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☆♪ともに奏でる新たな風

 今回もおまけで劇中曲があります。url(Twitter)はあとがきにあります!よろしければどうぞ!

 ミッドガルフ王が倒れ、周囲で尻餅をついている兵士達がざわつきました。


「ミッドガルフ王に何てことを」

「重罪だ! 上層部を呼ぶんだ!」


 慌て出す兵士達。

 


 そんな中、またしても階段を駆け下りる音が『見え』ました。しかも複数です。

 特に鎧の音はありませんが、一体何が。



「へへ、笛吹きの兄さん。まさかこんな所にいるとはな」



「が、楽器屋の店主!」



 いや、本当に予想外ですよ。まさか出会ったらいつも演奏するあの店主が、ミッドガルフ王の住む城の地下に来たんですよ?

 それに他にも商人らしき人や鉱山に働く力自慢の男なども現れて、一体何がどうなっているのでしょう。


「どうしてここにいるのよ?」

「げ、タンバリンの姉ちゃん。お、おう。商売をしていてふと噂を聞いたもんでな。笛吹きの兄ちゃんが城に入ったことも気になってたし、俺達も来てみたわけだ」

「噂ですか?」


 僕の質問に楽器屋は鉄の楽器を見せてきました。


「これは最近手に入った楽器だ。黒い鉄で作られた楽器なんだが音がひでえ。それにやたら堅い。こんな鉄は見たことがねえのに、ここの鉄を使ったって聞いたからな」


 楽器屋がそう話すと、先ほどまで気絶していたミッドガルフ王が起き上がって叫びました。


「馬鹿な! あの鉄は生成された後城で厳重に保管されるはずだ! 通常の流通はされない!」


 その叫びに鉱山で働く男らしき人物が話し始めました。


「ほほう、俺達の知らない鉄の流通があるのか? ミッドガルフ王。どういう事か説明してもらえねえか?」

「あ、いや、それは」


 焦るミッドガルフ王にゴルドが素朴な疑問を楽器屋にしました。


「ちなみにこの楽器はどれくらいの値段なんですか?」

「ああ、鉄なのに黒い。輝き方が普通では無いということで通常の数倍の価格だな。まあこれは気味が悪いから引き取ってくれって頼まれた物だが」


 その言葉に鉱山の男達がさらにミッドガルフ王に歩み寄りました。


「まさか、鉄をオレ達から安価で買って、それを強固な鉄に変えて売りさばいていたとかか?」

「ち、違う! 売りさばいてはいない! きっと兵の誰かが金儲けで流して……」

「……売りさばいては? 兵の誰かが? つまり黒い鉄の生成はしていた」


 楽器屋がそう言った瞬間、後ろに立っていた力自慢の男が叫びました。


「この王を捕まえろ! オレ達が汗をかいて掘った鉄をこんな鉄に変えたんだ! 一度苦労の一つや二つ、味わって貰おう!」

「おお!」

「ロープならあるぜ!」


 集団の中には商売道具を持っている人もいたので、どこからともなく太めの紐を出しました。それをミッドガルフ王へ巻き付けます。


「くそおお、だが、この国はどうする! 英雄ミッドか商王ガルフの血縁を探すのか!」


 どうやらこの国の王は血縁で決めているそうですね。ガラン王国と近いものを感じます。国の王については僕から何かを進言できません。



「なら俺がやるよ。ガルフの正統な子孫だからな」



 そう言って楽器屋は前にでました。え、ガルフの正統な子孫?


「な、何を戯れ言を! そ、そう都合良く現れるわけがないだろう!」

「なら一つ質問だ。おい皆、『俺の名前を言ってみろよ』」



 …………。



 え! 誰も知らないのですか!



「……衝撃。この場にいる人全員があの楽器屋の名前を知らない。知っているのは『心情読破』を使ったマオだけ」

「え、どういうことですか?」


 マオの目が光っています。


「……あの楽器屋の名前は『ガルフ』。かつてこの国を作った初代王と同じ名前。そしてあの楽器屋の父、祖父もガルフ。ずっと受け継がれている由緒ある名前」


「へへ、そういう事だ。どこかの代で兄弟が王位を争い、俺の先祖は追い出された。しかしずっと『ガルフ』という名前は受け継がれている。次の『ミッドガルフ王』になる権利はあるぜ?」



