クラリネット奪還
そういえばこの城には優秀な魔術師がいるんでしたっけ。マオが魔術で牢屋の柵を壊したら気がつかれると思うのですが。
「……大丈夫。マオは壊してない」
「え、じゃあどうやって」
ふとシャムロエを見ると、頬を少し染めていました。
「ほら、木の棒も鉄の棒も同じ棒よ。ちょっとひねれば壊れるわよね」
「普通は壊れませんよ!」
声を抑えつつ、言いたいことははっきり言いました。
それを見てゴルドが少し笑います。
「あはは、やっぱり凄いですね。ボクの知っている人と似ています」
「笑い事ではありません。というかマオが魔術を使わなかったのなら、牢屋の柵は曲がったままなのでは!」
「ほら、鉄って頑張れば元に戻せるじゃない?」
「普通は頑張っても元には戻せませんよ!」
僕は当初同行者として二人の案内をするつもりでしたが、力がとても強い少女と魔術がとても強い幼女と精霊の少年に囲まれる僕って一体何者なんですか!
「「(……)大丈夫(です)。道案内は大事(です)」」
「二人は心を読まないでください!」
一応僕達は犯罪者として捕まっている身なので、見つかったら危ないのですよ。危機感を持ってください。
「……それよりもトスカ、クラリネット」
「そうです……」
捕まった際に没収されました。いや、これは予想するべきことでした。
没収されたクラリネットは何処に行ったかわかりません。誰かが吹けばその音でわかるのですが、犯罪者の……しかも楽器を吹く何て兵士はいませんよね」
ぴーーーーー!
「どうやらこの先に僕のクラリネットがあるみたいなので、王に会う前にそっちへ行って良いですか?」
「凄いわ。私も『クラリネットの音』が見えた気がする。これがトスカの感覚なのね!」
「あんな特徴的な音、一度聞いたことがあれば誰でも今の音はわかりますよ!」
しかし不思議ですね。この牢屋は地下にあります。そしてクラリネットの音は僕のいる場所より下から来た様に見えました。
僕がそう思っているとゴルドが僕を呼びました。
「トスカ、もしかしてですが、この地下にはこの国の秘密が眠っているかも知れません」
「秘密ですか?」
「はい。だって……一歩歩くと腰が痛むのですから」
「あ、私もそれ思ってた」
「二人は悪魔捜索隊にでも入団すれば大活躍できると思いますよ!」
捜索方法が体のどこかに異変を感じたら悪魔がいるというあまり働く上で環境は良くありませんけどね!
「……でもこの先に悪魔の魔力を感じるのは確か。クラリネットの音が何故鳴ったかは読めないけど、怪しさの塊であることは確か」
「では行くとしましょう」
そう言って僕は手を叩きます。
音の反射を見て、地下へ続く道を探します。
「ありました。こっちです」
☆
狭い階段を降りた先には黒い扉がありました。
中から人の声が聞こえてきて、時々気味の悪い声も聞こえます。
「トスカ、聞こえるかしら?」
「ちょっと待ってください。集中します」
目を閉じて音を感じとります。
中には人が……三人。全員フードを着ています。
中央には大きな……動物? いえ、もっと不思議な形の何かがいます。
「この扉を開けると、結構広い部屋があって、そこには人が三人と大きな何かが一つあります」
「すぐに決着をつければ問題ないかしら?」
「……一人につき一人倒せば問題ない」
「わかりました。トスカはその間にクラリネットを探してください」
「はい。では乗り込みますよ!」
そして扉を強く開けました。そこには。
『があああああああああああああああああ!』
とてつもなく大きな黒い怪物。身長は僕の三倍以上で、手足の筋肉は凄まじく、頭には角のような物が生えています。一言で言えば怪物がそこに立っていました。




