見送り
今回から二章です!
引き続き楽しく物語を綴れたらと思います!
翌朝。
ガラン王国の新たなる始動に、城下町は慌ただしい状態でした。
特に忙しくしている人は僕の目の前でせっせと色々な力自慢の男性に指示を出しているフーリエです。
「そこはもっとオシャレにしてください。そこの穴は取り壊して少し増やし……え? 土地を広げられない? わかりました、ではせめてこの壁を全て壊して新しい木をーー」
宿が壊されてしまったフーリエですが、ガラン王にお願いしたところ快く……いや、半ばあれは脅迫ですね。
大陸では『寒がり店主の休憩所』は有名らしく、その名前を出したところガラン王はやる気に満ちた顔から一気に青ざめていました。
「フーリエは一体何者なんですか」
「……『心情読破』が使えないからわからないけど、とにかく凄い人みたい」
何度も心を読もうと試みるマオですが、まだ成功していないみたいですね。
「まあ良いじゃない。人には言えない秘密がいくつかあるみたいだし」
「そうですね。それよりも本当に今日出発で良いのですか?」
色々話した結果、僕達はこの慌ただしい中出発することになりました。
理由はやはり自称神から言われた『魔術研究所に行ってください』という指示です。
急ぎなのか、それとも自分のペースで良いのか分かりませんが、ここに長く滞在する理由もありませんし、それならいっそ出発しようとなりました。
「……フーリエの秘密を聞く前に出発とは、少し残念」
ボソッとマオが独り言を言うと、その部分だけ聞こえたのかフーリエが近寄ってきました。
「それは心配無いかと思います」
「何がですか?」
「色々事情はありますが、おそらく次に向かう土地は『岩の地・ミッドガルフ貿易国』ですよね。そこにあるワタチの店に行ってください」
「大陸展開しているのですよね。話は通してあるのですか?」
「はい。もう一瞬で話は通ってます。そうなっています」
鼻息をふーんと鳴らすフーリエ。相変わらずモコモコなのは変わりませんが、慣れると目だけでも表情がわかりますね。
「それと、今回はありがとうございました」
「へ? 私たち何かした?」
「はい。実はワタチとレイジは因縁があったのです。一度戦い、その時は逃げられてしまいました」
そんな過去が?
「そして長い月日が経ってしまい、レイジは念願の王国を作ることに成功。ワタチは手も足も出ずにこうして細々と隠れるしかありませんでした」
その割には大陸全土に名前が広がっているような気もしますけどね。
「……もしかしてフーリエという名前はあまり知られていない?」
「正解です。一部の人間にしかお話ししていません。殆どは店主さんとかマスターとか言われています」
「なるほど。それで、レイジは今回で消えたわけだけど、フーリエはこれで満足なのですか?」
僕の質問にフーリエは少し悲しい目をしました。
「ワタチには姉がいました。ずいぶん前に亡くなった姉です。せめて姉が最後に見送った『あの人』にもう一度会うことが出来れば、ワタチの目的は全て達成ですね」
フーリエの事情は色々とあるみたいですね。フーリエの会いたい人というのは誰なのか想像できませんが、モコモコしている人では無いことを祈りますか。
「では、フーリエを信じて次の土地へ向かうとしましょう」
そう言った瞬間でした。
遠くから兵達がゾロゾロと僕達の方へ向かってきています。
もしかしてまた逮捕ですか!
もう牢屋は嫌ですよ!
「……あの牢くらい、簡単に壊せる」
毎回マオと同じ部屋とは限りませんからね!
「トスカ殿。マオ殿。そしてシャムロエ……殿」
一瞬シャムロエの名前を呼ぶとき止まりましたが、おそらくレイジの言葉が引っかかっているのでしょう。僕が気にする事でも無いのですが。
「本日出発と聞いて、見送りをさせていただきたく参った」
「いえ、こんな大勢で」
「これは各兵達の意思です。マオ殿には悪魔を祓ってくれた恩義もある。せめて出発の見送りはさせて欲しい」
ガラン王、一日見ない内にやっぱり痩せていますね。これは用が済んだら一度帰って様子をみてみるのもありかもしれません。
「ありがとうございます。では」
「ええ」
「……うん」
僕はガラン王。フーリエ。兵士達。そして町の人たちに言いました。
行ってきます!




