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静寂の鈴の巫女ミルダ

 大陸の象徴とされる『静寂の鈴の巫女』は僕の予想をはるかに超えるほど幼く見えました。

 もしかして人間という噂は嘘で、実は何代も渡って引き継がれているのかと思えるほど若いです。

 見た目はマオより少し年上の赤髪が肩まで伸びており、立派なローブで身を包むその姿は象徴と呼ぶにふさわしい装い。そして右手には大きな杖を持っていて、先には鈴が鳴り響いています。


 見た目の若さから千年生きているという噂に疑いを持ちましたが、先ほどの一言で千年生きているというのが本当だと確信しました。


「ゴルド、静寂の鈴の巫女とは知り合いなのですか?」

「あはは、まさか本当にあの『ミルダ』だとは思いませんでした。最初に名前を聞いた時は受け継がれた名前だと思いましたが、まさか本人だったとは」

「覚えてくれててうれしいよ。ゴルドくん」


 広めの客室に案内され、お茶の準備をする静寂の鈴の巫女。それを見てシャムロエが立ち上がり静寂の鈴の巫女に近づきました。


「私がやるわよ。静寂の鈴の巫女さま」

「あ、ありがとうございます。ですが久しぶりのお客様なのでやらせてください。それに、ゴルドくんの友達なので、是非ミルダのことはミルダと呼んでください」

「自分の事を名前で呼ぶのも千年前と変わりありませんね」

「マオと同じですね。ね?」


 そう言って僕はマオを見ました。


「……?」


「え、だからマオと同じですねと……」


「……?」


 なぜ頭に疑問を浮かべた表情を僕に見せるのでしょうか?


 するとマオが椅子から立ち上がり、何やら動き始めました。

 まずミルダの持つ鈴を指さし、急に両手をぶんぶん振っています。そして両耳を指さした後に両腕を交差させて首を横に振りました。そして右手の人差し指を左手に向けて再度交差させて首を横に振りました。


「なるほど」

「え、シャムロエ、わかったのですか」

「ええ、マオって確か話すときも聞くときも魔術を使っているのよね? その鈴の音の所為で今マオは言葉が分からないし、話せないんじゃないかしら?」


 シャムロエが口に指をさして首を横に振りました。するとマオが目を輝かせて縦に首を振ります。


「え、ですが外では話していたような気がするのですが」

「外だと音が小さかったし、ぎりぎり魔術が使えたんじゃないかしら?」


「シャムロエ、いつから僕の唯一の長所を身に着けたのですか……」


 音が見える。音がつかめる。そんな能力が普通だと思っていましたが、他人への音の影響はお願いされない限り考えたことがありませんでした。

 だって音で影響を与える人って僕かマーシャおばちゃんしかいませんでしたからね。


「でも私には音がつかめないわよ。そこはトスカにしかできないわよ」


 苦笑するシャムロエ。こんな僕に役割をくれるなんて、もう足を向けて寝れませんね。


「仕方がありません。マオ、こっちに来てください」


 僕は椅子に座った状態で膝をポンポンと叩きます。するとトコトコと歩いてきたマオが僕の膝の上に座ります。


「マオに迫る鈴の音だけを遮れば良いのですよね。でしたら」


 そう言って僕はマオの周辺で手を振りました。正確には僕の目からは音に触れてマオに迫る音を遮りました。


「……ん、ありがたい。これで会話ができる」

「改めまして初めまして、マオさん。ミルダはミルダと言います」

「……マオはマオ。よろしく」


 お互い自己紹介をするとき、自分の事を自分の名前で呼ぶため、頭が混乱しそうです。

 あと、腕をずっと振り続けないといけないので、地味に大変です。


「フーリエさんから聞いた通り、音が見えるのと音に触れる事ができるのですね。この鈴の音も触れているのですよね」


 リーンとずっと鳴り響く鈴の音。部屋の中なのに風が通っているため、鈴がずっと鳴り響いています。ゴルドの魔術で暖かいとはいえ、部屋の中なのに少し寒いようにも思えます。


「どうして室内なのに風が……って、大きな穴が開いているわね。襲撃でも受けたの?」


 部屋の壁の上の方を見てみると、大きな穴が開いていました。


「あれはわざとです。どの部屋も穴があり、どこでも風が吹いています」

「どうして?」

「鈴の音を絶やさないためです」


 リーンと鳴り響く音。それは鳴りやむという事がありません。今でもずっとなり続けています。


「なるほど。ずっと鳴らすことでミルダは長生きしているのですね」

「そうです。生きなければならなくなった。そうなった日からミルダは鈴の音を絶やさずに鳴らし続けました」

「どうしてそこまで」


 僕のふとした一言にミルダはまっすぐ僕を見て答えました。


「それが、『ミルダ歴』を作った責任だと思っているからです」


 今までの国の王とは次元の違うその視線と圧に、僕は一瞬何かに押された気さえしました。

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