寒がり店主の秘密
「こほん、みっともない姿を見せて申し訳ございません」
そう言って、フーリエはぺこりと頭を下げました。頭を下げると唯一見えていた素顔の部分も隠れるので本当に布のオバケと変わるのがなんとも言えないですね。
「いえ、久しぶりの再会だったのですよね。気にしないでください」
「ボクはそう感じないのですが……まあ別れの際は色々ありましたから」
色々二人の過去にはあるみたいですね。
そんな事を思っていたらシャムロエが話し始めました。
「というか、ゴルドが千年寝ていたということは、フーリエもそれくらいの年齢って事なの?」
「事情はありますが、強いて言えば……」
静かな空気、これはおそらく重大な単語が出てくるのでしょう。
「ワタチの秘密はミルダ大陸くらい壮大な」
「はい、それはもう良いです」
無理矢理切りました。
不満なのか、頬を膨らまして僕を見てきます。
「……はむ、それよりも、もぐもぐ、ゴルドが、むぐむぐ」
「マオ、ちゃんと食べてから話しなさい。ほら、クリームがついているわよ」
「……ん、シャムロエ、ありがと」
本当にこの光景は姉妹って感じですね。
「……この今の時期限定のパムレットはなんと中に二種類のクリームがあって一つで二度美味しいとはこのこと。幸せの塊は多ければ多いほど平和になる」
「話が変わっていますよ」
「……こほん。ところでゴルドはこの地方を出ても大丈夫なの?」
マオのふとした質問にゴルドが少し考えました。
「そうですね。まず鉱石が『生える』という現象は無くなるでしょう。ですがそうなると一つ問題も発生するのですよね?」
ゴルドがフーリエを見て、フーリエが頷きました。
「あくまで予想ですが、ゴルド様がいなくなる事で鉱石が採掘できなくなるでしょう。そして採掘場では突然鉱石が出なくなったという状況になり、物価の高騰やミッドガルフ王国自体が混乱するでしょう」
ゴルドが今まで寝ていたから得られた恩恵。知らない人からすれば自然現象ですが、それが無くなれば当然国としては混乱するでしょう。
そしてこの国を支えていた資源が無くなれば他の国との貿易も途絶えます。
貿易が途絶えるとパムレットも……おっと、余計な考えをしてしまいました。
「……超事件。パムレットが食べられなくなると、マオが困る」
「些細な事件です。今のは流しましょう」
「……世界よりパムレット」
「流しましょう! 話が進みません!」
頬を膨らますマオをシャムロエが抱きかかえて膝に乗せて頭をなで始めました。いや、だからそのほっこりした感じは何なんですか。
「ご、ゴルド様! ワタチも久々に膝に!」
「遠慮させてください」
「え、ゴルドは過去にフーリエを膝に乗せていたのですか!」
二人の関係は一体どういう……。
「兄妹みたいな感じですよ! それにフーリエを膝に乗せると……」
「乗せると?」
真剣な目で僕を見るゴルド。その目はとても鋭く、僕の呼吸も止めるくらい緊張感にあふれて……。
「目が見えにくくなるのです」
もう誰も信じません。この真面目になる展開は少なくてもマオ、フーリエ、ゴルドがやったら今後絶対流しますよ。
「違うんですよトスカ」
「今僕に『心情読破』を使いましたね! 心を読まれる感覚が予想できましたよ!」
「そ、それはそれとして、ボクは精霊です。その……『悪魔』とは相性が悪いのですよ」
悪魔とは相性が悪いって、それは確か以前腰痛で悩んでいたシャムロエのような感じでしょうか。それよりもどうして今悪魔の話が出てくるのでしょう。
そんな事を考えていたら、またしても『心情読破』を使ったのか、ゴルドが少し驚きました。
「え、シャムロエも悪魔と相性が悪いのですか?」
「はい、以前悪魔と戦ったときに腰痛が凄いって言ってました」
「あまり思い出したくないわね」
そう言って、シャムロエは苦笑しました。
「ふむ、フーリエ。実験して良いですか?」
「うう、実は隠したかったのですが、年齢の問題もあるのでこの件ははっきりしておきましょう」
そしてフーリエはまるでゴルドが何をして欲しいかすでに知っているかのように、シャムロエに近づいて行きました。
「シャムロエ様、腕を出してください」
「こう?」
そう言って、シャムロエは腕を出しました。そこに今まで布で隠れていたフーリエの手が現れ、シャムロエの腕に触れました。
「う……、これは」
シャムロエは少しよろけました。膝の上に乗っていたマオが落ちそうになって、瞬時に魔術でバランスを保っています。というかその反射的に魔術を使う辺り凄いですね。
「目眩がしたわ。今のはフーリエの技?」
「いえ、これはワタチの魔力の『いたずら』です」
そして、フーリエは赤い目を輝かせ、笑顔で答えました。
「ワタチは悪魔なのです」




