パムレット
魔術が盛んなゲイルド魔術国家の商店街には、様々な魔術書や魔術に関する道具が多く売られていました。
「凄いわね。てっきり『アイス・パムレット」しか売られていないと思っていたわ」
「シャムロエ。貴女までマオの毒牙に染まってしまったら僕の心が折れてしまいます」
「冗談よ。そんなに落ち込まないで」
背中をポンポンと叩かれ、何故か励まされました。
とはいえ、やはり魔術国家ということで空を飛んでいる人がいたり、その場で魔術を放って何かをしています。 ゴルドがそれを見て感心していました。
「ボクがいたときは魔術師の数は少なかったです。フーリエほどの人が数人くらいでしたね」
「フーリエの実力がどれほどかがわかりませんが、ゴルドが強いというなら強いのですね」
「あの頃のフーリエは凄かったのですよ。禍々しい闇の魔術を」
「ゴルド様! 過去の話はその辺で!」
え、凄く気になるのですが!
「そんな『些細な』ことよりも今日のご飯です! 何が食べたいですか!」
いつになく攻めてくるフーリエに圧倒されつつ、とりあえず今日のご飯の要望を考えました。
「魚が食べたいです」
「肉ね」
「……パムレット」
「鉱石」
「では野菜料理にしますね」
全員が地面の氷に滑って転びかけました。というか僕とシャムロエは普通ですが、マオはお菓子ですし、ゴルドに関しては論外ですよ。もうその鉱石精霊主張しなくても貴方は鉱石精霊ですよ!
「とはいえ、この雪の多い土地に魚や肉はそれなりに高いのでは?」
「そうなのです。代わりに雪の大地にだけ生息する野菜は豊富なのと、魔術によって温度管理等を行って作られた施設による栽培で作られた野菜で作物はなんとかなっているのです」
「……パムレット」
「あ、パムレットも実はこの地では安価な食品としてかなり重宝されています。材料は異なりますが室内で作った野菜や作物で材料を作ることに成功し、今ではガラン王国にも勝る美味しいパムレットが作れるとか」
そこで僕は重要な事に気がつきました。
「ミッドガルフ貿易国では豊富な種類のパムレットがありました。この地ではパムレットの原料となる作物を研究し、美味しいパムレットが作れるようになった」
「そうですね」
「本家のガラン王国は?」
「……トスカ。きっとトスカはガラン王国の影の部隊に消される」
物騒な事を言わないでください!
と、突っ込もうとしたらフーリエがとんでもない発言をしました。
「え、トスカ様達は『ガラン王国のパムレット専門店本店』で『パムレットセット』を食べなかったのですか?」
僕は『音を掴みそこねました』
今の音はマオに聞かせてはまずい。そう思い手を伸ばしましたが、その手は何故か動きませんでした。
動かない理由は単純です。『マオが僕の腕を魔術的な何かで動きを封じた』からです。
「……トスカ。ガラン王国は滅ぶ。今すぐ行こう」
「サッと怖いこと言わないでください! きっともし滅んだら真っ先にマオを疑いますからね!」
僕達の旅はパムレットを食する旅ではありませんよ! あくまでシャムロエとマオの記憶を探す旅です。それを間違えてはいけません。パムレットはおまけですよ!
「でもここでの用事が終わって何も無ければガラン王国に帰るのよね?」
まあ、僕の村はガラン王国の近所なので。
「そうですね。だから急ぐ必要もありませんよ。いつか食べることを約束しますから早く僕の腕を自由にしてください」
プツンと糸が切れたように僕の腕が動くようになりました。
「……約束。もし破ったら『心情偽装』で『パムレット』の刑にする」
えっと、『心情偽装』って確か対象の人物の心を書き換える術でしたっけ。つまり僕は意図せず『パムレット』と心で思う刑ということでしょうか。地味に嫌ですね。
そんな事を思っているとゴルドが僕の方に手を置きました。
「人間に『心情偽装』を使うのは凄く危険です。場合によっては精神が壊れて何も考えられない人形の様になります。気をつけてください」
「原因が『パムレット』って嫌ですよ!」
これから僕達の旅には『パムレット』がどうしてもつきまとう危険な旅になるんですね。お菓子ってそんなに怖い物でしたっけ?
「さて、ここがワタチのお店です」
そう言ってフーリエが指を指した先には三角屋根の大きめな家がありました。
「そしてその奥に見えるのがトスカ様達の目標としていた『魔術研究所』です!」




