☆寒がり店主の休憩所-ミッドガルフ貿易国店-
「そういえばここでは特に用はないのですよね」
ふと気がつきました。
ガラン王国ではシャムロエの腰痛の原因である悪魔を退治するという思いつきの使命が発生したため足止めされましたが、ここでは特に目的はありません。
「……マオ知ってる。そういう事を言うと何かが起きる」
「そんな偶然あるわけ無いじゃないですか」
僕達は決して英雄でも勇者でもありません。前回は偶然相手が王様の側近でしたが、その時だけ活躍したただの一般市民です。そうそう問題が起きては困るのです。
「それがこの国でも問題はあるのです」
……おかしいですね。凄く聞き覚えのある声が聞こえました。それに見える音もまったく同じ形をしています。
こう……まるで『全身布で包まれている変な人』の声がします。
「……トスカ、変な人は失礼。フーリエは優しい人」
「マオ。僕の心を読まないでください。そしてそこにいるのは……フーリエですか?」
「正解です。正確には『寒がり店主の休憩所ミッドガルフ貿易国支店の』フーリエです」
☆
ミッドガルフの『寒がり店主の休憩所』はなかなか豪華でした。前回との差が大きすぎて見違えるほどには綺麗です。
「へえ、椅子も凄く良い物を使っているのかしら? 座ったら包まれるわね」
「それは市場で安く購入できた物なのです」
「……あの硝子細工も綺麗。高級そう」
「ここの国は資源が豊富なので、物価が安いのですよ」
「貴女は何者なのですか?」
「…………あ、ここでの問題なのですが」
無視ですか!
「冗談です。きちんとお話はするつもりでした。『あっちのフーリエ』は忙しいので、こっちでお話するつもりだったのですよ」
「本当ですか?」
「はい。全ては言えませんが」
納得はできませんが、妥協はしましょう。どこまで話してくれるのかもわかりませんが。
僕の質問の前にシャムロエが話し始めました。
「服の色は違うけど目の色は同じく赤ね。同一人物なのかしら?」
「そうと言えばそう。違うと言えば違う。そんな存在なのです」
「曖昧ね。じゃあガラン王国での出来事はどこまで知っているのかしら?」
「全部です」
全部って言いました?
それはレイジの事情やシャムロエの事情を何かの伝達で知ったということでしょうか。
「おそらくトスカ様は今、何かの方法で知ったと思ったのでしょうけど、違います」
「と言いますと?」
「あっちのワタチとこのワタチは記憶が共有されているのです」
ふん! と鼻息を鳴らして胸を張るフーリエ。いや、凄いのですが、どういう意味でしょう。
「……なるほど、理解した」
マオ、勝手に理解しないで教えて欲しいのですが。
「……フーリエは特殊な魔術で分身しているという認識で良いと思う。心が読めないのは『本物』じゃないから」
「さすがマオ様。その魔力量からやはり凄い存在だと思っていました」
パチパチと手を叩くフーリエ。それにしても分身しているということは、この大陸に数カ所あると言われている店主も……。
「この大陸にはあと何人『貴女』がいるのかしら?」
僕の質問の前にシャムロエが聞きました。
「それは言えません。と言うのも、これは『ある人の命令』なので。すみません」
ぺこりと頭を下げるフーリエ。まあ、悪いことをしているとも思えませんし、これ以上深く関わるときっと悪魔より怖い存在と接触する気がしますね。
「では僕達がフーリエのお店にしばらくお世話になるというのは」
「それはもちろん認識しております。ガラン王国ほど新鮮な作物はありませんが頑張って料理しておもてなししますよ!」
「では、これ以上の詮索はやめましょう。フーリエもきっと何か事情があるのでしょうし、僕達は僕達の目的を行いましょう」
「そうね」
「……うん」
「ありがとうございます。ではご飯の準備をしますね。その後に面白いお話をしましょう」
その面白いお話というのはあまり聞きたくないのですが……。




