☆長年の待ち人
急な提案に驚きました。しかしある意味利害は一致しているのでしょうか?
豊富に採掘できる鉱石は減る。僕達の旅の戦力は増える。悪い話ではありません。
とくにこのゴルドという少年は鉱石の精霊です。きっと強いに決まっています。
「……普通に強い」
「そうなのですか?」
マオが先ほどから僕の服の裾を掴んでいます。
「私も同意見ね。全然隙が生まれていない。何て言うのかしら……見極めないと足下をすくわれる感じね」
シャムロエも右手をギュッと強く握り、ゴルドを見ます。
「あはは、ボクは所詮下位精霊です。確かに少し強いとは思いますが、原初の魔力を持った人がそこにいるので、なんとも言えませんよ」
「僕の事ですか?」
「ええ。音は目に見えない筈の魔力。よっぽど悪魔と戦った方がボクとしては楽ですね」
苦笑するゴルド。一体過去に何があったのかきになりますが、とりあえず再確認をしましょう。
「こほん。僕達は『カンパネ』という神から北の魔術研究所に行くことを命じられました。その後の目的もわかりませんが、とりあえずそこまで同行してもらえるということで良いですか?」
「カンパネですか。この世界の神様から命令されるとは凄い人間ですね。わかりました。ボクもこの地から離れないといけない状態なので、協力します」
そう言ってゴルドは右手を出しました。
その右手を僕は掴み、握手を交わしました。
「よろしくお願いします。精霊ゴルド」
「はい。音を操る人間トスカ」
精霊との契約というのは本で読んだことがありますが、案外それほど神々しい物ではないのですね。だって握手で終わっているのですもの。
☆
鉱石精霊と一緒に鉱山を出ると、既に外は夜でした。
結構長い時間いたのですね。予想外です。
「はあ、早く夕ご飯を食べたいわ。今日は何かしら」
「……パムレットを所望」
相変わらず二人は呑気です。
そんな二人の会話を聞いたのか、ゴルドが僕に質問をしました。
「宿があるのですか?」
「はい。『寒がり店主の休憩所』という場所です。店主にお願いして部屋を増やしてもらいますか?」
「いえ、ボクとトスカで一緒の部屋で良いでしょう」
何か見た目同じ性別な感じですが相手は精霊です。少し緊張しますね。
そして『寒がり店主の休憩所』に到着。既にご飯の準備をしているのでしょうか。とても良い香りがしてきました。
「あ、お帰りなさいませトスカ様。シャムロエ様。マオ様。すでにご飯の用意は……」
フーリエの動きが止まりました。
手に持っていたおたまを落として一直線にゴルドを見ていました。
あ、一人増えると言わないといけませんね。
「フーリエ、すみませんがこの人は」
ゴルドという名前の人で、今日からこの人も宿泊を……そう言おうとした瞬間でした。
「ご、ゴルド様!」
「あはは、まさか貴女と会えるとは思いませんでした」
二人は知り合いだったのでしょうか。
え、ちょっと待ってください。
ゴルドは千年寝ていたのですよね?
と言うことは、フーリエって……。
「……トスカ、今はきっと質問してはいけない」
マオがまたしても僕の心を読んでいました。
「私もそう思うわ。だって、フーリエのあの姿をほっといて、夕ご飯の献立を聞くことは出来ないわね」
シャムロエは「少し夜風に当たってくる」と言って外に出て行きました。
確かにそうですね。
フーリエは顔をぐしゃぐしゃにして、ゴルドに抱きついているのですから。
フーリエとゴルドの関係は、しいて言えば兄妹みたいな感じです。長年どこかへ行っていたお兄ちゃんが帰ってきた。そんな感じですね。




