相手を発表しました。
『次はお待ちかね、準決勝です。ジェイン・ハーツとゴルド・フーリエです!』




