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競技会

『ご来場の皆様、本日はお日柄も良くー……』


『猛烈な吹雪』の中、競技会が開始しました。司会は苦笑しながら冗談を交えつつ挨拶をしています。

 魔術研究所に隣接する広い競技場。ここでは魔術師が魔術の練習や実験をする時に使われる場所だそうです。


 声量を大きくする魔術を使っているのか、司会者は光る杖を持って声を出しました。


『今回は昨日の締め切りまでに五十組の力自慢があつまりました。年々参加者が増えて、運営としても嬉しく思います』


 長い挨拶も終盤に入り、僕はそれをぼーっと眺めていました。


「ねえトスカ、ちょっと良いかしら?」

「何ですか?」


「その……ね、呼吸が苦しいのよ」


 珍しいですね。いつも元気なシャムロエが体調不良だなんて。まるで『悪魔の魔力にやられた時』を思い出します。


 悪魔の魔力……。


 まさか!


 僕は急いでゴルドを見ました。



「どうしました?」

「ゴルド、呼吸は大丈夫ですか?」

「え? は、はい」

「どこか体に異変はありませんか?」

「大丈夫ですよ?」

「じゃあシャムロエはなんで苦しんでいるのですか!」

「ええ?」


 ゴルドとシャムロエは体内に同じ魔力を持っているため、悪魔の魔力が空気中に存在した場合、同じ症状が出てきます。

 ですが……ゴルドは問題ありませんね。


「……トスカ」

「マオ?」



「……シャムロエのこれはただの『緊張』。心情読破で覗いたら頭の中がごちゃごちゃしてた」



「僕の一時の心配を返してくださいよ!『ピー!』」


 叫んだ後に口笛を吹きました。


「あ、何か落ち着いたわ。ありがとう!」


 心が落ち着くようにと願って鳴らした口笛は効果が有った様ですね。まったく余計な心配をさせないでくださいよ。


「ふふ、トスカ様はなんやかんやで優しいのですね」


 後ろからフーリエの声が聞こえてきました。


「仲間が辛いと言ったならなんとかするのは当然です」

「良い仲間達ですね」

「世話が焼けるだけです」


 そう答えて振り向くと、そこには『いつもとは少し違うフーリエ』が立っていました。

 いつもは布でグルグル巻きの状態ですが、今日は顔も出しています。

 青く短い髪に、くりっとした目。白い肌はいつもと一緒ですが、特徴的だった赤い目が今日は青いですね。


「ん? フーリエ、今日はいつもと違いますね?」

「そ、そんなことありませんよ!」

「というか宿は大丈夫なのですか?」

「は、はい! 今は別なワタチが出張してくれているので問題ありません!」

「そうですか」


 何やら少し慌てて答えている感じにも見えますが、まあ本人がそう言っているなら良いでしょう。


『それでは一回戦、シャムロエ・マオ対、ジリア・グランジュの模擬戦です! 呼ばれた方は前へ!」

「行ってくるわ!」

「……パムレットの為」


 そう言って二人とも気合いを入れて立ち上がり、試合会場へ行きました。


「ゴルド様、二人はどれくらい強いのですか?」

「そうですね。ボクも一緒に戦った程度なのでわかりません。折角なのでここで実力をしっかり見てみましょう」

「はい!」


 一方ゴルドとフーリエはほのぼのと会話をしています。模擬戦とはいえ怪我とかも心配ですし、大丈夫でしょうか?


 ☆


 司会の開始の合図が


 ☆


「いやー、もうちょっと右からの拳の角度を工夫すれば良いかもしれないわね。勉強になったわ」

「……パムレットに近づいた」



「ちょっと待ってください」



 え、いや、何があったんですか!

 というか、一回戦が一瞬過ぎて僕の思考が追いつかなかったのですが!


「ゴゴゴゴゴルド様!? あ、あ、あ、あ、あの!」

「フーリエ、言いたいことはわかります。その……『全力』で行きましょう」


 僕の隣でブルブルと震えるゴルドとフーリエ。いや、あんな試合を見せられたらそりゃねえ。


『えげつねえぜ』

『何あれ、模擬戦?』

『今回の優勝者はあいつらか?』


 あー、僕の耳には聞こえてますよ。そのひそひそ話!


「えっと、何か私たち悪いことをしたかしら?」

「もうちょっと空気を読みましょう! せめて僕の思考が追いつくくらいの早さで戦ってくれると助かるのですが!」


 必死になって目の前で行われた出来事を思いだそうとしました。

 えっと、確か開始の合図と共にシャムロエが凄まじい速さで相手の懐に潜り込んで殴り、マオはそれと同時に雷の魔術でもう一人の相手を戦闘不能にしました。

 どちらも気絶したという通告が司会から言われ、会場全員が安堵のため息を漏らしました。


「……トスカ、時に人はゆずれな」

「どうせパムレットの話をするのでしょう! わかりましたから次はゆっくりお願いしますよ!」

「……むう」


 頬を膨らますマオ。


『えっと、気を取り直して次の試合はジェイン・ギメール対ゴルド・フーリエです!』


 フーリエという言葉に会場がざわつきました。


『え、フーリエって、あのフーリエ様?』

『こういう試合には出ないと思ったんだけど』

『すげえ、フーリエ様の魔術が見れるなんてついているぜ!』


 おお、なんとか和やかな空気に戻りました!


『では試合……開始!』


 ☆


 まずフーリエが真っ黒な陣を描き


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 ☆


「久々に本気を出してしまいました」

「フーリエ、ボクの出番が無かったのですが」


 ……。


 …………。


「あれ、トスカ、どうしました?」

「トスカ様! 見てくれましたか! ワタチの本気の術を!」



「四人ともそこに座ってください。これから説教を始めますよ!」

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