ミルダとマーシャの関係
「さてトスカくん。フーリエの報告によると大陸の問題を解決しているようですね」
「うっ!」
急に僕は寒気がしました。今まで真剣だった会話が急転して、なにやら嫌な予感が込み上げてきます。
「実はこのゲイルド魔術国家には競技会というものが」
「あー! 僕達は用事があるのでした!」
また命の危機に遭遇するのは嫌です。ここは何としても回避して南へ向かいたいです!
「トスカ、ミルダは確か大陸で一番凄い人なんでしょ? そんな人からのお願いよ?」
「凄いからこそ怖いのですよ! 僕は田舎育ちの平凡なただ音が見えるだけの人間です!」
「人間ですか……ふふ、トスカくんは自分を『特別な存在』だとは思っていないのですね?」
ミルダが微笑み、僕に言いました。
「タプル村のマーシャさんと同じ能力を持つトスカくんに是非お願いをしたいのですが」
え、今マーシャおばちゃんの名前を?
「マーシャおばちゃんを知っているのですか?」
「はい。これでも大陸は一度見て回ってますから。マーシャさんとも知り合いですよ? あ、ちなみに出会った時はマーシャさんが転移してきて間もない頃でしたね」
ちょっと! 重要な事を何故今さらっと言っているのですか!
「魔獣に襲われていたところを助け、その子ども……いえ、親族がミルダの所へ来る。これは運命的とは思いませんか?」
マーシャおばちゃんの命の恩人ですか!
「くっ!」
僕はこれまでにないほど悔しい思いと、意地が脳内で戦っていました。そして……。
「要件とは何でしょうか?」
僕の心は折れて、その一言が出てしまいました。
★
トスカ達は話を聞いた後すぐに教会を去りました。連絡は随時フーリエにお願いをすれば時間差こそあるが、教会の人にお願いをすればお手紙でのやり取りは可能である。
「マーシャさんの親族……」
ミルダがマーシャと出会ったのは数百年前。
当時マーシャは幼く、手には楽器を持っていた。ミルダも『静寂の鈴』を持っていて、二人は自然と仲良くなった。
ある日、ミルダの持つ『静寂の鈴』の持つ力について知ったマーシャは、自分の奏でる音でも同じことができるのだろうかと思い、毎日演奏し続けた。
結果、子供が生まれても、孫が生まれても、マーシャだけは見た目は若かった。
初めて子どもを失い死の恐怖を知ったマーシャは毎日楽器を鳴らし続けた。
そんなある日、マーシャとミルダは再会した。そしてマーシャは驚いた。
ミルダは初めて出会った時と見た目が変わらなかった。
そしてマーシャは思い知った。
楽器を吹き続けている間は自身の時間を止められる。しかし寝ているときや休んでいる時は止められない。
マーシャは自身の寿命をただ引き伸ばしていたことに気が付き、やがて家から出る事ができなくなってしまった。
「元気かしら。マーシャさん」
ミルダはリーンと鳴り響く鈴を見てボソッとつぶやいた。そして教会の奥にあるミルダしか入れない部屋に行き、目の前の『大きな氷の塊』に話しかけた。
「この大陸でミルダと同じ時間を生きる『人間』は、ミルダとマーシャと……『フーリエ』。貴女だけよ」
大きな氷の塊には一人の少女が眠っていた。教会の外にいる同姓同名の少女の服装とは一転して氷の中の少女は服を着ておらず、まるで封印されているかのような状態。ミルダが話しかけても氷の中で眠っているため返事は無い。
「せっかくゴルドくんが来たのに、『恥ずかしいからワタチの姿は見せないでください』って……貴女もまだ心がある『人間』ですね」
そう言って、その場で座り込んでミルダは独り言をしばらく呟き続けた。
「おや、お手紙ですか。あら、噂をすれば何とやらですね」
しばらくその手紙を眺め、ミルダの瞳には大きな一粒の涙が流れた。
「そうですか、マーシャ。貴女がこの世界で誰よりも死を恐れながらもその血をきちんと受け継いだことを、静寂の鈴の巫女の名の下に証明します。どうか安らかに」
手紙を折りその場で祈りを捧げたミルダの姿は、本来の巫女としての姿そのものだった。
今回はトスカ視点というより三人称視点がメインとなりました。フーリエがなぜ寒がりなのか。マーシャとミルダの関係についてなど、全ては書ききっていませんが、ギリギリのラインで書ける部分は書いたかなと思います。ちょっと暗めの部分もありますが、次話以降は少し明るめになるかと思います!




