☆大切な思い
つい最近、ミッドガルフ王は代替わりしたそうです。
先代の王が病死し、今の王になってから発掘した鉱石の流れが変動し、ミッドガルフ国内のどこかへ流れているそうです。
ただし、資金面の関係もあるので、ある程度は外に流れているそうですが、それも時間の問題だとか。
「フーリエ、一つ質問良いですか?」
「はい。何でしょう」
「何故僕達なんですか?」
確かに僕以外の二人はとても強いです。それはガラン王国でも証明されました。
しかしガラン王国の時はシャムロエの腰痛という大義名分……にはしたくありませんが、理由はありました。
今回このミッドガルフで僕達が動いて、僕達が得する理由がありません。
「国助けだと思ってやって欲しいのです。ワタチの宿もしばらく無料にするので!」
「道中のフーリエの宿が無料になるのは魅力的だけど、それにしてはあまりに不釣り合いな気もするわね」
前回の腰痛が酷いから悪魔を追い払うって言った人が何を言い出すんですか!
「こほん、とはいえシャムロエの言う通りです。それだったらフーリエに相応の額を払って普通に泊まりますよ」
「そう来ましたか……確かにワタチの休憩所は『安い・安心・安全』を売りにしていますが、ワタチの名前を教えた以上はできる限り協力していただきたいのです」
教えたというか自分から名乗ったのですよ!
「仕方がありません、最終手段を使わせていただきましょう」
そう言ってフーリエは赤い目をさらに赤く光らせました。
「……アレは、凄まじい魔力」
「そうなのですか?」
「……一言で言う。危険。フーリエは普通じゃない」
マオの魔力は普通より高いことはガラン王国の兵士を倒した時点で知っています。そのマオが言うなら、そうなのでしょう。
一体何を。
「戦争が始まれば、パムレットも食べられなくなります」
「……トスカ」
「はい」
「……トスカは散歩中に綺麗な花を見つけたことはある?」
「まあ」
「……足を止めて花を眺める。時にはそういう心の余裕も必要」
「はい」
「今回たまたま『国を助ける』だけ」
規模!
規模を考えてください!
「……心の中で叫ばないで欲しい。頭がクラクラする」
「トスカの目が今までに無いほど怖かったわよ。何を心で思ったのよ」
「とにかく心で叫んだだけですよ!」
マオの中で国よりもパムレットの方が重要なのですか!
「……決まった答えを質問されてもつまらない。トスカはもっと賢い人間だと思う」
「さっきから何を言っているんですか」
これはもう僕が諦めるしか無いのでしょうか。
ため息をつくとシャムロエが僕の肩に手を置きました。
そうだ、シャムロエなら僕の側についてくれますよね。
「ごめん、前回私だったし、今回口出しは出来ないかな。もし今回の次にトスカの都合で国を救う案件が出たら協力するわ」
「僕の都合で国を救うって、最近まで田舎の村人が言うと思いますか!」
もっと規模を考えてください。僕はただ音が見えるだけの人間なのですから。
「……トスカのその能力は普通では無い。以前フーリエが言っていた原初の魔力というのは、この世界で重要な何かだと思う」
「はい。原初の魔力は普通所持している人はいません。知っている人も少ないでしょう。ですから、お願いです。この国を助けてください」
深々と頭を下げるフーリエ。何故そこまで必死なのでしょう。
「戦争が起これば確かに大変だと思います。しかしフーリエ一人がここまで僕達にお願いする理由がわかりません」
そう言うと、フーリエは頭に巻いていた布を取りました。
「ワタチの姉、ミリアム姉様のお墓があり、そしてミリアム姉様が過ごした大切な土地だからです」
そんな事を言われてしまったら。
もう断れませんよね。




