神に抗った錬金術師
鉱石精霊。そう少年は言いました。
確かフーリエの話だと鉱石は『原初の魔力』の中の一つにあったような気がします。
「……正解。音、光、時間。そういった世界が生まれてから存在する属性の中で唯一『実態』として存在する概念が『鉱石』」
マオがまた僕の心を読んで疑問に答えました。
ゴルドと名乗った少年はドロドロの鉱石から抜けだし、僕達の目の前に来ました。
「ボクを目覚めさせてくれてありがとう」
「封印されていたのですか?」
僕の演奏はあくまで『目覚まし』です。もし何かの封印の中に『眠る』という概念があったとすれば、それを解いたかもしれません。
「単純に寝ていました」
「真顔で言わないでもらえますか?」
ゴルドという少年からは……その……悪い気配を感じません。言い換えるとレイジから出ていた黒い気配のようなものを感じません。
「ボクは以前、とある神様に逆らい、敗北し強力な『認識阻害』をかけられました」
「強力な認識阻害……だからこの部屋には誰も来なかったのね」
シャムロエがそう言うと、ゴルドはじっとシャムロエを見ました。
「え、ど、どうして貴女が?」
「はい?」
ゴルドはジーっとシャムロエを見ています。その姿は少し怪しいですね。
「……鉱石精霊は変態だった」
「マオ、一体どこからそういう言葉を覚えたのですか。それとゴルド……で良いですか? シャムロエを知っているのですか?」
「シャム……そういうことですか」
「一体何なのです」
「いえ、すみません、シャムロエ。とてもよく似た人物がいたので、見間違えました」
「はあ、同じような事を別な人にも言われたわ。まあ、記憶が無いから言い返せないけど」
確かフーリエに同じ事を言われていましたよね。もしかしたらこのゴルドという少年もシャムロエのお墓を見たことがあるのでしょうか。
「……少年違う。精霊。しかも結構強い」
「そうなのですか?」
マオの目が少し金色に輝いています。何かを覗いているのでしょうか。
「あの、『魔力探知』は短時間でも十分だと思うのですが」
「ということなのでマオ、その術は止めてください」
そう言って僕はマオの目を塞ぎました。むーっと頬を膨らましていますが我慢してください。
「それよりもゴルド。質問をしても良いですか?」
「何ですか?」
「この鉱山は今、鉱石が生えてくると言われるほど鉱石が採掘されます。何か心当たりしかありませんよね?」
「すごい、トスカが普通に質問をするかと思ったら攻めたわよ!」
「……人間皆どこかで成長はするもの。トスカの成長は今始まった」
何か後ろで話し声が聞こえますが無視です。だって戦争が始まりかけているのですから!
「あはは、そうですね。きっとボクの所為です。ここで長い間寝ていたので、ボクの魔力から生まれた鉱石が生成されたのでしょう」
「つまり、この鉱石はゴルドのなんですね。長い間というとどれくらいですか?」
「寝た時と今の間を計る基準が無いので、なんとも言えませんね」
基準ですか。例えばミルダ歴が参考になるのでしょうか?
「今は『ミルダ歴1040年』です」
「ミルダ……歴ですか?」
ゴルドはその場で少し考えました。そして少し微笑み答えました。
「そうですか。ではボクは少なくても千年ほど寝ていたことになります」
「どうしてわかるのですか?」
「ボクが寝る前は『ミルダ歴』というものがありませんでした。目覚めたときは千と四十。まあ最低でもそれくらいは寝ていたということです」
「なるほど。精霊ですし、それくらい長生き出来ると解釈して納得しましょう」
千年間も寝るって、どんな感覚なのでしょう。きっと人間の僕にはわからないと思いますが。
あ、静寂の鈴の巫女は確か人間なので、聞いてみたいですね。一般人が会えるとは思えませんが。
「ではゴルド、この鉱石が生える現象を押さえる事はできますか?」
僕の質問にゴルドは首をかしげました。
「ボクがここから出ればきっと収まると思います」
「それだとここを追い出す形になるわね。あまり私達からは勧めにくい方法ね」
シャムロエの言葉にゴルドが少し考え、はっと何かを思いついた表情をしました。
「ボクから一つ提案良いですか?」
「何でしょう?」
それは、予想外過ぎるものでした。
「君たちの旅にボクも同行しても良いでしょうか?」




