☆旅の途中の休憩所
今回から三章となります。執筆段階では三章は少し長めになるかもしれません。というのもゲイルド魔術国家ではやりたいことがいくつかあるので、地方で章を分けている現時点での方法だと前回よりこの地方での出来事は長めかなと。
とはいえ、ほっこりした感じは引き続き継続しつつ、今後も楽しんでいただけたらと思います!
「フーリエ、お世話になりました」
「いえ、またいつでも来てください!」
感動の別れ。と思いますが、北に位置する『ゲイルド魔術国家』にも『寒がり店主の休憩所』があるのでそれほど悲しくはありません。
強いて言えば。
「……パムレット食べ放題が無くなるのは悲しい」
「食べ放題ではありません。ちゃんとお金は払っていますからね」
激安パムレット(ガラン王国よりも種類豊富)から離れてしまうということで、マオだけは悲しんでいました。
「大丈夫よ。きっとゲイルド魔術国家にもパムレットはあるでしょ?」
「はい! あそこはかつて『雪の地』とも呼ばれた場所。ひんやりしたパムレットはその地方でしか食べれないとか!」
「……トスカ、早く行かないとパムレットが消える」
毎度の事ながら、僕達の旅はパムレットに左右されているようにも思えてきました。
その光景を見てゴルドは笑っていました。
「あはは、トスカは大変ですね」
「笑い事ではありませんよ。パムレット一つで大陸の問題を解決しようと言い出す魔術師と、腰痛が酷いから国を救おうと言い出す女の子ですよ? 本来の目的は記憶を探す旅と言うことを忘れているのではないですか?」
「「あ」」
「今忘れてたって顔しましたね!」
もう少し自分自身と向き合って欲しいです!
特にシャムロエはガラン王国の初代王女の転生かもしれないということから、歴史を紐解く準備くらいはして欲しいですよ!
「冗談よ。これでも空いた時間にフーリエにこの大陸の過去を聞いたりしていたからね」
「そうです! ワタチの知る限りの大陸事情はシャムロエ様に話していたのです!」
「大陸事情。例えばどういうのですか?」
そう言うと、フーリエは一冊の本を出して、それを机に置きました。
「例えばこれですね。これから行く『魔術研究所』や『ミルダ大陸』に深く関わる人物について書かれた本です。名前は『静寂の鈴の巫女ミルダの記録』です」
ずいぶんと分厚い本ですね。それほど何かを成し遂げたということでしょうか。
「人間の一生分とは思えないほど色々書いてありますね」
「トスカ様、少し違います。『静寂の鈴の巫女ミルダ』は『ミルダ歴』を作った本人にして、今も生きる『人間』です。つまり、この本には千年以上の彼女のお話が書いてあります」
そういえばそうでした。そもそも『静寂の鈴の巫女』という存在が本当にいるのか、僕のような田舎育ちには縁が無いので、普通の感覚で考えていました。
「千年の時を生きる人間。あれ、フーリエは何年生きているんだっけ?」
「え! あ、いや、ワタチは……」
フーリエが戸惑いました。
そういえばフーリエってゴルドが『強力な認識阻害』をかけられる前から生きているのですよね。
そしてゴルドは『ミルダ歴』を知りませんでした。ということは……。
「凄い年上だったのね……えっと、フーリエさん? その、これからもどうかよろしくお願いしますね?」
「シャムロエ様! 急に距離を置かないでください! 今までと同じで良いですから!」
フーリエがシャムロエに向かってぽかぽかと叩いています。触れてはいけない話題なのですね。
「こほん、とはいえ全て秘密にしているわけではありませんが、『いずれ全て知る』と思うので、今はただの宿屋の店主とだけ思っていてください」
「どういうことですか?」
「そんな気がするのです。トスカ様はいずれワタチやこの大陸について知ることになると思います。ゴルド様は既に知っているかもしれませんが」
「ボクを過大評価しても何も出ませんよ。全く知らないと言ったら嘘になりますが」
ゴルドも千年前はこの大陸で普通に生きていたのですよね。『ゲイルド魔術国家』に行く途中で何かお話してくれると嬉しいのですが。
「まあここで立ち止まっていても話は進まないし、次の地域へ行きましょう。ということで『ゲイルド魔術国家』のフーリエに会いに行くからね」
シャムロエの言葉にフーリエはニコッと笑い、手を振りました。
「お待ちしております! 道中お気をつけて!」
☆
ミッドガルフ貿易国からゲイルド魔術国家の間は、障害物となる木々は無く、とても景色は良いです。
ただ、できれば魔獣から身を守るためにも、ちょっとした岩場や森は欲しいかなと思いました。
「トスカ、岩場ならボクが生成しますよ?」
「一応鉱石精霊という高位な種族を尊重して、あえてお願いしてないだけですよ」
僕の中で『凄い能力を持っているのに何か惜しい人』というのがここに三人いるので、もう誰を信じて良いのか分かりません。
「……何か惜しいというのは不名誉。マオの何が不満なの?」
「マオはパムレットが関わるとすぐにその地域の問題を解決しようとしますからね」
「ボクは何ですか?」
「精霊なのになんか人間味があって、心の底から尊敬できないです」
「その点私は欠点なんて無いわね!」
「忘れませんよ。腰痛でガラン王国の問題を解決しようと言い出した貴女は一番重罪です」
「酷い!」
そんなほのぼのしたやりとりをしながら進んでいくと、小さな小屋がありました。
『====休憩所』
そう書かれた看板があり、日も少し落ちてきたので、今日はここで休むことにしようと提案しました。
「そうですね。トスカの案に賛成です」
「わかったわ。近くで食べれそうなものを探してくる」
「……シャムロエだけだと不安だからついていく」
「ふふ、ありがと。マオ」
「ん」
トコトコとついていくシャムロエとマオ。そんな二人を見届けて休憩所の扉を開けると。
「いらっしゃいませ!」
「「うわああああああああああ!」」
フーリエでした。
「いや、そんなに驚くことは無いと思うのですが!」
「いやいや! 先ほど別れたばかりですよ!」
さすがに王国までは会えないと思っていたので、予想外に驚き……。なんか隣にいた精霊さんがいつもより低い位置に頭がありました。
「ゴルド。そういう所ですよ」
「いや、さすがにこれは予想していませんよ。そりゃ腰も抜けます」
女性二人よりもか弱い心の持ち主の鉱石精霊がそこにいました。