「ばかなああああああああああああ!」



 ミッドガルフ王は叫びました。同時にその場で倒れ、気絶しました。


「お、王が……二人?」

「いや、でも」


 兵士達は戸惑っていました。今まで王だと思っていた人物が影で何かをしていた。それが住民に知れ渡ってしまいました。


 兵士にとって都合の悪いことが住民に知れ渡るなど、居心地が悪いでしょう。


 そうなると、次なる道は決まっていました。


「が、ガルフ王! いえ、ミッドガルフ王! ご命令を!」


 楽器屋を見て兵士達が敬礼しました。

 そして楽器屋改め、ミッドガルフ王は最初の命令を下しました。


「この愚かな元王を牢屋に入れよ!」



 ☆



 新ミッドガルフ王の誕生に、城下町はお祭り騒ぎです。

 というか、今まで楽器屋として働いていた人が、実は『ガルフ』の子孫でしたということに、周囲は驚いていました。


「握手くらいしておけば良かった!」

「楽器買えば良かった!」


 凄い人だったという事を知った後の心情はなかなか面白いですね。『心情読破』を使えない僕にもドロドロの欲望が目に見えますよ。


「……実際もっと心は黒い。それが人間」

「やっぱり使えなくて良かったです」


 落ち込む光景を見ていたら、シャムロエが悲しい目でその人達を見ていました。何か思い当たる節があるのでしょうか。



「私、初代ガラン王国の王女……らしいのだけれど」



「記憶が無い以上それが事実だとしても説得力に欠けるので絶対に大声で言わないでくださいね」



 真顔で何を言っているんですかこの少女は!

 僕の突っ込みにゴルドは笑っていました。


「本当にトスカ達は面白いな。うん、やっぱり一緒に行動することに決めて良かったです」

「そうですか。でも鉱石が採れなくなることで、この国は大丈夫なのですか?」

「ええ、鉄を加工する店に行ったのですが、最近では古い鉄を再度溶かして再利用する事も行っているそうなので、もう千年くらいは大丈夫だと思います」

「ゴルドの千年と僕の千年の感覚はかなり異なるので、時間を例にあげるの止めてくださいね」


 本当に個性的な人たちが揃いましたね。


 そんなことを思っていたら、城から兵士の集団が歩いてきました。

 これから新王の挨拶ということで町をまわるそうです。


「あはは、何あの格好。王の服が似合わないわね」

「シャムロエ、聞こえたらどうするのですか」


 シャムロエに注意をして、その光景を眺めます。中央には王と思わせる服を着た楽器屋が歩いています。


 僕と目が合いました。


 兵士達が方向転換し始めました。



 え、凄い圧がこっちに迫ってきているのですが!



「全体、止まれ!」


 ざっ!

 そんな音と共に兵士の集団は動きを止めました。

 そして中央にいた楽器屋……いえ、ミッドガルフ王が僕達の方へ歩いてきました。


「笛吹きの兄ちゃん。そしてタンバリンの姉ちゃん。お嬢ちゃん。そして鉄琴の同士。お礼を言わせて欲しい」

「ミッドガルフ王って呼んだ方が良さそうですね。また牢屋に入れられるのは困りますから」

「はは、まあこの変の兵士は皆頭が固いからな」

「僕達は北に行く途中の寄り道で問題を解決しただけです」

「寄り道でこの国の裏で動いていた大きな問題を解決するとは誰も思わなかったよ」


 僕の行動は正しかったのか正直まだわかりません。

 ゴルドを連れ出したことでこの国の今後の資源運用は少しづつ変化し始めるでしょう。

 地下にいた大きな怪物も、果たしてそのまま倒して良い者だったのかも不明です。そもそも何だったのかも不明ですね。


「少なくともこの国は良い方向に進む。俺はそう思う」

「僕もそう願っています」


「だから、その決起と行こうじゃねえか!」


 そう言って、ミッドガルフ王は服を脱ぎ捨て、中に着込んでいたいつもの服に替わりました。

 後ろの兵士達もどこからともなく楽器を取り出しました。


「笛吹きの兄ちゃん。まさかここで逃げるなんて言わないよな? 正式に王となって最初の命令は『演奏しろ』だ! 俺の挑戦、受けないわけ無いよな!」


 楽器屋の前には鉄琴が準備されました。


 僕の手は自然とクラリネットを出して構えていました。

 それをシャムロエとマオとゴルドは見て微笑みました。


「全く、最初の命令がそれなら、この先平和になるに決まっているじゃないですか」


 新しい王の誕生。それは新しい時代の幕開けと共に、ここに住む全ての人たちが祝福する、大きな行事となりました。

 ♪

 挿絵(By みてみん)

 二章はここまでとなります! お付き合いいただきありがとうございました!

 今回のお話のおまけ劇中曲のurl(Twitter)は

 https://twitter.com/kanpaneito/status/1119744440275357696

 です。


 今回のお話では主にゴルドを主体としてこの世界の歴史について触れた感じとなりました。どの物語にも歴史はつきもので、この物語にも歴史はあります。例えばミッドガルフの名前の由来となった『ミッド』はかつてこの地域を守っていた英雄の名前など。直接関係はしないにしろそういった設定が一つあるだけでより深く世界観が楽しめるのかなと思います。

 三章は大陸北の『ゲイルド魔術王国と静寂の鈴の巫女編』となります。魔術なので二人が活躍することは間違い無いのと、この世界の象徴『ミルダ』にまつわるお話です。引き続き楽しんでいただけたらと思います!

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