今後の目的
「カンパネの目的が何なのかはわからないけど、私の記憶についてやマオについて少しだけ教えてくれた以上、言われたことはやった方が良いかしら?」
フーリエから出されたお茶をいただきながら、少しだけ黙った後、シャムロエが提案をしてきました。
「そうですね。マオも大丈夫ですか?」
「……その質問にどう答えて良いか分からない」
「その……アマテラスさん管轄の転移者という新しい情報がありましたが」
「……問題ない。単語が増えただけで体に何かしらの異常が出たわけでは無い。もしパムレットの新作がこの場に出されたらそっちの方が驚くくらい平気」
それ、僕から見たら平気かどうかわからないのですが。パムレット一つで国の問題一つ解決しようとするマオなので、正直相当危ないとも捉えられますよ?
「……例えが悪かった。でも大丈夫」
「そうですか。ではフーリエ」
「はい」
僕はフーリエの目を見ました。
フーリエは相変わらず赤い目をしています。この子が悪魔だとは未だに信じられませんが、体は違えど同じ記憶を共有している悪魔。この人に頼る以外道は無いように思えます。
「静寂の鈴の巫女に会うことはできますか?」
「わかりました。取り繕います。ただし、教会には皆様だけで行くことになります」
「フーリエは来てくれないのですか?」
その質問にフーリエは少し悲しい目をしました。
「静寂の鈴の巫女の持つ鈴には『魔力を押さえる力』を宿しています。ワタチはその音を聞くことができません」
「聞くとどうなるのですか?」
「単純に言うとその場で封印されます。ただ封印されるのは『この』ワタチであって、他の地のワタチは無事です」
「そういう事ですか。わかりました」
そう言ってフーリエは机の中からナイフを取り出しました。
「え、フーリエ、一体何を?」
シャムロエが疑問の言葉を発した途端、フーリエは軽く指先を切りました。
え、何の躊躇も無く切りましたが、痛くないのですか?
「……闇の……魔力」
マオが呟いた次の瞬間、フーリエの血が落ちた地面には魔方陣が現れ、中から翼の生えた大きな目玉が現れました。
『カッカッカッカ、ハラヘッタ』
あ、アレは一体!
「安心してください。ワタチの悪魔です。静寂の鈴の巫女にはいつもこの子に手紙を渡して連絡をしていました」
『ケケ? マリョククレルノカ?』
「後であげますから、この手紙を静寂の鈴の巫女へ届けてください」
『カッカッカ。ワカッタ』
耳に残る異様な声。というか目と翼しかないのにどうやって言葉を発しているのか分かりません。
翼の生えた大きな目はフーリエの手紙を翼につけて、飛び立ちました。
「ず、ずいぶん気味の悪い動物を飼っているのですね」
「あれは『空腹の小悪魔』という悪魔です。悪魔も使い方によっては良い道具になるのですよ」
まあ、フーリエも人間と一緒に生活していますし、本当にそうなのでしょう。
ミッドガルフ貿易国の地下にいた邪神のような悪もいれば、フーリエの様な善もいるのでしょう。
「……フーリエは意外と容赦無い」
「え?」
マオがフーリエをじっと見ていました。
「……フーリエが鈴の音を聞いたら封印される。ならばあの悪魔はどうなる?」
「あ」
それもそうです。あの悪魔はてっきり戻ってくる物だと思っていましたが、どうなのでしょうか?
「トスカ様、一つ良い事を教えます」
「はい」
「千年も悪魔として生き、記憶を共有していれば、人の心なんて忘れるものです」
フーリエの目は悲しげでした。
☆
医務室ではゴルドがベッドに座っていました。
「大丈夫ですか?」
「トスカ。はい、大丈夫です。それよりも今後の方針は決まりましたか?」
「はい。まずは『静寂の鈴の巫女』と会います」
「そうですか」
その後の原初の魔力を使える人を集めることについては後ほど考えるとしましょう。
「そうですか、原初の魔力を使える人を」
「マオもですが、どうして時々僕の心を躊躇無く読むのですか?」
「あはは、すみません。ただ、この魔術研究所の初代代表のマリーという人はもっと酷かったのですよ?」
「千年前の事を言われても知りません。とりあえず僕の心を勝手に読むなら今後『腰痛が酷くなる曲』を吹きます。良いですね?」
「そ、それは地味に嫌ですね。わかりました」
僕がため息をつくと後ろでシャムロエがマオに話しかけていました。
「アレが上下関係を定める瞬間よ? マオも油断していると全部のパムレットが野菜味になるから気をつけなさいよ?」
「……超最善を尽くす」
「何こそこそ話しているんですか。本当にしますよ!」
「……そ、それだけは……」
マオが本気で泣き始めそうなのでボソッと冗談ですとだけ言いました。
「今日はもう夜も遅いですので、ワタチの宿で休んでください。明日入り口までご案内します。ゴルド様はこのままここを使ってください。申請は出しました」
「ありがとうございます」
「いえ、では」
そう言って僕達は医務室を出て行きました。明日はとうとうこの大陸の象徴とも言える人物の『ミルダ』に出会う日です。




