鉱石精霊の技
「トスカ、この楽器をそこの建物の影で片付けてくるので待っててください」
「じゃあ私も手伝うわ」
「わかりました。マオとそこで待ってます」
「……ん、行ってらっしゃい」
ゴルドとシャムロエが楽器を片付けに近くの家の影に向かっていくと、後ろから楽器屋が僕に話しかけてきました。
「ところで笛吹きの兄さんは何処へ行くつもりだったんだ?」
「ミッドガルフ王のいる場所へ行こうかと」
「な、もしかして謁見の予約をしていたのか?」
驚く楽器屋の店主。え、もしかして予約が必要だったりするのですか?
僕がそう質問をしようとした瞬間、マオが横から会話に混じりました。
「……緊急の用事。予約はしているけど、門番に相談してみるつもりだった」
「ああ、そうだったのか。予約者を止めたってなったら犯罪者として捕まってしまうからな」
「……大丈夫。それを知っててトスカはここで楽器を吹いた」
「へへ。また音楽で勝負しような!」
そう言って楽器屋は自分の店に戻りました。
入れ替わりにシャムロエとゴルドが戻ってきました。
「マオ、この国の事情を知っているのですか?」
「……知らない。楽器屋に『心情読破』を使って心を読んでこの国の事情を知った」
「なかなか賢い判断に驚きましたよ。混乱も生まれなかったので助かりました。ありがとうございます」
「……対価はパムレットで良い」
僕にどやっ! と言わんばかりの表情をするマオ。まあこの国で買う分には安いので良いでしょう。
それよりも予約が必要なのですか。
「ゴルドはこの国の事情を知りませんか?」
「ボクの生きていた時代はまだ『国』という概念がありません。だから城があるのも鉱山から出てきて知りました」
失敗しましたね。もしかしたらフーリエに相談していればこの状況を……。
ん?
☆
「フーリエはいますか!」
「わ、ワタチに何かご用ですか! ってトスカ様?」
『寒がり店主の休憩所』の扉を強く開き、フーリエを呼びました。
「フーリエ、もしかして王と謁見するには予約が必要って知っていましたか?」
「し、しりません……でしたよ?」
「マオ! 『心情読破』!」
「……だめ、フーリエは『心情読破』が通用しない」
「シャムロエ! ……えっと、とりあえず何か!」
「え! じゃあ、フーリエ、殴るわね?」
「おかしいですよ! シャムロエ様ってそんなに暴力的でしたか?!」
ゆっくりと近づくシャムロエにフーリエがゆっくり後ろに下がっていきます。
その光景を眺めていたら、ゴルドが僕の肩を軽く叩いてきました。
「トスカ、ボクに一つフーリエお仕置きに心当たりがあります」
「何でしょう?」
「鉱石精霊として最初にお見せする技がこれというのも嫌ですが、平和的に本当の事を話させるのはこれが一番でしょう。『砂壁』!」
ごごごごっと地響きが鳴り、フーリエの足下には砂が生成されました。
「これは、ま、まずいです! 『ウインド……』」
「させませんよ。『ダウン・グラビティ』!」
「があ! よ、容赦無いですね! 『空腹の小悪魔』!」
「……悪魔なら任せる。『光球』」
「な! ま、まずいです、このままではあああ!」
どどどどどどど!
砂がフーリエに絡みつき、顔と手以外砂に埋まった状態になりました。
その光景を見てシャムロエが僕に話しかけてきます。
「ねえトスカ、今地味にこの小さい部屋の中でそれなりの魔術の攻防が繰り広げられていた気がするけど、気のせいかしら。何か仲間はずれにされた気分よ」
「同意見です」
「……ちなみに今の状況を解説すると、ゴルドが砂を生成して、それから逃げるために風の魔術を使おうとしたところ、フーリエ周辺の重力を強めて逃げられなくしたんだけど、その後フーリエが何か『悪魔的なモノ』を召喚してマオがそれを消し飛ばして、フーリエは顔以外砂に埋まった」
「丁寧な解説ありがとうございます! ですが悲しくなるので必要無かったですよ!」
別に仲間はずれが寂しかったわけではありません。こっちにはシャムロエがいるので、問題無いですもんね!
「あ、そっか。顔だけ外に出ている状況ということは、顔を殴れるのね」
「物騒な事を言わないでください!」
シャムロエは現在混乱しているそうですね。とりあえず口笛を鳴らして動きを一時的に止めました。
「それで、この状況からどうするのですか?」
「ふふふ、ここからがボクの精霊術『砂壁』の真骨頂ですよ」
「ゴルド様! 止めてください! あれだけは、あれだけはあああ!」
そしてゴルドは右手を前に出しました。
「反省は必要です。黙っていた事を隠していた事実は消えないのですよ」
「ごめんなさああああ……あはは、あははははははははははは!」
グネグネと動くフーリエにまとわりついた砂。え、これってまさか。
「これがボクの平和的解決方法。名付けて『グネグネと動く砂によるくすぐりの刑』です」
効果は抜群ですが、見た目はすごく地味過ぎですよ。
あまり書き込まず、ですがそれなりに魔術の飛び交うお話となります。結局マオが解説してしまうというオチも含めて楽しんでいただけたら嬉しいです。




