☆静寂の鈴の巫女のお話
ミッドガルフ貿易国。
その名は正式なものではないとか。というのも、この大陸で一番貿易が盛んな場所であり、大陸の皆が『貿易国』と言いはじめ、いつの間にか広まったそうです。
「……新たな土地での新たなお菓子に心躍る」
「マオはお菓子のことしか考えていないんだから」
マオが右手をぶんぶん回して、それを見ているシャムロエ。その姿は見ていて微笑ましいです。
「次の土地について、トスカは何か知っているの?」
「そうですね、とにかく鉱石が豊富な土地で、銅貨や銀貨の素材から武器の素材の殆どはミッドガルフから取り寄せているそうです」
「つまり大陸中のこの鉄とかはミッドガルフ貿易国産が殆どなのね」
キーンとコインを弾いて受け止めるシャムロエ。え、今の自然な流れでコインを弾くの凄く格好良いですね。
「それにしてもこのコインをよく見ると、丁寧に彫刻されてるわね。こういう技術も長けているのかしら?」
「……綺麗。女の人?」
「これは『静寂の鈴の巫女』ですね。この世界の象徴です」
「……せいじゃくのすずのみこ?」
「そうですね、ちょうど日陰もありますし、フーリエのお弁当を食べながら少しお話をしましょう」
☆
木陰を見つけ、そこでフーリエから貰ったお弁当を食べることにしました。
そこで僕の知る限りの静寂の鈴の巫女についてお話をすることになりました。
「静寂の鈴の巫女はこのミルダ大陸の象徴で、大陸に住む人たち全員が知る存在でもあります。ガラン王などの歴代続く名前も知られてはいますが、その姿は全員知っているわけではありません。実際僕も知りませんでした」
静寂の鈴の巫女は通貨に顔が掘られているため、全員が知っています。
「……疑問」
「どうしました?」
「……静寂の鈴の巫女の名前は?」
「この大陸の名前にもなっている『ミルダ』ですね」
「……じゃあミルダ歴のミルダも?」
「そうですね。そこから取られています」
「……ミルダは何代目?」
「変わったとは聞いていません。静寂の鈴の巫女は一人だけですね」
「……千年以上生きているの?」
実はこの話しも誰もが最初知った時は疑問に思います。
「静寂の鈴の巫女は噂だと『不老不死』と言われています。約千年以上このミルダ大陸を見守り続けていて、今でも大陸の北の教会に住んでいるそうです」
「千年以上生きるなんて、どんな気持ちなのかしら」
「僕には想像ができませんね。ただ、その静寂の鈴の巫女がいるから、今の世界があるとも言われています」
静寂の鈴の巫女の物語は多く、他の地方に行けば別なお話を聞けるそうです。
村を襲いかかっている魔獣を追い払ったり、村の騒動を静めたり、色々な伝承があるそうです。
「ん? ということはそのミルダっていう巫女は私について知っているのかしら?」
レイジの話が本当であれば、初代女王。つまりミルダ歴で言えば初期の頃にもしかして会っているのでしょうか。
「もしかしたらそうかもしれませんね」
「あの自称神……そこをしっかり言ってくれないとわからないわよね」
「自称神?」
マオが首をかしげました。そういえばあの夢の中にはマオがいませんでしたね。
「……マオだけ仲間はずれ?」
「違いますよ。あの自称神はあえてマオを呼ばなかったようにも思えます」
実際僕が目覚めたときは奇襲がありました。
それを見越してマオを連れてこなかったのであれば、あの自称神はそこまで予想していたのでしょうか。
ともあれ、やはり北の魔術研究所には絶対に行った方が良さそうですね。
「さて、ご飯も食べ終えましたし、もう少しで到着です。もうひと踏ん張り頑張りましょう」
僕が立ち上がり、気合いを入れます。
「私は別に疲れていないけどね」
「……マオも実は魔術で楽してた」
今度肩こりが酷くなる演奏でもしながら歩きましょうか!




